想いの先を垣間見る

 身体に違和感があった。目覚めた時から、既に。この部屋がどこにあるのかは分からないが、恐らく江戸だとは思う。場所はとにかく、何のための部屋なのかは見ればすぐに分かった。手の届く枕元にローションのボトルやら避妊具の個包装が用意されている部屋なんて、要するにアレでナニをするそういうホテルの一室だろう。すぐ下の床に片膝を立てて寝入っているのは、見知った男だった。『見知った』どころか、土方が密かに慕っている男だった。不真面目でいい加減なように見えてお人好しで、口ではぶっきらぼうに文句を垂れるが困っている者には手を貸してくれる、万事屋稼業の男だ。土方のことは気に入らないのか、小馬鹿にしたように接してくることが多い。脈などある筈もない不毛な岡惚れであった。それでも土方はかぶき町に赴くたびに、今日は綿毛のような白いモフモフを見かけやしないかとこっそり視線で探してしまうのだ。
 見かければドキリと胸が高鳴る。相手が顔を顰めるのを見て、こちらも眉間に皺が寄るのだが、くだらない口争いをしている間は心が弾んだ。その日一日がイラつく業務内容だったとしても頑張れる。
 真選組副長として市民を守るのは務めだが、男は土方よりずっと強かった。そんなところも気に入らない……なんて嘯いて、本当は決して折れないその姿に憧れのような気持ちを抱いたことがある。その事実がバレないように蓋をしつづけているのだ。
 飄々とした掴めない態度の下で、揺るがない信念を持っているのを幾度も見せつけられた。救われてきた。男は二年前のあの日、何もしていないなどと憎いことを言ってくれたが、決してそんなことはない。男がいつか自分のことを忘れてしまったとしても土方だけは忘れない。いつだってあの日々を、激動の時代に得たものを、自分は強く覚えているだろう。
 前置きが長くなった。しかし、なぜこの部屋に、惚れている男が────坂田銀時がいるのかが分からない。呼んだ覚えなどあるわけがない。そもそもこの部屋に入った記憶がない。ただ、銀時は本来ここにいてはならない、いるはずのない男である。銀時は明日、十月十日が誕生日なのだから。
 誕生日だというのに、家族でも大切な相手でもない、腐れ縁の関係である自分なんかと過ごしていていいわけがない。

 土方はこの部屋で目覚めた当初、銀時をすぐに起こそうとした。しかし、土方よりも眠りが深いのか起きてくれない。昼間散々寝てるようなツラしてるくせに何なんだよと思いつつ、銀時に目立った怪我や異常がないことだけを確認して、一人で脱出方法を探していたところだったのだ。というのもこの部屋、妙なことにドアを押しても開かないのである。もちろん引くのも試した。しかし開かないのである。何者かの思惑の上にあるのか。術でもかけられているのか。土方はこのおかしな部屋から脱出する方法を探す為に部屋を自らの足で確認して回った。
 ……時間が経過すればするほど、目覚めた時に感じていた身体の違和感は広がっていく。血液に乗ってじわじわと熱が循環される。その『違和感』に、とうとう堪えきれない吐息が漏れていた。

「ん、は……ぁっ」

 着流しの布が擦れる僅かな感触ですら悩ましい。
 息が上がり、頬が上気していく。頭の中にはやましくも淫らな考えが広がっていって、おそらく催淫剤のようなものを体内に投与されたのではないかという結論に行き着く。おそらく、というか多分そうだ。そうでなければこのヘソの下を這い回るような熱を説明出来ない。厄介なことになった。ただでさえここから出られなくて四苦八苦していたというのに、こんな受難が待ち受けているなんて。
 あれから更に時間が経っている。流石にいつ銀時が目を覚ましてもおかしくはない。
こんな状態の自分を見られてしまっては自尊心が崩れてしまう。みっともないところは見せられない。なんとかして部屋を脱出しなければならないと、頭ではわかっている。……わかっては、いるのだけれど。
 眠っている時間が長いという状況から見て、催淫剤を盛られたのは自分だけだろうとは思う。いや、願わくば銀時は無事であってくれという勝手な希望に近いのかもしれない。土方はもうまともに立ち上がって歩くことも儘ならなくなっていた。近くの壁に身体を寄せて、息を整える。冷たいシャワーでも浴びるべきか。……これから一体、どうしたらいいのか。発情して今にも本能に呑まれてしまいそうな思考回路で必死に考えた。

「……土方?」

 寝起きの所為か低く穏やかな声にビクリと反応してしまった。思わず顔を上げると、珍しく心配そうな顔をした銀時がいた。しまった、と思う。余裕がなく、近づいてくることにすら気づけなかった。足音にさえ気が回らなかったなんて相当だ。近寄って様子を伺おうとする銀時の前に手のひらを突き出し、それ以上は近寄らぬように牽制した。

「おい……土方? 大丈夫かよ」
「気にすんな、平気だ……それより、寝坊助やってたお前に頼みがある。起きたんなら、俺のことは構わねェから……ここから出る方法を探してくれ…」
「…なんなの? ここは」
「わからねぇ。ただ、ドアと窓は開かないみてぇだ。蹴っても、ビクともしやがらねぇ……てめェも」
「それはやってみるけどよ……お前マジでどうしたの? 熱でもあるみてぇな顔して」
「! …大丈夫だ。少し休めば治る。それより、早くここから出た方がいいんじゃねーか」

 銀時は訝しげな様子だったが、早めにここから出る方が得策だと判断してくれたらしい。
 立ち上がって部屋を見渡したり、同じように検分した後に攻撃体制に入ってくれた。万事屋の馬鹿力が通じますように、と切に願った。この部屋がただの部屋ではなく、攻撃力に関係なく衝撃を無効化するような仕組みならば最悪だ。そうなった場合、部屋から出る手段が思い付かない。連絡手段も絶たれている。他に出る手段があるとしても今の土方には調べ回る気力がない。
 打撃するような音が遠くに聞こえる。正確に言えば近いのだが、壁を隔てたようにぼんやりと聞こえてしまう。
 まずい、薬の効果が広がっている。薬だとすれば治まっていくだろうけど、今はその気配すらない。辛くてたまらない。
そして、今、出来れば銀時の姿を見たくなかった。やましい気持ちを抱えているのを知られたくない。そうこう考えているとあたりが静かになった。開く気配のなかった扉だが、ついに開いたのだろうか。だから、攻撃を止めたのだろうか。
 ……そうだったらいい。早く出してやりたい。
 銀時はこんなところに、自分なんかと二人で閉じ込められてはいけない。こんな訳の分からないホテルの部屋ではなく、待つ人のいる家がある。成長した従業員達二人と、元気に出迎える大きな犬一匹が待っている。今日は特別な日だから、かぶき町に住む他の仲間達だって待っているのかもしれない。貧乏くさくともあたたかい家に。
それがこいつのいるべき場所だ、と土方は固く信じている。銀時に惚れているのは事実だが、こんな風に銀時を閉じ込めてしまうことなど、望んでなんかいなかったのに。

「万事屋……出られたのか?」

 土方が沈黙の中で言葉を待っていると、銀時は「あー」だとか「うーん」だとか「えーっと」だとか、とにかく煮え切らないうだうだとした声を溜息混じりに漏らすばかりであった。

「さっさと言えっ。何か分かったのかよ?」

 焦れったくなり思わず急かせば、彷徨わせていた視線の照準が土方に合わせられる。逸されなくなった視線に熱が込められているように見えるのは、身体を駆け巡る熱のせいかもしれない。疾しい気分になってしまうから、そんな目で見ないでほしかった。

「土方」
「なに……、?」
「出る方法がわかった。つーかお前、全然大丈夫じゃなさそうじゃねーか……ほら、来いよ」
「いい! いいから……! それより、早く出ようぜ。てめェは前科があるから心配されててもおかしくねェ。ガキどもが心配しねェうちに、さっさと帰った方がいい」
「…………」
「……万事屋?」
「……セックスしないと出られませんだって」
「は?」
「だから、セックスしないと出られねェんだってよ。この部屋」
「……???」

 俯いていた顔を上げると銀時は至って普通の、いつも通りのぼんやりとしているような、不遜な表情をしていた。銀時曰く貼り紙があったらしく、貼り紙を破っても破っても再生してしまう、らしい。
 食えない性格ではあるけれど、こんな状況で銀時が嘘や冗談を言うとは思えない。つまりは、そのおかしな貼り紙はこのおかしな部屋の一部であり、土方と銀時の攻撃がどちらも通用しなかった今、頼れるのはそのイカれた指示だけのようだった。

「な、…なんの……ために…」
「さあな。……土方くんさ、やっぱりおかしいだろ」
「…………」
「……何かされた?」
「……………多分」
「ハ……ったく、なんでこんな……こっち向け」
「いやだ……ッ、触んな」
「やだじゃねーよ。ガキじゃねーんだから……こっち向けって」

 頬に手を添えられて、逸らしていた顔を正面に向けられる。目が合う。きっと今の自分は情けない顔をしている。この大きな掌に劣情を抱いていることに気付かれたくない。

「んー……顔色は悪くねェし、体温も下がってねェ。毒じゃなさそうだな。催淫剤とか、そういう類のヤツ?」
「……、ん、ぁ……見るな、やめ……」
「どうしてお前だけに盛られたんだか知らねェけど……まあ…事を進める為だろうな。……で、なんで土方くんなんだか。どっかの変態ヤローが美味しくいただく為に連れて来られたのかな? お前ってそういうの似合いそうだもんなァ」
「……う、るせ」
「……ま、誰が来たって触らせねェけど。悪いけど我慢しろよ」

 思考が纏まらず、フワフワとしている。よく理解しきれていないままぐっと抱き寄せられて、軽々と持ち上げられてしまった。揺れる視界。肩に額をつけると、いい匂いがする。つーかなんでいい匂いするんだよ。マダオのくせに、毛玉のくせに。悪口だって言いたくなる。あっという間に広いベッドに降ろされて、銀時は土方と正面から向かい合うようにして座った。近くに寄られて、こんなのマトモじゃいられない。

「よろずや……ッ、待て……! やっぱり、」
「待たねえって。結局は抱くんだから」
「うぅ……なんでそんなに冷静なんだよ……」
「冷静じゃねーよ。……冷静なわけあるか。土方くんが不安にならないように、そう見せてるだけ」
「……ほんと、か?」
「ほんと。すげぇ緊張してますよ、銀さんも」

 なだめるように背中をポンポンと叩かれる。それだけでも声が出そうになってしまって、下唇を噛んだ。
 銀時は土方の顔を覗き込んでくるけれど、止めてほしい。そんなにじっと見つめられたら、嫌でもそちらに視線を飛ばしてしまう。銀時は少し息を上げていて、熱の帯びた目でこちらを見ている。心がまた忙しなくなる。

「……しなきゃ、駄目か……すげぇ、恥ずかしい……」
「それしか方法が無さそうだからな、今のところ」
「う……こ、怖ぇよ……」
「……俺が?」
「………」
「副長だからってわけじゃなくてさ……俺のこと、お前は結構しってると思うよ? 今更、俺の何がこわいの。万事屋を解散したけど再開した、万事屋銀ちゃんの坂田銀時だよ」
「ばかっ……そんなのは…しってる…」
「優しくしてやるから、始まる前からそんなカオすんなって。男とヤったことはねぇけど、やり方くらい分かるし……痛かったら俺のこと蹴っていいし」
「……自分がどうなっちまうのか、わからねぇんだ」
「ああ、なるほどな……うん」
「よろずやっ、あの……俺が、どんなに情けねェことになっても……はしたねェって、嫌いにならないでくれ……」

 俯いて消え入りそうな声でそう言うと、銀時の息がぐっと詰まるような音だけが聞こえて、返事が返ってこなかった。男のくせに、不安のあまり女々しくて変なことを言ってしまったと思い様子を伺おうとしたら、顔を真下に向けたまま深呼吸をしていた。

「危ねぇ……あとちょっとで襲うところだったわ。カッコつけてたくせに世話ねェな」
「よろずや……?」
「あのな、お前のこと嫌いになんてならねーから。絶対ならねーから……心配すんな」

 グッと肩を押されるように押し倒された。僅かに明るい天井の明かりも逆光に変わり、銀時の顔に影が掛かる。熱がどんどん集まってきて沸騰でもしそうだった。見ないで欲しい、でも、もう、駄目だった。身体の欲求は堪えきれず、別の方向に向かっていた。
──早く、触ってほしい。早く、早く。
 理性が溶けて、銀時しか見えなくなる。銀時のことしか考えられなくなる。
 身体が熱くてたまらなくて、銀時の首に手を回す。銀時は触れるだけのキスをしてくれた。それだけでは足りなくて、唇を柔らかく食むようにして誘う。何度か繰り返すと、銀時の舌がぬるりと入ってきた。舌をぢゅう、と音を立てて吸われてビクビクと感じてしまう。溢れそうになる唾液を一生懸命に飲みこむ。ずっとこうしていたいくらい気持ちよかった。
 銀時はキスをしながら器用にベルトや帯を抜き去ると、土方の着流しにも手をかけた。帯が床に落とされると、はだけた胸元が露出する。包み込むように胸を揉まれる。女と違って触り心地の良い胸なんてあるわけがないのに、銀時に優しく力を込められると、それだけで臍の下がキュンと疼くようだ。唇が離れ、耳元に舌を這わされる。

「…っひ、ぁ」
「……は…、土方」
「ぁあっ……ぁ、や、だめ……だめだっ」
「かわいい、土方」
「ぁ、ぁあ…! や、ぅ…っ」
「……耳、弱ェんだ?」
「んぁ、っひ、あ…!」

 耳朶を執拗に嬲られる。ぞくぞくとした感覚がずっと襲ってきていて、思わず銀時の腕を掴む。構うことなく耳から首筋、鎖骨へと唇と舌を這わせて、味わうように丁寧に舐め上げた。チュッと音を立てて鎖骨に吸い付くと朱い花が咲く。土方が身を震わせた。
 隊服からは見えねぇようにするからと心の中で謝りつつ、我慢がきかずもう一度吸い付く。それから、しなやかに弾力を返していた胸筋ではなく、淡く色づいた乳輪に指を伸ばした。自慰する時も触ったことがない場所に、土方が息を呑む。

「よろずや、そんなとこ……っ」

 クルクルと撫で回され、土方は膝を擦り合わせた。自身が緩く刺激され、余計に感じてしまう。
 土方の抵抗がないことをいいことに、銀時は焦らすように乳輪をなぞっていた指先を、ついに興奮でピンと勃ってしまっている突起へと触れさせた。

「はぁ……! ぁうっ、んッ」
「乳首コリコリしてる。勃っちゃった?」
「違うっ……胸なんて、感じてねぇ…ッ」
「へぇ。じゃあ、くすぐったいとか?」

 伺うように顔を覗き込めば、土方は困ったように視線を逸らす。銀時はきゅっ、と乳首を指で摘んだ。

「あッ!」

 唐突な刺激に土方の背中が反る。くりくりと乳首を指の腹で捏ね回すと土方が快楽に濡れそぼった声を上げた。

「土方?」

 名前を呼ぶ声に反応したのか、縋るような顔をしている土方と目が合った。

「っ、よろずや」
「身体ビクビクしてる。やめようか?」

 やめる気なんか更々ないのに白々しく問いかけると、土方の首が健気にも左右に振られる。

「嫌ならやめてやるからな」

 優しく優しく声をかけ、左右の乳首を同じように捏ね回し始める。

「……っ! あっ、あぁ、」

 土方が堪えきれず甘い声を上げた。

「は、あっ、やっ、変っ、ろずや、…変だっ、んぁぁっ!」

 爪先で弾くように乳首を刺激され、声を我慢出来なくなったのか土方が「変だ」としきりに訴える。

「なにが変? 気持ちいいのは変じゃねーよ」
「気持ち、い? ……っ!?」

 銀時に言われて、ようやく身体を責めさいなむ刺激が快感であることに気づいたようだった。

「やぁ、なんっで…あ、うそっ、ふ、んぁ…」

 快感を感じていることに戸惑いを感じている土方。不安気に彷徨う瞳が、助けを求めるように銀時の瞳をとらえた。

「感じてるんだ、土方くん」

 嬉しそうな銀時の声を聞きながら、今まで一度も感じたことのない性感に、土方はシーツをギュッと握り込む。

「あ、んぅ、な、んでっ…! 今、まで、こんな…なかった、んはぁっ!」

 腰に響くような快感を得て、土方が信じられないと首を左右に振る。乳首だけで声が押さえられないほど感じるなど、信じられなかった。銀時はより快感を与えるため、乳首への愛撫を指から舌へと変える。

「はぁっ、ん、あぁっ!」

 ぷくりと膨らみ赤く色づいた乳首を舌先で擽るように愛撫されると、土方の腰が跳ねる。我慢出来ないと言うようにシーツを握る指に力が込められている。

「ひ、あ、あ、あぁっ」

 舌で乳首を刺激され、ビリビリと電流のような快感が土方を襲う。舌先で押し潰すように舐められたかと思うと、次はちうっと吸いつかれる。

「はぅ! …ん、くうんっ!」

 びく、びく、と跳ねる土方の腰に、銀時はにんまりとほくそ笑んだ。

「すげぇクる。土方、もっと聞かせて」
「よろずや……っ」

 銀時はベッドのサイドボードへと腕を伸ばし、置いてあった小さな容器を掴んだ。容器の中身、ローションで指をたっぷり濡らした銀時は、土方の足を開かせる。

「あっ!!」

 M字に足を開かされ、土方の目が驚愕に見開かれる。とろとろに濡れた指がアナルに触れた瞬間、ぞわりと走った刺激に土方の手が銀時の腕を掴んだ。

「大丈夫。感じるのは怖くねェよ」

 銀時の動きを止めた土方に、優しく諭すように言う銀時。土方は一度ギュッと目を閉じてから、小さく深呼吸をすると腕を掴んでいた手を離した。

「あ、あっ、あぁ……」

 アナルの肉襞をなぞるように指が這い、そしてくぷんと体内へ入ってくる。

「あ、うそだ……っ、ん、ふぁぁっ、く、んぅ…」

 くちくちと指先でアナルの入り口をあやすように掻き回される。ピンク色に色づいた秘所を拡げるように指を回され、土方のアナルがくぱくぱと開閉する。
 刺激を求めるように蠢く土方のアナルに銀時は笑みをこぼし、入り口を弄くっていた指を一気に奥まで挿入させた。

「ひあぁぁっ!」

 ぐちゅん、と奥まで入り込んできた指に土方の背がしなる。

「ぁ、んん、ん、ぅ…ッ」
「……は、キツいな」
「ぅ、うぁ、よろずや、」

 ぬるぬるとそれが中を進んでいく度に、ぞわぞわとした感覚が襲い掛かってくる。頭がおかしくなってしまう。言葉に出来ない感覚に手が震えて、必死に腕に掴まる。息をするのを忘れてしまいそうになる。

「ぁ、んぅ、とま、止まって、」
「……どうした?」
「…おか、しく、なる…、ぁ、怖、い…」
「……怖くねーよ。大丈夫、気持ち良くなるだけだ。ちゃんと息して」
「は、ぁ…ッ、ぁ、う」
「ほら、手、握って。土方……俺の名前呼んで?」
「……ぎん、とき」

 土方を抱いているのは俺だと、耳朶にそう囁きを落とせば、安心するのか妙に力んでいた躯からストンと力みが抜けるから、愛しくてたまらない。もっと感じさせてやりたいと、そう思う。
 萎えることなく勃ち上がっている雄芯に指を絡ませれば、ひくんと躯が反応する。
 快楽を示すその身体に気分を良くして、くちゅくちゅと後孔を弄る指を二本絡めて刺し貫いた。

「ひっ…ぃ…!」

 狭い隘路を押し拓かれる感触は、まださすがに慣れないらしく、土方は乾いた悲鳴のような吐息をつくのだけど、ヌルヌルと絡みついて締め付けて来る感触は、土方が苦痛ばかりを感じているわけではないと告げていた。
 土方の雄芯もダラダラと蜜をこぼして、感じていることを告げている。銀時はただ掻き回していただけの指の動きを変え、前立腺を探る。ある場所に触った途端に、土方の身体が逃げをうつようにしてずり上がった。逃がすまいと押さえて、二本の指でグッグッと圧迫するように刺激する。

「あうゥゥっ! ヒッイィ……あっ、あっ、あっ! ぎんときぃ!」
「ん。気持ちいだろ? ここ。覚えて」
「あぁあ! だめ、おさないで、ぎんとき!」
「聞こえねーのか? 覚えてって言ったら覚えるんだよ。ここ。ほら、土方くんの気持ちいトコ。チンポも勃ってきてんぞ」
「ぁあ゛…! や……やめ、あう、ヒッ…ちがっ…ちがう、こんな……」

 ぐちゅぐちゅとアナルを掻き回す度に、違うと戸惑いの声を上げる土方。ただ内壁を掻き回しているだけなのに、土方の一物は固く立ち上がり涙を流して悦んでいた。

「すげェ、土方のナカ……とろとろ。お尻ん中ぐちゅぐちゅされて気持ちいいね」
「ァぁぁッ……そこ、ひっ、ひっ……うう、ぁあああ゙……っ!」
「泣くなって、興奮しちまうから……薬のせい? 元から敏感なの?」
「ばか、お前のせいで……んぁあ、わかんね……っわかんねぇよぉ…!」
「うん、次にしたときに確かめてやればいいもんな」

 ……つぎ?つぎってなんだ、と土方は熱に浮かされた脳内で考えようとしたけれど上手くいかなかった。指二本が三本になり、熟れた内壁の中で容易く蠢かせる銀時は、土方の太ももを手で押さえると、深くまで入り込んだ指を開いて、すっかり柔らかく蕾が拓いて、迎え入れる準備ができたことを確認した。

「……大丈夫か?」
「ん、ああ……だから、もう、ぎんとき」
「……、……クソ、我慢できなくなんだろうが!」

 一気に指を引き抜くと、そそくさと窮屈なそれを脱ぎ捨て、全裸になって、改めて土方にのしかかる。見下ろしてくる銀時と目が合い、顔が熱くなった。
 今から、ずっと惚れている相手とセックスする。ふるりと身体が震えたのは、恐怖のせいなんかではきっとない。喜びのせいだ。こんな、悪趣味な部屋から出るためのセックスでも、それでも。それでもいいからと、土方は欲求に素直になることにして抱きついた。銀時の身体がピクリと反応を返す。

「大丈夫、だから……きてくれ」
「でも」

 気遣うような響きを持つ声を遮るように視線を合わせ、にこりと笑ってみせた。不格好で下手くそな笑顔だろうけど、笑ってみせる。銀時は悩むような表情を見せた後、手を目元に当てて、はあ…と溜め息をついた。

「後悔しても知らねェからな」
「……ぁ…ふ…」

 銀時の手を懸命に握る。護るための刀を振るう、大事な手。ぎゅっと加減なく握られては痛めるかもしれないと手を離そうとすれば、銀時は気にしない素振りで強く握り返してくれた。腰をゆっくり進めていく。ちゃんと息を吐いて、力を抜いて……という考えに意識を持っていくと、銀時の腰骨が太ももとお尻に当たって、知らない間に奥まで入りきったことが分かった。……今まで生きてきた中で感じたことのない快楽が、すぐそこまで迫ってきていている。

「痛くねぇか」
「す、少し痛てェ……けど、きもち、い」
「そっか。……俺も、気持ちいいよ」

 侵入者を拒むように絡み付いて来る肉襞の感触はたまらなくて、たっぷり濡らして嬲った後孔は、柔らかく拓いて雄を飲み込んでみせる。

「んん……ヒぅ、ぎんとき……ゆっくり…ゆっくりして、くれ…」
「ああ、心配すんな。優しくするよ」

 腰をぐ、と押されるとそれだけで銀時のペニスをぎゅうぎゅうに締め付けてしまう。気持ちいい。もっとして。だめ。動かないで。抱き潰して。いやだ。優しくして。
 頭が混乱して、状況に着いていくのがやっとだった。じっくりと進められる快楽に浸食されて侵される。許容量をオーバーしてしまって、膝が揺れて咥え込んだ場所がぎゅうぅ、と収縮する。途端、銀時が苦しそうな顔をした。

「ぁ、わ、わりぃ……っ、いてェの…?」
「謝んなって……大丈夫だから。辛いのは俺より土方くんだもんな……一緒に気持ち良くなろうぜ」
「ぅあ、……ぁ、ぁん、ぎん、……ぎんときッ」
「大丈夫だって。ほら、怖くねェから」

 背中を丸めて、包むように抱き締めた。肌が触れる感覚が心地よくて、背中に手を回す。密着したまま銀時は緩やかに腰を動かした。吐息が耳を掠めて、多幸感にまた涙が滲む。 ナカは開ききって、銀時のそれを完全に受け入れていた。前立腺を熱く勃起した先端で擦られ、痺れるような快楽が生まれた。幸せだ。心も身体も、抱かれることを悦んでいる。

「ぎんッ、ぁあ…! おれ、イッちゃ、う……ああ、ぁ、ぁ、や…ッ」
「うん、気持ちいいな、十四郎。イっていいよ」
「ぁ、ひ、…っ、あ、んぅ……~~~~ッ!!」
「……ぅ、ぐ、」

 ナカが複雑に痙攣するような感触に、もう少しで持っていかれるところだった。土方は抱かれて気持ちよさのあまりドライオーガズムを極めてしまったのだと考えれば、目の前が興奮で赤くなりそうだ。ゆっくりと腰を動かす。奥へ奥へと、押し付けるようにピストンを繰り返す。本当はゆっくりとこの感触を楽しんでいたいのに、雄の獣の本能に任せてガツガツと揺さぶってしまいそうになる。
 いやいやと首を振る土方の表情は甘くとろけている。じゃあ俺の方は一体、どんなツラをしてるんだろう。……きっと情けねぇツラだろうなと、思う。
 始めに部屋のことを知ったとき、それから二人きりのどうしようもない状況で、土方とセックスすることになったとき。
 土方の身体を味わい、挿入を強請られて。このどうしようもない状況を悦んでいて、楽しんでいる。男ってヤツはと情けなくもなるが、身体は正直だった。──こんな形でも土方を抱けることを、心の底から喜んでいる。

「あッ、あ! んッ、ぎんとき……ッ」
「…………ッ」

 涙をぽろぽろと溢して名前を喚ぶ土方を見れば、胸が締め付けられるようだった。もっと気持ちよくしてやりたい。優しくしたい。それだけじゃいやだ。抱き潰したい。
──頭の中が、嫌になるくらい熱い。
 最奥に自身を打ち付ける。ばちゅ、という音がする度に、土方のいやらしい部分を解いて、自分だけのものにしているような気分だった。

「だめ、だめ、や…ぁ、」
「だめじゃねーだろッ……」
「や、おかしく、なる……ッ」

 土方の色気にやられて、その引き締まった腰をグッと抱き寄せれる。欲に負けて、思わずグイとその身体に筋の浮いた漲りを奥まで捩込んでいた。

「く……っあァ、めちゃくちゃ気持ちイイ…」
「ぅあっ……待って…ひっ…ぁ、ぁあ…!」

 ズンと根元まで突き上げれば、ベッドが悩ましくギシリとスプリングを軋ませた。
 猛った雄に穿たれて、イヤイヤと首を振る土方は、ビクビクと腰を震わせて甘い声を上げる。躯を押し開かれる苦痛よりも、快感が勝っていることを銀時に伝えてくれた。

「ぅっ…あっ…ぁ…んっ…」

 腰をゆるりと揺らめかせば、あえやかな喘ぎと共に土方は身悶えて。
 壮絶な色気に、もう堪えられるはずもない。後は欲望の赴くまま、逃げをうつ腰を引き寄せ、ガツガツと腰を振った。にちゃぐちゃと粘液質な音がして、濡れた粘膜同士がまぐわう淫らな音にますます煽られる。
 そこにあるのは、愛情と、劣情と…土方へ向かう気持ちばかりだった。
 土方は強い快楽に涙をボロボロ零れさせた。背中に爪を立てて何とか意識を保とうとする。まだ意識を飛ばしたくない。もっと繋がっていたいのに、限界が近いのがわかる。

「だめ、ぎんとき…ッ! ぎんときっ……や…! あああッ……ん、い、いく、いく」
「いいぜ、…俺も……もう」

 覆い被さって土方を強く抱きしめた。ふうふうと荒い息遣いが肩に当たっている。銀時に必死に掴まって、泣きそうな声で喘ぐ土方の声を聞いていると海綿体が滾るようだった。

「あっ! ひぅっ…も、…やぁっ…気持ちぃ…ひっ…あっ、あっ、あァアッ!」

 高く啼く土方の嬌声に煽られて、銀時は一際に深く後孔を穿つ。

「銀時っ…す、好き、好きだ…! だめ、いく、や、好き…ぎんときッ、…ーーッ…!」

 達した土方の身体がビクビクと揺れた。その瞬間キツくぎゅうっと締め付けられて、銀時は精を腹腔深く、土方のナカにぶちまけた。

「ひっ!」

 内壁を叩く熱い飛沫に、土方はぶるりと下半身を震わせて。シーツをギュッと掴むと、中に銀時自身を銜え込んだまま、その身をのけ反らせて、再び白く弾ける。放たれたそれは腹筋の上を伝い、ドロリとシーツへ流れ落ちていった。……室内に響くのは、互いの荒い呼吸音ばかりである。
 銀時はベッドのシーツにくたりと崩れ落ちた。脱力している土方を抱き寄せると、なんとも良い香りがする。
 絶頂を迎える直前のこと。一瞬だったが、土方の口から「好きだ」という言葉が間違いなく聞こえた。銀時と必死に名前を呼んでくれたのだから、ここまできてやっぱり人違いでしたなんてオチはないだろう。土方の真意を問いたかったけれど、余裕のない状況でそれは叶わない。
 その時だった。カチリ、と。部屋の出口で微かな音がするのが聞こえた。
 土方に薬を盛って楽しもうとした誰かが侵入してこようものなら今すぐに息の根を止めてやるつもりだったが、部屋の外はそれきりシンと静まり返って、手練れの銀時が気配を探ってみても何の手応えもないようだった。
……結局、一連のことは何者の仕業だったのか。お茶目な誰かが誕生日にかこつけてやってくれた悪戯だったのか。判断はつかないけれど、可愛いくも愛おしい相手を置いて部屋から出て行くなんて選択肢は有り得ない。

「……このまま終わんのは惜しいと思うんだけど」
「…………」
「…なあ? 土方」
「う、ん……」
「俺さァ、誕生日なんだよ、今日。しってた?」
「……ん、……しって、た」
「マジでか、可愛いなコノヤロー。……そういや、部屋から出れるようになったかもしれねェぜ」
「! ほ、んとか……よかった、な」
「一時はどうなることかと思ったけどよ……土方? どうしたの、甘えたちゃんですか?」

 すり、と身体を近寄せてくる仕草はまるで猫が懐いてきたようで、銀時は覚えず頬の筋肉が緩んだのだが……土方は浮かない顔をしている。どこか悲しそうにすら見えるのだ。

「……、だから」
「ん? なに?」
「さ、最後だからッ……頼む、あと少しだけ、このまま」
「最後……? どういう意味?」
「……お前は、早く万事屋に帰ったほうがいい。俺みてぇな野郎と、こんなラブホに閉じ込められてるより……大事なやつらに祝ってもらう方が、ずっと似合うから」
「……ああ、そうかよ。……そりゃ、大事なやつには祝ってもらいてぇかもな」
「………っ、だったら」
「もう誕生日祝うって年でもねェけど、土方くんにおめでとうって言ってもらえたらすげェ嬉しいと思うし」
「……え?」
「いやそこは違うだろ? 誕生日おめでとう、プレゼントは俺です、今日から銀時の恋人にしてください……くらい言ってくれても良いんじゃねーの?」
「!? バカやろう、からかってんじゃねぇよ……! だいたい、俺なんかが、そんなの……無理に決まってる……」

 この可愛い美丈夫は変なところで自己評価が低いらしい。シーツばかり見つめて目も合わせてくれない。真選組一の色男だとか言われているくらいなんだから、少しは銀時自身の想いを汲んでくれたって良いだろうに。……そんな不器用なところも含めて惚れているけれど。
 銀時が気遣わしげな仕草でもって目元にキスを落としてやれば、やっとこちらを見てくれた。潤んだ瞳は情事の名残なのか、それとも。

「諦めんなよ、無理なんかじゃねーから。むしろ俺が言いたいくらいだから。今日から俺を、土方くんの恋人にしてほしいって」
「……よろず、や」
「誕生日プレゼントに、可愛いくてエロくて格好よくて美人な恋人がほしい。嫌いになるなんて有り得ねェな。……もし貰えたら、一生大事にするから」

 先程までとは別の理由で顔が真っ赤になっているだろう。下手したら、先程より酷い熱を持っているかもしれない。土方がようやく微かに頷きを返すと銀時は嬉しそうに微笑んで、今度は耳元へ唇を寄せてきた。
 「好きだ」と甘ったるくて低い声が聞こえてきて、……あとは、覚えていない。