スイートルーム逮捕事件

男は、ゲイ向けのエロ動画を撮るオジサンである。今夜も繁華街に出張してきた。うろうろしながら、被写体と言えば聞こえはいいが、素人モノAVに出演してくれそうな奴を捜し歩いていた。暇そうにしている奴を舐めるように見る。突発で撮影交渉して撮るんだから、金に困っていそうな奴がいい。オジサンにもノウハウと観察眼がある。

「300円あげるから!」
「300円で誰が動くかァァァ!」

(おっ、いい身体)

ふと目に留まったのは、目立つ銀髪のせいだろうか。その男に隣で絡まれている黒髪の男。黒髪の男は、着物の上からでも分かるキュッと引き締まった尻と腰。スタイルが良さそうだ。銀髪の方が体格は良いか。二人とも違った種類の色気がある。ざっと品定めしてから、なるべくにこやかに声をかけた。

「こんばんは〜。今ちょっと時間あります?」
 
 
***
 
 
「これからすぐ撮影したいんだけど、どうかな?300円どころじゃないよ。一人遊びなら1万円ずつ。オジサンがするなら5万円ずつ。二人ともカッコいいし、二人でヤッてくれるなら……10万…いや、15万はあげちゃうよ」

「二人でヤッて」と言った途端、顔を見合わせて「ケッ、誰がテメェみてぇなテク無しと」「それはこっちのセリフです〜、マグロ方トーシロー君に言われたくありません〜」とか言い合いを始めるあたり、昨日今日の付き合いの二人じゃないらしい。友達か何かだろうか。
黒髪の男は切長な目元に鋭い眼差し。瞳孔が開きっぱなしでガラも悪そうだが、顔立ちは美人系だ。ストイックな雰囲気にエロスを感じる。
銀髪の男は死んだ魚のような目をしている。少し獣臭いような、獰猛な危うさがある。あと金に困ってるんだろう。落とすならこっちからかと狙いを定めた。

「どうかな。サワリだけでも…こうしてずっとここにいるより、気持ちよくなれてお金もらえた方が良くない?」

薄っぺらい笑みを浮かべて、何も知らないカモに誘いをかける。銀髪の男は、ちらりと黒髪の方を見た。どうやら気にしているらしい。

「もちろん、君一人だけでも良いよ。一人でするなら、」
「んなとこにコイツ一人だけ連れていかれたら困るんだよ。俺はコイツを監視しなくちゃならねェ」

銀髪の代わりに低い声で答えたのは、黒髪の男だった。よく分からないが、ついてくるなら好都合だ。うまくホテルに連れ込めばこっちのモンだろう。踏んできた場数が違う。

「監視ってお前なぁ、さっき別れるだなんだ言ってきたのはなんだったワケ?」
「うるせぇな!……一時休戦だ」
「………えーっと、君も撮影するってことで良いかな」

オジサンはその沈黙を、暗なる肯定と受け取った。勢いで押してしまえ。早速、近くにあったラブホテルに予約の電話を掛ける。
ホテル“スイート”。全室スイートルーム仕様!そんな売り文句の、部屋の壁が真っピンクのホテルだ。

 
***
 
 
「俺たちのセックスに15万だっけ?んな価値があるなんて、信じられないんスけど」

ベッドの上でそう言い放った坂田金時くん(と本人が自己紹介した)は、シャワーを浴びてからこのかた下着一枚だ。オジサンはすでにビデオを回している。画面には金時くんのバストアップが映っていた。

「言うねえ。二人で撮影するならラブラブな感じにしようかと思ってたんけど、君たちってあんまり仲良くない感じ?」
「仲良くっつーか……なんだろうな。腐れ縁がドロドロに絡み合ってる感じに近いような……」
「ええ……っと。じゃあ、一緒にいた多串くんのことはどう思ってるの?」
「んなの、ムカつく野郎に決まってんだろ。さっさとオサラバして、この金でパフェ食いに行く方が楽しみだわ」

そんなインタビューをしていると、浴室からバスローブを着た多串くん(下の名前は教えてくれなかった)が出てきた。ベッドにいる金時くんの隣に座ってくれたから、これ幸いとオジサンは二人をフレームの中に収める。さて、ここからが本題だ。

──はい、二人揃ったね。金時くん、下着をずらしてみようか?

「おー、本気でやる感じ?つーか俺の需要あります?」

──あるある!金時くん良い身体してるしさ、バイト感覚でやってみようよ。

「まぁ金貰ったしやりますけど。……ハイ、どうぞ」

──おお、髪と一緒で色素が薄いのかな? 綺麗な色してるね。使ってる?

「まぁまぁっすね」

撮影を始めた。フローリングの床に立った金時くんは特に照れる様子もなくパンツを下にずらして、性器を露わにさせる。まだ萎えている性器をズームアップで撮影した。
黒髪美人の多串くんは警戒しているようだ。今も金時くんが性器丸出しでカメラに撮られているのを訝しげに見ているだけ。

──じゃあ今度は多串クンもコッチに来て、金時クンと同じ格好してくれるかな?

「お、俺も、っスか……あの…でも…」
「……えっとぉ、やっぱり俺だけでも」

──大丈夫大丈夫!ただ見せてもらうだけだから!何もしないよ!

「…………っ、は、はい……」

──へえ、意外と陰毛濃いんだ? 綺麗なピンク色してるちんちんだね。

「~~ッ、俺だって、使ったことくらい…」

ほんのり赤みを帯びた顔にカメラが寄る。顔から下へと徐々にアングルを移動させた。多串くんは眉間に皺を寄せて、カメラ目線ではなくそっぽを向いている。性器を撮られるのが恥ずかしいんだろう。フレームに映ってないけど金時くんは多串くんの恥ずかしそうな様子が気になるようでチラチラと視線を向けている。

──2人ともありがとう。……さて、じゃあ早速だけど、始めてもらおうかな。まずは軽ぅーく、キスとかしてもらえる?

はいはい、と金時くんが言った。多串くんはちらりとカメラのレンズを気にした。その仕草さえ、素人っぽいウブな可愛さがあっていい。さっきから思ってたけど、この子は中々優秀なネコになるんじゃないかと、オジサンは期待した。プライドと羞恥が絶妙だ。これだったら、一人遊び中にオジサンの手で扱かれてイっちゃう多串くんの撮影でも良かったかもしれない。嗜虐心が湧く。嬲りたくなる。虐めて可愛がりたくなってしまうのだ。悶々としていると、二人の唇が合わさった。

「もっと深く!」

カメラ越しに煽る。金時くんが多串くんの髪を撫でるようにして、ぐっと引き寄せた。おそらく舌が入った。くちゅ、くちゅ、と小さく水音がする。その接合部分をアップにする。互い違いになった口がとてもいやらしい。いい画だ。

「……金時くん、そのまま押し倒そうか」

言うと、素直に指示に従う。ドサリ、と多串くんの身体が広いピンクのベッドの上に倒れこんだ。覆い被さられて顔に影が差す。多串くんは気になるのか、また横目でカメラの方を見た。鋭く切れそうな視線と不遜な表情はどこへ行ったのだろう。頬を少し赤らめて、不安そうに名前を呼んだ。

「ぎ、……坂田……本当にするのか?」
「こんなイイ部屋でセックスできて金も貰えんだよ。何も言うことねーだろ」
「……でも…カメラが」
「お前、先月も雑誌にパパラッチされてなかったっけ?」
「……あれはふざけたゴシップだ。こういうのとは違ェだろうが。それにオジサンも見てるし……」

いざとなって恥ずかしさが増してきたのか。会話の内容はよく分からないが、多串くんはこの後に及んでぐずぐずし始めた。カメラに向けられる躊躇いがちな視線。これからだっていうのに。レンズフィルター越しのオジサンはまどろっこしくなって、にこやかにしていた筈なのについ舌打ちした。

「いやいやいや多串くん! ……キミね、ここまで来といて恥ずかしいから嫌とか言うつもり?それはないんじゃないのぉ?金時くん、早く続きやってよ!」
「……あー。俺は、この子が嫌なら別に」
「ああ? 金貰っといて何ヌルいこと言ってんの? オジサンはねえ、遊びで撮影してるんじゃないんだよ。オイほら、早く! 続けろって言ってんだよ!」

少し語調を強めると、金時くんは多串くんへ向き直った。バスローブの胸元に手をかける。カメラは寸分逃さず一部始終を撮っている。撮られたデータは焼き増しされて、知らない誰かの目に触れる。そう考えると、レンズはまるで集約された数十もの視線のようだった。物も言わず、静かに、二人の痴態を視姦している。多串くんは耐えきれなくなったのか、その目には羞恥のあまり涙が浮かんでシーツに零れた。それに気づいた金時くんの動きも止まる。なんで止まるんだよ。さっきのインタビューでは「ムカつく野郎」とか言ってたくせに、泣かれて怖気付いたのか。
微動だにしなくなってしまった二人に、オジサンは苛立った。早くしてくれ。早く。早く。カメラを持ったまま、二人の間に割って入る。バスローブの裾を捲り上げると、ピンク色した多串くんのちんちんを鷲掴んで乱暴に擦った。

「ほら、こうするんだよ!」
「アッ、やめッ……」

直接的な刺激に、否が応でもモノは勃つ。小さく拒絶の悲鳴が上がった。こういうのも、オジサンは嫌いじゃない。無意識に下衆な笑みが浮かぶ。なんて可愛いネコだろう。

「ふふっ、ふふっ。多串くん、可愛い……おっきくなってきたねえ」
「やだ……嫌だぁっ……!」
「多串くんの恥ずかしいとこ、ちゃあんと撮ってるからね。おっきくなったピンク色ちんちん可愛いよ。いっぱい撮ってあげようね」
「見んなっ…カメラ止めて……!あっ、あっ、こんなの……やだ……ダメだ……!離せよぉ!」

いよいよ涙を零して泣き出した。ああ泣き顔が可愛い。凌辱しているような気がして、オジサンの気分は更に高揚した。

「……金時くん。キミはもういいから。僕と多串くんがセックスするから撮って」

そう言って下着一枚の金時くんの手にカメラを預ける。返答はなかった。それか聞こえてないのかもしれない。オジサンの目線は多串くんに釘付けで、どう辱めてやろうかということで頭がいっぱいだった。300円、いや幾らでも金なら払ってやろう。本番までしたい。なんて色っぽくて可愛いんだろう、この半開きになって喘ぐ口。オジサンはその口を塞ぎたくなった。手を押さえつけて迫ると、多串くんは強く顔を背け、ほとんど泣きながら叫ぶように拒絶した。

「い、嫌だっっ!キスなんか絶対ェに嫌だ!!」
「なんでだよっ!!さっきしてただろ、その男と!同じだろうが!!するんだよ!!」
「ぜんぜん違ェ!お前となんか嫌だ!気色悪くて無理だ!……よろずや!よろずやぁ!」
「ヨロズヤ? 何それ。おまじないみたいな?」
「よろずやっ!テメェじゃねぇと嫌だ!はやくっ、はやく助けて……!」
「……おまじないかもなァ。それも効果テキメンのやつ」

その時、カメラを持っていたはずの男が、僕のすぐ目の前に立っていた。いつの間にか
──発火するような痛み。

「うわあァァァ! 何だーっ!?」

これは何だ。オジサンの血か。熱い。背中が、焼けるように、痛い。熱を浴びたオジサンは、驚いて転げまわった。

「痛いっ! うぐぁあ…痛いよぉ……!」
「やっぱりオジサンの金はいらねぇや。土方くんから300円もらうし」
「……この部屋にあるカメラとSDカード、全部ブッ壊したら考えてやらなくもねーけど」
「マジで? やるやる!……とか言って、最初からそのつもりだろ?」

オジサンの魔の手から解放された多串くんが、虫の息のオジサンの懐を漁る。ああダメだよ、そこには──違法薬物があったのに。見つかっちゃったか。「間違いねェな、クロだ。捜査協力感謝するぜ」。瞳を輝かせてそう言った。黒か。真っ黒い消し炭になって燃えつきた。オジサンの欲望と野望が消し炭だよ。ていうかこの二人、捜査って言ったか。素人とは思えない。これは、もしかしなくても、何も知らないカモだったのは。
結論が導かれるより先に「この子が嫌がってんのに好き勝手しやがってよぉ、殺してやろうか? 苦しんで死ねや」と物騒な声。
ああ、僕は今から殺されるのか。最初に会った時、獣の匂いを感じたんだった。正体は、これか、やはり近づかない方が──意識がなくなった。

その後。ゲイ向けのエロ動画を撮っていたオジサンは何とかギリギリ死なずに済んだものの、やったことの責任を取らされた挙句、大怪我を負い、AVのカメラもデータも再起不能なお釈迦になった。もちろんホテル“スイート”は法に触れたアレコレと器物損壊のせいで出禁。
多串くんが名前を明かさなかった理由も後々に分かることになる。てっきり一緒にいた金時くんも警察だと思ってたんだけど、違うらしい。あれきり一度も会っていなかった。そもそも馴染みも薄い町だから、結局『よろずや』の正体や本名は分からずじまい。だから詳細は不明だが、オジサンは『よろずや』が土方にとって最愛のダーリンではないかと主張した。
他の誰かが応援に来るまでの間、ずっと二人で抱きしめ合ってイチャイチャちゅっちゅしてたとか──いかつい真選組隊士に囲まれた取調室で暴露さながらの主張をしたのだが、信じる者は誰もいない。