銀さんの着物にムラムラする副長の話

目の前に立ちはだかる、高い高い壁。
それは男なんかに惚れてしまった自分自身の欲と、男なんかに惚れてしまったが故の自制心である。
 
 
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酔っぱらった万事屋に居酒屋で遭遇してしまったのが運の尽きといったところか、土方はものの五分足らずで『素面で酔っぱらいに絡まれる残念な客』となっていた。
店主などは慣れたもので、副長さん、旦那を持って帰ってやってよと笑う。今度マヨネーズ特盛にするからさ、とも。
土方が店主の言葉に頷いたのは特盛のマヨネーズが魅力的だったから、という理由だけではない。
勿論「マヨネーズ特盛」は魅惑の響きだけれど、至近の距離で「よろずやまでいっしょにかえろーぜ? なあ、ムシすんなよ、きこえてる?」とごねる男に思考が纏まらなかったというのが大きな理由だった。酒で体温が上がっている男は吐息までもが酷く熱くて。あまり耳元で喋らないでほしい。

「テメェ、重いんだよ! しゃきっと歩けねぇのか!」

行きとは打って変わり、土方の足取りは重かった。当然だ。さして自分と体躯の変わらぬ男を背中に背負って進むのが身軽とはいえない。しかし、特に暴れもせず己に背負われているだけの万事屋というのは新鮮で、何だか少し面映ゆくて、土方は口先だけの悪態を吐いた。

「ムリだって。おめーなら出来る、がんばれ土方ぁ」
「クソ……だいたい俺ァ飲みに来たんだぞ、なんでテメェを担いで行かなくちゃならねェんだ」
「とかいってやさしいんだよなー。んじゃあ、なんかしてやるよ、なにしてほしい?」
「もう喋るな」
「それ以外で」
「黙れよ」
「はぁ? おんなじだし。それ以外は」
「クルクルの天パを治してみたらどうだ?」
「……へぇ、そーゆーナマイキなコトいっちゃうんだ。お前、俺にバックとられてるのわすれてる? こーやってさ」

意味を含んだ笑いが聞こえた次の瞬間、

「んひ、ぁ! っ……ててててテメェ何しやがるっ」

首の後ろに火照った息を吹きかけられ、ぞくぞくした感触に肌が粟立った。変な声を上げてしまい羞恥に駆られるが、酒精で判断力が鈍っているのか銀時は特に嫌悪した様子を見せない。それどころか指でその部分を擽るように撫でられて、土方は堪えがたい気持ちを何とか押さえつけた。

「なーんにもー。おめーのうなじが、ぎんさんにさわってぇっていってたから」
「んなわけあるかっ。ぶった斬ってやら、ぅンッ…」
「ざんねんでした〜。土方くんりょーてふさがってるもんね。耳も弱いとかカワイー」
「テメェふざけんな!」
「天パをけなしてこれだけですむとおもった? あとは耳を舐める刑かなぁ」
「やったら捨てていく」
「…じょーだんですよ、じょーだん」

大人しくなった銀時に安堵の溜息が漏れる。悪ふざけも大概にしてほしいし、まさか酔っ払った万事屋は誰彼構わず耳を舐めるのか。
──そこまで考えた時に湧き上がるのが嫌悪感ではなく悋気なのだから始末に負えない。

「テメェ酔いが醒めたな?」
「あ、バレた?」
「チッ。なら歩け、重いし暑いんだよ」
「うん、土方くん汗の匂いする」
「嗅いだら捨ててくぞ」
「へいへい。恥ずかしがっちゃって」

戯言を投げつつストンと地面に降りた銀時の足取りに危なげなところは無い。
これなら大丈夫だろうと土方は踵を返した。女々しいけれど汗臭い身体で銀時に会いたい訳ではなかったし、全然酒も飲めなかったがこれ以上寄り道する気も起きないくらいに心臓が煩いのだ。

「じゃあな、気ィつけて帰れ」
「え、どこいくの?」

ヒラリと揺れた黒色の袖を、グイッと強めの動作で掴まれた。予期せぬ力に若干つんのめるが持ち直す。
──なんなんだ、コイツは。

「帰るに決まってんだろうが」
「まだ良いじゃねーか、茶くらいなら出すよ」

出涸らしだけど……と決まり悪そうに告げる声に思わず笑ってしまう。

「お前なぁ。客人持て成すのに出涸らし宣言してどうすんだよ」
「だ、だって嘘なんかついたってしょうがねェしよォ……でもウチいま俺しか居ないし、気楽だと思うし。お前、これからどっか飲みに行くんだろ」
「……いや、まあ、その」
「なら良いじゃねーか、どうせオトモダチも少なそうだしお前。付き合ってやるよ」
「上等だ! …あ? なんか立場逆になってねぇか、俺がテメェに付き合って……あれ?」
「はいはい、もうどっちでも良いよそんなもん。土方くんは細けぇな」

はァい出発ゥ~、とユルいアナウンスの号令で土方の手は連結された。他でもない銀時の手に。冷静を取り戻した土方が一人で歩ける、と振り解いたのは既に万事屋の看板が見えてくる頃だった。
なんだよつまんねぇ、そんな問題じゃねぇだろ、じゃあどういう問題だよ、そういう問題だよ、いや意味分かんねーし。栓のない応酬をしながら階段を上り、草履を脱いで廊下を進む。邪魔するぞと言うのが気恥ずかしくて、ぼそぼそとした挨拶になってしまったが銀時は咎めてこない。この時ばかりは万事屋がテキトーな奴で良かったなと思った。

「じゃ、……、からね、土方は寛いでて」
「な、なに脱いでんだ!」

目の前で片想いの相手がベルトを放り帯を纏めているものだから、土方はぎょっとして問う。銀時はやおら頭を掻いて呆れ顔をした。

「あのなぁ、今から風呂入ってくるって言っただろ」
「え、あ…そう、だったか」
「しっかりしろよー。眠いの? ボーっとしちまって」
「眠くねェよ!」

じゃあイイ子に待ってろよ、と子供に言い含めるような声音で銀時が白の洋装を脱いで長椅子の背に掛ける。黒のインナー上下のみの姿は彼の体つきを如実に魅せてくるようで、土方はなるべく見ないように努めた。はっきり言って目の毒で……見てしまったら手を伸ばして触れたくなりそうな悪い毒だった。

「……はぁ」

無意識に詰めていた息を吐き出すと、幾らか気分も落ち着いてくる。普段決して足を踏み入れることのない銀時の住処は何か特筆すべきものがある訳でもないのだが、惚れた弱みなのか銀時の家に居るというそれだけで鼓動が早くなる。
ふと、床にベルトと帯がほったらかしにされているのに気づいた。
一人きりの居間で銀時がシャワーを浴びている音が漏れ聞こえていて、土方は妙な想像を働かせるより早く手を動かしてしまおうと決める。ベルトと帯を几帳面にまとめてテーブルに置いた。
次に目に入ったのは先程脱がれたばかりの銀時の着物である。
向かって正面にあるそれは、くったりとした風情で椅子の背に絡げられている。じっと見ていると、我慢できなくなってきた。

────ちょっとくらい触ったっていいよな?

まだ銀時は風呂に入っているのだし、少しだけ。
持ち主に触れることが叶わぬならば、せめてこのくらいは。これに触れることが出来れば。
土方は向かいの長椅子に移ると、男の着流しを引き寄せた。引っ張れば簡単に傾いだ流雲模様。間近に見てしまえば最後、外聞なんてどうでもよくなった。

「…っ、……」

ぎゅうっと胸に抱えてみる。
矯めつ眇めつしてみると、白い毛が背中にくっついているのを発見した。少し眺めて、飼っている巨大な白犬、定春の抜け毛だと気づく。見ればあちらこちらにあって、遠慮なくじゃれつかれた事が窺い知れた。想像して思わず笑みが零れる。
そうしている内に、微熱のような欲が膨れ上がった。だがこれは、流石に少し変態めいていると自覚していた。だからやめようと思っていた。
……思っていた、はずだった。
しばらくの間を置いてから、土方はそろりと、顔を近づける。…だめだ、こんなんじゃ足りない。
ぎゅっともう一度抱えなおし、土方は銀時の胸元──正確には銀時の着物の胸元──へ顔を寄せた。すんすん、息を吸う。甘い匂いと洗剤の匂いと、これはなんだろう、嗅ぐだけで安心できる、そんな匂いがした。

「……よろずや」

口にすれば溢れ出てくる、どろどろした背徳の蜜。土方の身体の芯が貪欲に吸い取って行く。
すんすんすん、何度も繰り返して銀時の残り香を堪能した。
胸を突くのは、腐れ縁としての温情と責任とを放棄した事実である。反省しているし侘びたいとも思う。けれど土方は微かに残った恋しい銀色の面影を重ねては、言い知れず胸をときめかせた。顔を押し付けて、心ゆくまで甘い日向の匂いを嗅いだ。焼き鳥を食べていたのに、タレや食べ物の匂いがしないのが不思議だった。
こんな行為をしても無意味なのは理解していた。不毛な行動だし不毛な想いなのだと、報われない性欲と悲哀と絶望とが忽ち土方の胸を襲った。
さらりと柔らかい感触を腕の中いっぱいに感じて、土方の世界はそれ一色に塗り込められ満ち満ちていた。

……やがてするりと、土方の右手が着流しの裾を割って下着の膨らみを撫でたのは、本能が理性を噛み潰した瞬間だった。
既に硬く反応していた自身を下着越しに触れば、腰がピクンと跳ねた。
たをやめのような声を上げるのは何としてでも避けたかった。銀時が来てしまうかもしれない。
しかし、意思と反して土方の右手はスリスリと屹立を撫で回す動きをやめてくれない。

「ん……ああッ! はッ……う、ぁんッ!」

堪らず、目の前にあった襟を口に含んでやり過ごした。ハムハムと食んでは鼻だけで呼吸する。
はしたない声を吸収してはくれたが、染み込んだ銀時の匂いが噛み締めた口腔内や押さえつけた鼻腔から土方の中に入り込んできた。 中も外も、銀時で満たされてゆく。一方的な想いだと解っていても、そんな甘い錯覚に溺れていたかった。

「──土方、何してんの?」

静止。
火照った身体へ、冷水を痛いくらいにぶちかまされた。

「……ぁ」

ギシリと硬直する肢体。漏れた声すら掠れていた。冷たい寒さに震えるばかりで、平生の明確な言葉が出ない。
黙ったまま返事をしない土方に、甚兵衛姿の銀時が風呂上がりで少し上気した顔を不機嫌に引き締める。

「なぁ、なにしてんのかって聞いてんの。俺のベルトと帯は? 机になんて置いた覚えねぇんだけど、オメーが畳んでくれたの?」
「………っ」
「答えろよ。土方」
「……よ、よろずや」
「それやめてくんね?」

屋号で呼ぶな、と。
銀時は煩わしそうに命令を下した。こんな、鼻を埋めて着物の匂いを嗅いだり、あまつさえ性器を弄くり回す変態野郎には屋号ですら呼ばれたくないと、そう言っている。

「土方。聞いてんの?」
「き、てるから、…ッ」

発せられる冷えた声に、思考まで制限されているようだ。自分の顔色が赤いのか青いのかも判別出来ない。さぞかし情けない顔をしているのだろうとは、分かるけれど。

「あー……もしかしてなんて呼んだらいいか分からないんだ? そういうコト?」
「……あ、あの、えっと」
「銀時だよ。銀時ごめんなさい、って謝れ」

見上げれば、ニヤリと笑う想い人がいた。否は許されない命令に、しかし怒りは見えなくて。土方は不思議に思いながら、口を開く。

「……妙な真似をして、すまなかった」
「違うだろーが。銀時ごめんなさいって言うの」
「っ、…ぎ、銀時……めんな、さい」
「しょーがねェな。俺さっきお前に『イイ子に待ってろ』って言わなかった? 十四郎くんはぁ、そんな約束も守れないんでちゅかー?」
「っ、…てめ、」
「ごめんなさいは出来たけどよ、悪い子にはお仕置きしてやらねェと。……そうだよな?」
「や、…嫌だっ、やめ……!」

本当に子供を相手にするような調子で宣い、銀時は土方の乱れた着衣に手をかけた。

「何してたの? 俺の服だよ、コレ。ボインの姉ちゃんの服じゃねーよ?」
「知ってる、そんなこと……あっ、触んな!」
「何してたの?」
「…っ、匂いを……嗅いでた、……テメェの、匂いがして……その」
「えっちな気分になってきたんだ……? 今みてぇに」
「い、今はえっちな気分になんかっ」
「嘘つき。パンツの中でビショビショに泣かせてんだろうが、お前のチンコ」
「さ、わんな……っうあ?!」

ズルっと下着を下される。ウエストのゴムが一瞬だけ勃起に引っかかっるけれど、銀時は何の躊躇いもなく土方の屹立を露出させた。土方は羞恥のあまり股間を隠そうとするが、その指はやんわりと咎められる。

「隠すんじゃねーよ、土方のチンコがどうなったのか見せるってのがお仕置きなんだから。…先っぽ、赤くなってカチカチだな」
「ふ、ウゥッ……やだ、あっ」

スルリと筋の浮いた幹を揶揄うように撫でられ、土方は腰をひくつかせた。

「ンン……あっ、あっ! てめ、見るだけって言ったじゃねーか……っ」
「見せるだけなんて言ってねーよ。俺の服でオナってた変態に拒否権なんかねェだろ?」

銀時はにべもなく言った。しかし、その言葉を言わせたのは自分なのだ。浅ましい欲に浸っていた自分が悪い。土方は続けざまに文句を放ちかけた口を閉じた。銀時はニコリと微笑み、土方のペニスをピンと弾く。鈍い刺激は少しの痛みと多大な快楽を孕みながら土方の官能を駆け巡った。

「ひっ…! アァアッ、ンう…!」

とろりと白い粘液が溢れ、銀時は躊躇いなく舌でぬかるみをかき混ぜる。ひぐ、と悶える土方に構わず、袋にも赤い舌を絡めた。ジュウッと吸い付けば、躊躇うような悦の声が上がった。

「く……っ、ァァァ!」
「なぁ、イきてぇ?」

クリ、と鈴口を丸く撫でながら銀時が問いかける。
しかし、土方は銀時の顔を見られなかった。口には出せぬ羞恥と自責のオブラートが、目の前に居る銀時の姿を歪ませる。

「泣くなよ」
「な、…ぃて、ね、……!」
「泣いてんだろ。意地悪しすぎた? ハジメテなのに俺にペニクリ見られて恥ずかしいね〜、ガチガチに勃起させて……ほら、ここでしょ」
「ヒッ!? っああァ! ゆるして……!はっ、ぁあ!ぅああ!」

粘液が溢れる幹は発情して過敏になっている。浮き立った裏筋から先端を指の腹で抉るようにぐりゅぐりゅと擦られ、土方はビクビクと肢体を跳ねさせた。縋りつくように白い着物を抱きしめると、目の前の相手とは違って優しくて甘い匂いがする。思わずほっと息を緩めた。
しかし、目の前の相手はそんな土方に視線を尖らせた。

「何してんの。服に抱きついたって意味ねェだろうが」
「……ッ」
「なあ、オイ。はしたねェペニクリ慰めてくれんの、俺くらいしか居ねェんじゃねーの? 服はンなことしてくれねーだろ」

こっち向け。服なんか放って俺の方へ来いよ。詰るような語気で紡がれる言葉を聞くのが、居た堪れなかった。土方とてこの男が、本当は優しくて甘いのを知っている。自分がそれを壊してしまったなら、自分はこの男に、銀時に、顔見せする資格はない。情けない様を晒して、これ以上疎まれるのが、嫌だ。
はぁ、と矢庭に溜め息が吐かれて。ギクリと身を硬くする土方に、場違いな苦笑が落とされた。

「……分かった分かった、降参。土方くんはさ、俺の服がそんなに好きなの? さっきから、皺くちゃになるまで抱きしめてるけど」
「………」
「腹立つんだよなぁ。俺よりソッチ? みてぇな」
「………え?」
「俺のことなんかハナから見てくれねェんだろ、お前。そんなのって酷ェし……虐めたくもならァな。そう思わねェ? 土方は俺が嫌いなんだろ」
「なっ…!? ……よろずや、おれは、違ぇんだ!…お、俺は……ただお前が」
「ストップ。顔を見せてくれねぇと、信じねェぞ」

着物に埋めていた顔は、頬に布地の跡がついていてもおかしくない。カッコ悪いと笑われるかもしれない。だが不思議と躊躇いはなかった。銀時の瞳が穏やかな色を燻らせているのを土方は正面から見つめる。

「……嫌い、じゃねぇよ。俺はお前が、……好きだった。ずっと、ずっとだ」
「好きだった、か。もう嫌いになっちまった? 俺が無理矢理チンコ弄くり回したから」
「……バカ」

嫌いになるなんて、有ろうはずがない。銀時は言わずとも理解ってくれたのか、綻ぶように笑う。優しすぎるくらいの手つきで頬を撫でられれば、そこから愛おしいという想いが伝わってくる。

「……じゃあ仲直りしよっか。嫉妬しちまうから、土方くんは今すぐ俺の服から手を放してくんない? ……そしたらイイコトしてやるよ」
「イイ、コト……?」
「おう」

──服なんかじゃなくて、俺がお前のこと抱きしめてやるから。
言葉とそれの持つ意味を理解した瞬間、土方は両手を回して、銀時の身体にぎゅっと抱きついていた。
耳元で「ここ硬くなってる。勃ってるのつらいだろ? イっちゃおうか」と蜜の滴るような囁きが零れる。甘ったるくて、面倒な煩悶をする気持ちが溶けていく。土方は声もなく素直に頷いていた。

「ほら土方、緊張しすぎ。力抜いて」
「……うぅ」

向かい合わせに抱き合った土方は今になって羞恥を覚えたらしく、銀時の着流しでさり気なく下肢を隠したが、銀時は咎めなかった。スルリと着流しの下から手を突っ込み、緩く兆したペニスを握る。いやらしい動作、それだけで芯を固くする土方の従順さに熱情と劣情が押し寄せる。

「あっ…! んんん」
「土方きもちい? 俺に弄られて気持ちいいの?」
「きもちぃ……銀時ごめんなさ、きもちいぃ…っ」
「もう怒ってねえって。そんな顔しちゃって土方くんは可愛いな……もっとスケベなとこ見せて?」

──このまま射精しろよ。
命令にも似ている戯れの言葉に、土方は息を呑んだ。この着物に射精しろと、銀時はそう言ったのだ。
そんなこと、出来ない。してしまえば、万事屋の……恋しい銀時の衣服が汚れてしまう。汚れるどころか、自分のいやらしいヌメリで、使い物にならなくなってしまう。銀時も、銀時の衣服についた匂いも温もりも、全部が好きだから。

「い、やだ……っ!」
「嫌なの? じゃあ土方のエッチなとこ、もっとヨくしてやろうか。トロトロの先っぽ、ぐりぐり~って」

ぐりゅりゅ、ちゅぐ、ちゅぐ。
粘ついた音と一緒に淫らな汁が泡立ち、鈴口を銀時の親指で押し込むように抉られる。ビリビリと快楽が流れ、足の指先がキュッと丸まった。

「ひいっ! あんんんっ、あっあっ…!!」

思わず腰を捩るけれど、逃げられないようにか抱き寄せられた。

「おいおい土方、腰浮いてるよ。ダメだろ、ちゃんと座ってねェと」
「あんっ!く、ううん…、ぎん、やだぁ」
「こっちも、パンパンになっちゃってる」
「アアアッ!」

双珠の形を確かめるようにやわやわと揉まれ、土方は悲鳴にも似た嬌声を上げる。そんなところを握りこまれると、本能的に竦んでしまう。

「大丈夫だよ。優しくするから……エロ汁でヌルヌルマッサージってどうよ?」
「は、恥知らず……っ」
「いや、ぬるぬるしてんのお前のエロ汁だからね。……恥ずかしい子は土方くんでしょ?」

くにゅくにゅと優しい力加減で揉み込まれ、下腹が熱くなる。吐息すら熱く濡れる。恥ずかしい子だなんて、そんなの認めたくないのに、銀時に触れられてしまえば堪えられない。

「そろそろイってみる?」
「だから、イかねぇよ……っ!」
「じゃあ触るだけね。シコられて、イくのもイかないのも、お前の自由」

蜜が滴る幹を再び握られ、上下に擦られる。見知りすぎた快感に、土方の背中が反った。
奇しくも屹立を突き出す体勢になってしまい、銀時は笑みを深める。じゅこじゅこと上下させ、括れから亀頭を磨くように擦る。
『自由』とは名ばかりの責めに、土方はいやいやと泣きそうな表情で静止を請い、涙が溢れて眦を伝う。嗜虐の性を煽られ、銀時はどうしようもなく興奮した。

「ハッ……可愛いぜ、頑張れ頑張れ」
「ひ、ぁ…あああ! んん、フゥ…」
「気持ちよくなってきたな。我慢できねぇよ、土方くんのココは」
「は、はぁっ、いく、いく、あああっ…」
「うん、おちんぽイッちゃうの?」
「やぁ、やだ、もっ、も、おちんぽしごかないで、おちんぽイッちまうぅ…」
「しごくとイッちゃうの? ここ?」
「やだ、やだぁ、ぎんとき、ぎんときっ服取ってぇ…ハッ、あっあっあ!」
「我慢しなくていいぜ、好きなだけぶっかけろよ……おら、イっちまえ!」
「~~~~っ! っ、ひ……ッ」

ぐりりと先端に指が潜り込み、ちゅくちゅくと素早く這い回った。土方は目を開いたまま、声もなく絶頂する。
熱に掻き乱れる土方の潤みきった瞳は、陶然とした銀時の微笑みに気づかない。銀時が流雲の着流しを持ち上げると、ドロドロに溶けきった白い欲情が粘つく糸を引いた。

「……見ろよ、ほら。ぐちょぐちょしてる。すげェやらしい」
「…っ、そんなもん…見せンな……」
「恥ずかしいの? お前のザーメンだよ。出したてホカホカ…湯気とか立ってるんじゃね?」
「も、もう最低だぞ、テメェ……っ!」
「ええっ!? わ、悪かったから泣くなって!」

あやすように背中を摩られると、強張った肩の筋肉も解れていく。
口では卑猥な囁きばかりして土方の羞恥を煽り立てたし、右手は意地悪な手つきで土方のペニスを辱しめた。
しかし銀時の左手は、苛めている最中も、ずっと優しく撫でていてくれた。愛されているのだと実感出来て、達する時も、銀時の汗と石鹸と体臭の甘さを、心ゆくまで嗅いでいた。首に手を回しても銀時は嬉しげに口角を上げ、土方のペニスを上下に擦り立てた。そうされてしまうと力が入らなくて、土方は銀時にますます縋り付いてしまう。柔らかな銀髪と高い体温をいっぱいに感じて、その時、土方の世界は銀時一色に塗り込められ満ち満ちていた。

「グスッ……う、ぎんとき……ッ」
「土方ぁ……ごめんね。泣かないで。もう苛めたりしねェからよ、今日は」

──今日は。既に不穏な予感がしなくもないが、銀時は普段見られない至極誠実な表情で誓いを立てて、土方の唇に触れるだけのキスをした。

「ん、ん…ふ、あ……銀とき。もっと」
「土方くん最高。マジで好き。ほんとに好きだよ……っん、ふ」

マジもほんとも一緒だろうが。これ以上は辛抱できず首元にしがみつくと、銀時はすぐに蕩かすような舌で土方の希望に応えてくれた。
顎に添えてくる右手は左手より大分しっとりとしているし、格好いいんだか悪いんだか何なんだか、もうよく分からないけれど。
それでも今こうして引き寄せた先に坂田銀時という男がいることが、キスで交わし合う体温が、伝わる想いが、どうしようもなく幸せだと思った。