一番最初の夜。始まったきっかけは、酔っぱらった土方からのお誘いだった。
鉢合わせになった居酒屋から始まった飲み比べは、騒ぎすぎて店から退散させられた後も万事屋に場所を変えて続いた。
買いこんだ全部の缶やら瓶が空になった頃には満月が空高く上り、部屋の中を煌々と照らしている。
面倒臭いのと頭に血が上ってたのもあるだろうが、電気もつけないまま飲み合っていたのはこの月明かりのせいかもしれない。
もう飲み勝負を吹っかけてきたことなんか忘れてるのか、うつらうつらと船を漕いでいた土方の肩を掴み、意識を戻してやろうとした。
「おいっ、もうしめぇだよ。起きろって」
「……ん、んん。ぁ……?」
俯いていた顔が俺を見上げ、瞳がゆっくりと開かれる。無防備すぎる表情には女とは違う色香が漂っていて俺は反射的に視線を外した。ドクドクと心臓がうるさく高鳴る。酒のせいだ。アルコール中毒ってやつ。アレ? それヤバイやつじゃなかったっけ。
「とっとと、けーりやがれっ」
中毒だか何だか知らねェが、このまま土方と二人で万事屋に居るとヤバイ。俺は無意識に感じ取っていた。
出会った頃は瞳孔が開いた危ない野郎で、サラサラの漆黒ストレートの髪だって、天パの俺に対する嫌味にしか見えねェし、ムカつく野郎だと唾を吐いていた。関わりたくない奴だった。
それなのに、土方十四郎って男の武士道に対するストイックなところ、ワーカーホリック気味なところ、大将の近藤に見せる笑顔、沖田くんに見せる子どもっぽさなんかを見てきた。土方の騙されやすさに呆れたこともあるし、ドS皇子と二人して土方を揶揄って怒鳴られたことも何度かある。
クールで解りにくいように見えて、実は単純だし分かりやすい。負けず嫌いな性格だとも知った。アレだな、喧嘩っ早いのは出会った頃と今と大して変わらない。
不器用なところや、意地を張って引っ込みがつかなくなるところは何だか俺に似ていると思った。
一つ、また一つを知るごとに目が離せなくなっていった。
本当に嫌いな奴なら無視すればいいのに、自分でも気づかない内に毎回ちょっかいをかけるようになっていた。
怒鳴り合いしながら、その時だけは奴の頭の中に俺だけが居座ってることに満足したりして。とはいっても、この気持ちに名前なんかは付けずに、今の関係をこっそり楽しんでいた。
それなのに、不意に見上げてきた土方の瞳が情欲に濡れているようにしか見えなかった。それがいけなかった。
飲み過ぎた酒で真っ赤になってるんだろう肌は月明かりで白く、ほんのり桜色に見える。着流しが肩から脱げて着崩れ、今にも見えそうな胸の乳首にカッと血が巡った。心だけじゃなくて身体も……ハッキリ言うと下半身が熱くなるのを感じた。
潤んだ瞳で俺にすり寄ってくる土方。吉原の花魁も裸足で逃げたしそうな色気だ。ごくりと息を飲んだ次の瞬間、吸い寄せられるように唇を合わせた。
────頼む、土方。頼むから嫌がってくれよ。何寝ぼけてやがる腐れ天パって殴ってくれても良い。
ガラにもなく他力本願なことを心で叫びながら、俺は自分じゃ止められなくなった欲望を土方にぶつけていた。
それなのに土方は全く抵抗をせず俺を受け入れた。挙句に舌を絡ませたり、いつもはバカにしてくる銀髪に緩く指を絡ませてくれたり。日頃ガン飛ばしながら巡回し、瞳孔を開き気味に睨みつけてくる同一人物とは思えない。
快感に耐えて下唇を噛む。それでも漏れる甘い吐息は俺を滅茶苦茶に煽った。女らしさなんてカケラも持ち合わせていない身体なのに、俺は溺れた。土方の身体にかかる負担なんて考えずに、自分の欲望のまま抱いた。
征服欲は満足するのに、もっともっとと求めてしまい、気付けばシーツがドロドロになり、どれだけイッたのか分からないぐらい土方を犯していた。
……こんな風に何かに固執するような感情は、失くしたと思っていたのに。事が終わっても足りない、もう一度したいと思ってしまうのはなんだろう。欲情? いや、ムラムラしてるわけじゃないと思う。たった今、スッキリしたばかりだ。流石に弾が尽きてる。じゃあなんだ。……もしかして、これが執着だろうか。土方相手に? いや、まさかな。ナイナイ。
それでも、意識を飛ばした土方が裸のまま眠りについているのを見て、俺は無意識に口元を綻ばせていた。
憎たらしかった漆黒の髪も今は羨ましいよりも愛しく思えて、ついつい撫でてしまう。
「ん……ん」
鼻にくぐもった声をあげて、少し眉根を寄せる。難しい顔が普段の土方と重なって、可愛い。憎たらしかったのが嘘みたいで、本当に綺麗な奴だなと思った。桜色に染まった肌も絶品だったが、素面に戻った今も最高だ。キメの細かい肌。鍛えてるんだろうし筋肉だって充分ついてるけど、それでも腰周りや腕なんかは俺の方があるように思う。傷一つない背中は土方の生き方をそのまま見ているようで、最高にグッときた。
陰部も薄いと思っていたが、足なんか見ても触った時もスネ毛を大して感じさせない。綺麗な脚だった。それでも土方は女じゃない。女と間違える要素もない。それなのに魅かれる。離れられなくなる。
俺はこの気持ちに名前を付けず、感情を誤魔化した。それはきっと、土方も同じだったんじゃないかと思う。
誤魔化しながら求め合い、その夜だけで終わらないまま、何度も会っては身体を合わせていた。
だから今、こうして関係を切られても俺は何も言えない。自分の気持ちを認めてもいない腑抜け野郎に、言う権利なんか与えられていない。文句を言う筋合いはないと分かってる。
分かってはいても、それでも、どうしたって納得いかなかった。今更、はいそうですかなんて引き下がれるわけがなかった。
土方に避けられている。
そう感じたのは逢瀬が一週間空いた頃だった。『逢瀬』なんて言い方をするのはアレかもしれないが、別に土方に聞かれるわけじゃなし、心の中でくらいそう思わせてくれたって良いだろう。
とにかく、俺と土方の逢瀬がそれぐらい空くのはよくあることだったが、市中見回りでも全く顔を合わせないのは初めてのことだった。
不本意ではあるが、土方の部下、山ナントカくんを捕まえて口を割らせてみる。
「……副長ですか? うーん……事務処理やら登庁やらの管理職務をこなしていますよ。市中の巡回にはあまり出てないです。わざわざそうやって聞いてくるってことは……旦那もやっぱり喧嘩相手がいないと寂しいんですか?」
偉そうに言うから鉄拳を喰らわせてやった。なんだよ、その生温い笑みは。だから聞きたくなかったんだよ。別にそういうつもりで聞いたわけじゃねぇし。
逢瀬が二週間空いた。
これはやっぱり妙だ。仕事で会えないんじゃない。避けられてるんだと確信した。憤りが募る。ヤケ酒を飲む金はないが、出来るならそうしたかった。
ただの気まぐれから始まった行為だった筈なのに、俺はいつの間にマヨラーのチンピラ警官へ執着してたんだろう。
離れていくものを追いかけるなんてのは俺らしくない。でも土方を手放したくなかった。手放したくないって何だよオイ。どういう意味なのか自分で言ってて解らなくなってきた。
単純に、俺とするセックスに飽きただけかもしれない。
それか、他に条件の良い相手を見つけたのかもしれない。土方は幕臣の上に顔も良い。仕事も出来る。俺より良い相手なんか幾らでも居るだろう。
ソイツは俺なんかよりもっとずっとイケメンな奴で、すげぇ金持ちで、土方を抱いて、何回もキスしてるんだ。
土方の柔らかくて、イク時はキュウキュウ締まって気持ちいい大事な場所を犯しまくってるんだ。
ムカつきすぎてハラワタ煮えくりかえるどころか、頭の中でソイツを何度ぶった斬ってやったか知れない。流血沙汰じゃ済まされねェぞ下衆野郎が。土方に酷い真似してくれやがって……その先はもう言葉になんか、なりゃしない。
そうやって何度ソイツをぶっ飛ばしたって現実の土方には会えないままで、こんなの絶望感しかない。
……絶望してるってこと自体、答えみたいなもんだろう。いい加減この感情に名前を付けなきゃならねぇようだ、俺は。
考えてみりゃ名前なんて決まってる。本当はとっくに決まってたんだ。きっと、一番最初の夜から。
***
無理やり作った二人きりの空間。土方は俺の質問に眉を潜めた。苦しそうに吐かれたのは拒絶のセリフで、無理やり重ね合わせた唇からは今までのように甘えた吐息が漏れることもない。拒絶と、あからさまな嫌悪を返してくるだけだった。
何が駄目だったのか、俺のどこがいけなかったのかと聞いても土方は応えない。ただ、苦しそうにするだけだった。 そんな態度の土方を見るのは初めてで、俺はどうするのが正解なのかも分からなかった。進むことも諦めることも出来ずに苛立って、そのまま帰って来てしまった。だけど少し時間が経って、あの時の様子を思い返すうちに違和感に気づく。
土方は何かに苦しんでいた。
俺のせいではないと言っていた。
『テメェは悪くねェから』
それなら何か別の理由があるんじゃないかと思った。何もしないなんて選択肢は存在しない。俺は土方にとって身近な(うわ身近とか何だそれ腹立つな)人間であるジミーを探すことにした。アイツなら何か知っているかもしれない。
「また副長のことですか? ……まったく、旦那までストーカーの域に片足突っ込んでるなんて。ウチの局長のこと言えなくなっちゃいますよ」
呆れ顔で溜め息を吐かれてイラッとする。なんだジミーこらテメェ、訳知り顔で言いやがって。土方がコイツを足蹴にしたくなる気持ちがよく分かった。足蹴にされてようがジミーは屯所で一つ屋根の下だ。土方の傍にいて、何度も名前を呼ばれてるんだろう。俺なんかいつも屋号でしか呼ばれねぇのに。
「ケッ、うるせーよ。俺ぁストーカーなんかしてねェから、さっさと聞いたことに答えろっつの」
「はいはい、最近変わったことですよね? ……かぶき町への巡回に出たがらなくなったのと、書類整理と内勤が以前より好きになりました。まあ、つまり旦那には会いたくないって感じですかね」
「テ、ッメ……喧嘩売ってんのかコノヤロー!」
なんだこいつ。【全部分かってます】みたいな雰囲気醸し出しやがって。こんなジミーに土方の全部が分かってるみたいな顔をされるのはムカつく。こっちは真剣に答えを探してるんだよ。真剣と書いてマジと読むんだよ。本気でも良い。とにかく必死だった。
「で、でも副長、以前はすごく楽しそうに巡回に出てましたよ!? あんな風になったきっかけが旦那とのケンカじゃなけりゃ、やっぱりアレですかね……」
「勿体ぶるんじゃねぇよ。ジミーのくせに」
「……、そうですか。先月の捜査秘話なんですがね、俺と副長が某所の寺に潜入捜査したんです。そうしたらそこの地下は、どうやら高級陰間茶屋だったみたいで……副長は、その中に連れて行かれたんですよ」
「ハァァ!? 止めろっつの! つーか何で土方を連れてくんだよ! あんな美人が隙見せたら、すぐ食われちまうに決まってんだろうが!」
「し~っ、心配せんでも副長は無事ですから! でも真っ青な顔してましたし……屯所に帰ってからも自室に蹲っていたので、もしかしたら廓の中を見ちゃったのかもしれませんね。副長、ああ見えてそっちの方面ウブなんで、ショックを受けたんじゃないでしょうか」
……ああ、そういうこと。
土方くんってば初心だし潔癖っぽいもんなぁ。がしがし頭を掻きながら、男同士の本番を目にした土方が青くなっているのを想像する。これで謎が解けた。
まぁ、傍から見たらセックスなんて綺麗なもんじゃない。
お互いに欲情し合って、ヒトの皮脱いで獣みてぇに求め合って……必死に腰振って、がっついて、土方を俺のモノにしたいと思う。
土方から見れば俺は浅ましくて醜いのかもしんねぇなと、思わず自嘲した笑いが浮かぶ。
「あの、旦那」
「……ンだよ」
「間違っちゃいけませんよ。きっと副長も、旦那と同じことを考えてると思いますから」
「……へ? 何それ」
「旦那と副長は似た者同士でしょう? 二人して同じことを考えちゃうんですよ。だから……俺に分かるのはここまでです」
詳しいことは分かりません、とか。ホントにこの監察はどんだけ鋭いんだろうね。参っちゃうわ。流石は土方のお抱えってところか。
「……んだよ、肝心なとこが分からねェと意味ねェじゃねーか……じゃあ俺、もう行くわ」
「はいよ。流石に、そろそろ巡回にも出ないといけませんからね」
食えない奴だ。憎まれ口にも慣れっこらしいお抱え監察へ、返事する代わりに笑ってやった。やることは決まっている。
***
「万事屋っ!! 何しやがんだ!!」
────現実を見せてやる。
その思いだけで屯所に押しかけて、土方を捕まえて連れ込み宿に入った。
ベッドに投げ落とすと土方の身体が沈む。その勢いのまま、膝を立てて跨る。有無を言われずに両腕を背に回し、細いベルトで縛り上げた。後ろ手にすれば自由が利かなくなる。
「っ! クソ……」
シーツに埋められていた顔を持ち上げ、ギリッと睨み上げる瞳は色気ではなく殺気を湛えていた。そんな瞳でさえ欲情してしまう自分はもう溺れきっているのか。
四つん這いの身体の顎に手をかけて、膝立ちさせれば目の前には大きな立ち鏡があり、2人で馬鹿みたいに逆らい合ってるのが映し出されていた。
はっと何かに気づいた顔をして、表情を殺した土方がフイッと鏡から視線を外した。
「ほら、土方。しっかり見ろよ」
「ん……っ」
耳元で言葉を息を吹きかけるように囁くとびくびくっと震える身体。羞恥に頬を染める。
忘れるには覚えすぎてしまった快感。
顎を掴む手に力を込める。
「俺が惚れた身体なんだ。すげぇキレイだろ?」
土方のスカーフに手をかけて解く。眉根を寄せてぎゅっと閉じられた瞳は拒絶。
それでも俺は手を休めずに土方の服を剥いでいく。身体を捩りながら抵抗する土方を押さえつけて、ストイックな黒の制服を背後の縛られた腕に集め、白シャツのボタンを全て外し、キメの細かい手に吸い付くような美しい肌を鏡に見せつける。
腰を強く抱いて、逃がさない。顎を再びとらえて身体を密着させた。嫌がる土方の耳元に唇を寄せれば、快感を予期して震える。
「目ぇ開けろよ」
「いやだっ!」
「見てろっ!」
俺の声まで荒くなった。沈黙してそろそろと開きだす土方の瞳、それでも鏡には向かわずに伏し目がちに横を見る。
「てめぇが嫌だって言うなら、これを最後にしてやる。だから見ろ。見ないってんならストーカーみてぇに付きまとって屯所で犯すぞ」
本気だった。最後にしてもいいと思っていた。ただ、お前が醜い存在ではなく、美しい肢体で俺を昂ぶらせているという事を知って欲しかった。
その本気が通じたのか土方の瞳はゆっくりと鏡に向かい、鏡を通して俺と視線が合った。ほっとして、笑みが漏れる。
「……綺麗だろ。俺が夢中になって、すげェ惚れてる奴の身体なんだよ、これ」
今度はさっきの怒鳴り声が嘘のように、優しく言い聞かせるように言えた。誰かにとっておきの宝物を自慢している気分で、なんだか誇らしかった。
大きく目を見開いた土方が鏡を通してではなく、顔をこっちに向けて直接見る。
初めて自分の気持ちに名前をつけた。それを初めて告げた。
今度は俺の方が居たたまれなくなって、視線を外す。
「お、お前、今…なんて……」
「何回も言わせんなっ! 恥ずかしいだろっ?! どんな羞恥プレイですかコノヤローッ!!」
「羞恥プレイしてんのはオメーだろうが?! こんなの、ただのかっ、鏡プレイだろ変態クソ天パ!」
「鏡プレ……違います〜! それも捨てがたいけど今のコレは違ぇから! 俺ァ土方くんに知ってほしかったの!」
「……なにを」
「だぁぁっ、ホント空気読めや土方くんよォ! お前はやれば出来る子だよっ!!」
「ア゙ぁ!? 意味わかんねーよ!」
ホント喧嘩と斬り合いなら直感も冴えた奴なのに、こういう色恋には疎くて困る。
つーか、お前の方がよっぽど羞恥プレイしてるからね今。
銀さんもう耐えられねーよ。ドSは打たれ弱いんだよ。
「だからっ! 俺はてめぇに惚れてるからセックスしてぇって!」
言ってんだろうが!
……そう続けようと思ったが、土方の顔が桜色を通り越して真っ赤になっているのを前にして、セリフも途切れてしまった。
後ろで組まれた土方の手が一瞬だけ俺の股間に触れて、すぐに離れていったけど分かったはずだ。
……俺が土方の姿を見ているだけで、既に昂ぶっていることを。
「ね?」
なんてカワイク言ってみたけど、土方は首筋まで真っ赤にして口を鯉のようにパクパクさせて、声すら出せてない。
「だからよォ、お前も安心して俺に抱かれてみろって。それとも、土方は俺のガッついてる姿が嫌なの?」
「ちがっ!」
「そうだな……俺もお前に夢中になりすぎて、ホント汚ねぇと思うよ」
「違うって言ってんだろうが! 俺っ……お、おれも」
重ね合わせた身体からお互いの早い鼓動を感じながら、土方の言葉を待つ。
「俺が、てめぇに夢中になってる姿が……醜いだろうと思った」
「んなわけねぇよ。醜かったら銀さんの股間センサーが反応するわけねぇだろ? ほら」
「ん、や、いや、だってよ、俺は男だし……可愛げもねぇし、硬い身体だし、細っこいわけでもねぇし、」
「じゃぁ教えてやっから、ちゃんと見ておけよ」
「はぁ?」
おしえる……?
不思議そうな声を上げる土方に、俺はニヤリと笑ってやった。
「ほら、しっかり見とけよ」
初めてだった、鏡の前でこんな行為をするのは。鏡に映る自分の身体を見るなんて嫌だ。恥ずかしくて逃げ出したい。それが出来ないなら、せめて目を逸らしたい。なのに、万事屋の言葉に縛られて逃げることも目も閉じることも出来ず、うっすらと目を開けた視界で鏡の中に映る光景と対峙していた。
そこにはお互い上半身をさらして情欲に火照っている男が、2人映し出されている。
それにしてもコイツはいつのまに鍛えているんだろう。好物の甘味を食うか、ぐうたら寝ているか、酒を呑んだくれてるか、金欠の時は貧乏飯を食ってるか、そんな生活をしているようにしか見えないのに鍛えられた万事屋の身体は、男なら誰でも羨ましくなってしまう程に均整がとれている。惚れ直した。俺の身体なんて見たくないが、こうして万事屋の身体を見るのは悪くない。
覚えず見惚れていると「土方クン、知ってるか?」。吐息の触れる距離で問われ、はっと息を飲んだ。
「このうなじが……若い女より、どんな上等な花魁より、ずっとそそられるんだよ」
俺にとってはな。愉しげに告げられた言葉に、信じられない思いさえする。
うなじに舌を這わせながら、万事屋の手はそろそろと俺の下半身に伸びる。もう耐えられなくて瞳を強く閉じた。
「ぅ……っ!」
漏れる嬌声を堪えて下唇を噛む。
「いつも以上に感じてるんじゃねェの? 自分の身体に欲情しちゃった……?」
俺のモノをスボンの上からさっと指で触れて、その硬さを確認するように摩りあげる。
「ばっ、か言ってんじゃねぇよ……!」
摩られただけでビクビクと俺の意識とは関係なく震える身体が疎ましい。殊更に噛みしめようとした俺の唇を万事屋が塞いだ。舌裏に万事屋の舌が入り込んで、チロチロと動かされると擽ったくて力が抜けていく。もう、気持ちいいとしか考えられない。
「ん、んぅ……っ、ふ」
「噛んだら痛てェだろ?」
「……はじめて、男同士で、何やってんのか、実感させられた」
熱くなった吐息を吐き出しながら俺は、ずっと胸に閉じ込めていた、あの時の思いを零した。万事屋は何も言わず、ベルトに手をかける。
「汚ねぇと……思った。欲情して、汚ねぇもん勃てて、擦りつけて……見たくなかった。ンな浅ましいことやってるんだって、知りたくもなかった」
「それで俺のことが嫌になっちゃったの、土方くんは」
「ちが……ッ!」
──違う。違ェよ。そうじゃねぇ。
それだけは違うと、頭を振って否定した。
「テメェじゃねぇよ……! お前は何も汚くなんざねェ。万事屋のことを嫌いになったわけじゃねーんだ……ただ、テメェに……俺が、お前に……っ」
「うん……? 土方くんが俺に、どうしたんだよ。大丈夫だから、言ってみろって」
「………よろ、ずや。お前に、抱かれてる俺は……浅ましくて、醜いんだ。みっともなくて格好もつかねぇし、はしたねぇ……テメェもそう思うだろ」
俺の告白を聞いて、鏡越しに、ふと万事屋の口元が緩んだのが見えた。笑みの理由は何なのか、考えようにもズボンと一緒に下着まで膝の所まで下ろされて下半身にひんやりとした空気が触れると羞恥で頭が真っ白になり、強く目を閉じる。
……そこには既にそそり立った俺のモノが天井を向いているんだろう。
そんなモノは見たくない。
「ったく、ホントてめぇは……髪は黒くてサラサラストレートで完璧で、足はすべすべだし、下の毛も薄いんじゃね? 他の野郎のなんざ見たくもねーし知らねェけどさ」
つつっと乾いた指先が内股を撫でる。股間に直に触れられる感覚にゾクリと甘いしびれが腰から身体全てに流れていく。
先っぽから溢れ出したカウパーで指の滑りが良くなり、卑猥な水音に耳まで犯される。
「土方、聞け。お前に醜い場所なんてねぇよ。じゃなかったら……」
背中から万事屋の昂ぶった熱いモノが内腿に擦り付けられて、
「ぁァっ!? ん……っ」
今まで耐えていた嬌声をあげてしまった。反射的に反らせた頭が万事屋の肩に乗り、そのまま頭を手で固定されてしまう。
「俺のチンポ、こんなガチガチになるわけねェだろ?」
耳元に甘くて下品で熱い声が注ぎ込まれると、下半身がドクンッと脈打つのが分かった。頬を撫でる手が熱い。万事屋がどんな顔をしているのか。今まで意識したことはなかった。だが、今は堪らなく気になる。うっすら開いた視界に映ったのは情欲に塗れた万事屋の瞳。
はたと視線が合えば、まるで愛おしいとでも言うような笑みを浮かべるから、俺はもうそれ以上は心臓が持たないと顔を逸らした。
「あーあ、ほら、土方。良い子だから、ちゃーんと見てろって」
優しい、声音。それを聞くと俺はどういうわけか、やはり素直に言うことを聞いてしまう。鏡の中にいる俺は頬を紅潮させ、目から今にも涙が零れ落ちそうなほど潤ませている。……醜いとは違うのか。これは。けど、どうしようもなく恥ずかしくて不恰好で、情けない顔だと思う。
「……ぅ、あ……、俺っ、嫌だ…こんなッ……うう、よろずや……っ」
「こんな顔、他の誰にも見せるんじゃねーぞ」
「ぅ……んっ」
胸の突起を探られて、身体の置き場に困り捩るしかない。
「土方くん、乳首隠さないで。恥ずかしいの? 男なのに、おっぱい見られるの恥ずかしい?」
「そ、そんなわけ……っ!」
「じゃあ見せて。土方くんのおっぱいと…やわっこい乳首ちゃんも。はは、可愛い」
「やっ…ああ、ぅん! やめ…」
「へぇ、指で弾かれると困るんだ?」
「ち、違うぅ……や、テメ、見せるだけって」
「言ってねーよ? 指でピンピン転がして、コリコリに勃起したエロい乳首ちゃんは、こうやって」
「ひぃん……!やぁあん、あああん! やめ、てぇ」
「舐め回して吸うこともあるし、摘まんでクリクリ可愛いがることもある」
「ふ、ぁんんん! あ……ダメ…ダメ…ああっ」
「泣くなって……ホントかわいい。堪ンねぇ……」
吸い付かれ、舐め回され、涙が溢れてくる。いつぶりに触れられたんだろう。こんなのはエッチで、いやらしいと頭で理解していても、甘ったるい声が出る。クンクンと喉が鳴ってしまう。俺が恥ずかしい声を上げるほど、万事屋はその場所へ指先を滑らして、逃げられないように俺の身体を固定して、いっぱい乳首を苛めてきた。硬く尖らせた舌先で乳首を転がされ、痛みを感じるくらい吸われるとジンジンした。
反対側の乳首を、ローションまみれにされて苛められる。硬くなって勃ってきた乳首を親指の腹でヌルヌル擦られたり、人差し指の爪先で弾かれるとビリビリと快楽が走った。
「ああぁ……ッ、んん、ひッ、あう!」
「やわっこいの、コリコリになってきたよ、土方……どんな気分?」
「ひぃ…あぅ…恥ずかし、ぃ。乳首、イヤ…もう、ヌルヌルしないで…や、吸うのも…許して……ひぃっ、あああ…」
「嘘だぁ。ヌルヌルしないでほしい子は、お股の間をそうやってモジモジ擦ったりしないだろー?」
「そ、そんなの、してねぇ……ん、んん、はぁ」
「切なくなってるんだろ? おっぱい弄られたから」
「あ、ふ…んなこと、ない。ちんぽなんか……ああっ!」
「ちんぽなんかとは何だよ。お前のこれは汚い棒っきれとは訳が違うんだぜ?」
「っ、ん、んあ……っ」
足を開かされる。すっかり先走り塗れでヌメリきった俺のソレが鏡に映り、先っぽの小さい穴がヒクヒクしてるのが……嫌だ、こんなのは汚い。万事屋の綺麗な指が汚くなる。俺のせいで、
「ちゃんと見とけって言っただろ。土方くん、どうなってる?」
お前のココ。伸ばされた指が先端を軽く撫でて離れる。透明な粘液が糸を引いて、プツリと途切れる。玉袋をやわやわと揉まれ、ジンジンとした性感が湧き上がる。腹に付くほど勃起したソレの裏筋を下から辿られる。太く浮いた筋をなぞられると背中が震えた。
「ヒ……っ」
「土方くんのチンチン嬉しそうにしてるぜ。触られると喜んでるのは、俺だからだよな? 他の奴にされてもチンポ勃たせてんの?」
「ばか……っ、テメェ以外のやつに触られたことなんかねぇし、触られたくもねぇよ……! あっ、も、乳首は……!」
「俺が乳首触ったらだめなの?」
「ん、ん、だめ……っ」
「そしたら土方くんが自分で乳首可愛いがるの見せて……? 切ないとこは俺が慰めてやるからよ」
鏡に向かって射精するの見せてくれたら、乳首苛めるのは許してやるよ。言われたセリフに思わず、反射的に声を上げていた。
「なっ、いやだ……! そんなもん、見せたくねーよ……っ」
「俺がドン引くから? なら試してみろよ」
ドクドクと熱を持って脈打つ感覚がする俺のを握られ、ゆっくりと上下に扱かれる。快感が走り、密着していた背中が浮いた。
不意に耳朶に舌を這わされゾクゾクと身体が震える。そんなのはズルいと思ったが、耳たぶの形を辿り、中へ入りこんだ舌にクチュクチュ濡れた音を立てて嬲られると堪えきれずに声を漏らしていた。先端からとろとろと汁が溢れてきたのが鏡に映り、恥ずかしくて体温がまた上がった。万事屋は気を良くしたのか、小さく笑うと勃起した俺のチンコの裏筋を辿るような動きで撫でた。
「敏感。可愛いね、土方。筋のところ、ポコって浮いてきてるよ。興奮しちゃって……俺よりとは言わねーけど、カッコいい形してるじゃん。もう少しカリ高だったら女もイチコロじゃね?」
「うるせ、ばか! やっ、そこ……はっ、はぁ」
「クビレのとこ? やっぱ男だな、チンコ弄られんの気持ちいんだ?」
「はぁん! あっ、きゅうきゅう、しないで…熱ィよぉ」
「強くされんの気持ちいだろ? 俺は先っぽを指ですんのが好きなんだけど、土方くんは?
「くっ、ひぅ……ぁああん! 指、ゆびっ離、離して…! あっ、ぁああ~……っ」
「……はは、ビショビショになってる。もっと? 穴んとこクリクリしてやろうか?」
「あぅう!」
小さい穴の場所を探られて、鋭い快感が走る。俺は我慢できずに喘ぎながら、言いつけを守って乳首に手を伸ばすが、万事屋からストップをかけられた。
「いきなり触るなって。周りの乳輪……そうそう、分かるだろ? ローション垂らして…ゆっくりなぞってみろよ」
「ふっ…あぁ……ん、んんぅ」
「コラ、足閉じるの禁止。銀さんがチンポ弄れなくなるでしょーが。……ぷっくりしてきたなァ? おっぱいの周り気持ちイイ?」
「見んな……っう、ああ……ふ、気持ち、ぃ」
「気持ちイイね。クルクルなぞるの上手じゃねーか、土方くん。チンポもビンビン……ほら、エロい汁がさ、こうすると……糸引いてるの分かる?」
「んぅ、ぁぁん……チンポ弄んの、やめ」
「やめない。……あれ? 土方くんのおっぱい、乳首がピンッとしてきたね」
「も、やぁ……触りてぇよぉ」
「エッチな子。一回だけ触ってみな? ……ふは、先走り汁がビュッて出たぜ? ……どうしたの? 指で乳首さわるの止まんねぇ?」
「んん、んん! は、あっ、ぁあ…フゥン」
「トロ顔で乳首弄りしちゃって、土方くんってもしかして女の子なんじゃねーの?」
「あぁッん! ちがう、ちが、ん…あ、よろずやぁ……よろずや、おれの乳首……つまんで、ほし」
「自分でやれよ。乳首つまんで、クリクリ擦ってみな」
「……ぁああ! ひっ、ぃ! んぅう~」
「乳首が赤くなるくれぇ苛めまくって、チンポから白っぽいヨダレ垂れ流してんの見える? ……女の子じゃねェなら、もっと感じてエロい顔して、乳首も……良い子だな。男らしく腰突き出してみろよ、そうそう」
「あああ~~っ、はっ、はぁっ、んっ、ッ……よろずや、おれ、女じゃな……こんな、チンポ勃たせて、胸もねぇ、けど」
「けど、何?」
「……てめェが、好きだ。やっぱり俺、てめェが……ぁあっ、ぁあん! じゅこじゅこしないで! それだめ、だめだからぁ……!」
「お前が悪いっつの! ったくよぉ、ほんと何回惚れさせる気ですかコノヤロー! 女とか男とか関係ねーよ、お前だからするんだよ。お前だから好きなんだよ決まってんだろうが。分かったら、鏡よく見とけ……俺の恋人さん、乳首とチンポでビクビク感じてんの。もう限界だってよ」
「っ、なにが、限界……、ドSの恋人が、チンポの穴ばっかり弄るから、タチ悪いんだよ……っ、んん、」
「好きなんだろ? 出せよ、十四郎」
「ふ……っ、ん、んん、ぁああ!」
「可愛い。乳首も舐めちゃお♡」
「んぁあ、やらぁ! ちくび、が……んうう、いく、いく!ぁあ、しょんなにいっぱい、こすったらイっちゃうから!チンポ、熱いぃ」
「はっ、は……、ほら、ブチ撒けろよ。イっちまえ……イッていいよ十四郎。好きだから、全部見せて」
「ふぁ、ぁ♡ よろずやっ……ん! チンポいく、出る、ぁああ~~っ♡」
滑らかな鏡面に吐き出された白濁がドロリと絡みつき、重力に従って伝い落ちていった。
鏡面は無慈悲にもそのままを見せつけてくる。恥ずかしい場所が陰りもなく鏡に映されているその光景は倒錯的で、鏡に映る銀時の、普段はやる気のない瞳がギラギラと欲情しているのが分かった。視線だけで射抜かれ、身の内まで焦がされるようだ。
「はぁっ……んん……っ」
そんな風に雄めいた目で見られるとビリビリする。堪らない。快感に溺れきった感覚から抜け出せなくなる。廓で他人の行為を見たときは、怖気がして嫌だと感じていた。
それなのに、銀時からそんな風に盛りきった目をして見られると、犯されたくて堪らない。抱かれたくて、銀時の雌にしてほしくて、イッたばかりの身体にまた熱が沸き上がる。
「ほんと色っぽいな……たまんねぇ。クラクラする。早く挿れてェよ……」
低い、俺の好きな甘ったるい声で囁いてくるからその言葉に酔ってしまった。
「なあ、挿れていい? 十四郎のココ……ほぐしてやらねーとな……」
「ひぃん! ああっ、ああ…!」
ぬるっとした感覚とともに指が入り込む感覚。何度も行ってきた行為のせいで、そこは指1本くらいならすぐに受け入れられるようになっていた。グイグイ押される前立腺にいつになく声を上げてしまう。
「イイ声、もっと聞かせて。ここ触ったらキュンキュン締めてくるよ」
「ああァ、んっ、あ! ひぃぃん、そこ、そこ……っんぁ、ぁ、ああん!」
「感度も最高だしよ。嫌いになるわけねぇだろ」
身体を捩るのはこの快感から抜け出したいのかもっと欲しいとねだっているのか自分でも分からない。
「やめてくんない? 余裕なくなるから」
指が増やされる。ホントに余裕のなくなってきた銀時の声が後ろから聞こえる。その事実も心地よい。
てめェも溺れればいいと口角を引き上げて笑い、右手で纏まらないふわふわの銀髪を捉える。こちらに引き寄せながら万事屋の唇をペロッと舐め上げる。
俺と同じだけ、お前にも溺れてほしい。瞳で訴えかけると驚いたように見開いていた瞳の中に炎が宿った。
今まで優しく出入りしていた指を引き抜くと指とは違う質量のものが宛がわれ、そのまま、熱くて固いものが挿いりこんできた。
「あ……あああああっ」
痛みなのか、快感なのか分からないものが頭のてっぺんまで駆け上がり、今までの余裕など吹っ飛んだ。身体は布団に沈み、ギュッとシーツを掴む。
「はあっ、ホントもうダメ。お前ん中、とろとろで熱すぎ……メチャクチャ気持ちいい…」
押し込まれた腰がゆっくりと引かれる。その喪失感に腰が揺れる。
「ほら、ギュッて締め付けて離してくんねェし、絡み付いてくる」
優しく撫で上げる腰にブルルッと身体を震わせた。
「すっげぇ敏感。可愛いな」
後ろから伸びてきた手が俺の乳首を摘んで何度も弄る。腰が勝手にうねり、身体の中まで刺激してしまう。
「やべぇなァ、俺…お前のこと、もう離せねぇよ」
俺が汚してしまったばかりの鏡には眉根を寄せて苦しんでいるような銀時が映っていた。それはついぞ見たことのない表情で、胸の奥を衝かれる。
坂田銀時という男は、金にガメついし食い物への執着もデカいが、大切な者をわざと作ろうとしていないように思えた。万事屋なんて稼業をしている表面上だけを見るならお人好しのようだが、他人とは一定の距離を置いて、中に入れたりしない。そんな男だった。
以前に大切な人を亡くしたんだろうか。そんな喪失感を感じさせるところがあった。俺には過去の詳しいことを話してくれたことは未だないけれど、いつか、そんな日が来ればコイツのことを知りたいと思う。どんなところで育ったのか、俺も見てみたい。
そして今、銀時が苦しんでいるのは俺を手放せないと思ってくれているからだろうか。俺にとって都合のいい自惚れや、驕りじゃないだろうか。銀時が、心の底からそう思ってくれているんだとしたら。そうだとしたら、俺は。
「てめェが求めるなら、俺を……このまま、離さなくて……いい」
はっ、はっ、と短い息の合間に俺は呟いた。銀時が恐る恐る瞳を開けて、鏡越しに視線が合う。情けない面をしていて、そんな銀時が心底愛しいと思った。
「てめェが……俺に、飽きるくらいまでなら、ワケもねぇ。つきあってやるよ」
「はっ……じゃあずっと惚れといてくれよ。付き合ってくれや、俺が死ぬまで……」
笑った口元につられて俺も口元を綻ばせた。『死ぬまで』なんて本気かどうか分からないが今はその言葉に満足した。
「ああ。てめぇなんか糖尿ですぐポックリ……いや、その前にEDか?」
「なっ、何言ってんの?! 銀さんは生涯現役ビンビンだからね。このネオアームストロング砲は死ぬまで撃ち続けるんだよ! お前こそ、ンなこと誓っちゃうくらいだから覚悟は出来てんだろーなァ?」
グリッと突き入れられて息を飲む。反射的に締まったナカが、奴の大きさとカタチをしっかり伝えてきた。
「今だけじゃねーよ。何年経っても……土方くんが真選組引退してオッサンになっても、万事屋で嫁になるように囲って……こーやってセックスして、種付けして……あんあん啼かせてやるから、な」
「……はっ、ぁっ、ぁっ、あぁ……よろずや…ぁ…! んあっ♡ ぁん♡ ぁ♡」
ゆっくりと波打つように腰を動かされて、応えることができない。
「覚悟しとけよ」
快楽の絶頂にむけて徐々に上り詰めていく。
「……好き」
「ぁぁっ、んくっ、はっ、……おれ、も」
「お前に惚れてるよ、十四郎」
「ひ……っ! う、んん、ふぁぁ」
不意打ちの告白に俺は顔が熱くなるのを感じた。────こんな時に言うなんて反則だろ。
「好きだから、もう離れんなよ……なあ」
切なげに、胸が締め付けられそうな声音で言うから、俺の心も締めつけられる。
「俺も、すきだ……銀……とき」
初めて呼んでみた、奴の名前。今までは恥ずかしくて、俺なんかには呼ぶ権利もないと諦めていて、ずっと呼べなかった名前。
「ばっ、も……このタイミングでそんな顔して言うとか反則……」
真っ赤になった銀時が慌てふためくから、名前を呼ぶのも悪くねぇな、なんて思ったのに。更に質量を大きくしたモノを音を立てながら激しく打ち付けられ、揺さぶられて何も考えられなくなってしまう。
「ぅっ♡ あっ♡ はぁっ…んん♡ ぎんときぃっ♡ ぁあっ♡ もっ……ぎん、ッ、ぁあん♡」
はぁはぁと熱くなった激しい吐息を二人して吐き出せば目の前の鏡が上気して白く曇り、姿が見えなくなる。俺の身体も、銀時の身体も、輪郭も、白く煙って詳細なことが分からなくなっていった。少し惜しい。もっと銀時を見ていたかったと、思う。
「ん、はっ……ぁ、とおしろ、ぃっ、くっ……好きだ、とおしろ……っ」
「ぁ…ぁああ! ぎんっ、も、おれ、もうだめ、いくっ、いくゥ……ヒぃッ♡ あん♡ ぁあああ……♡♡」
「ッ、ァ……! 出す、から……飲み込めッ」
絶頂すると教えれば、銀時は更に激しく腰を打ちつけた。前立腺を擦られて、奥まで何度も銀時のに突かれながら、俺は快感を吐き出した。と同時に、きゅんきゅん締まる尻の中にも温かい飛沫を感じ、銀時の身体が弛緩していくのを感じる。
「ぁあン……ぅ、はぁ♡ おまえ…の♡ きたぁ♡ ふ、俺んナカ……ドロドロで、あったけぇ…♡」
「はっ、……ったくよぉ、かわいいこと言ってくれちゃって……お疲れさん、十四郎」
荒い息が部屋に響くのを心地よく感じながら、俺は大きく息を吐いた。
***
土方十四郎って男は、自分のことに関してホント疎いやつだと思う。
真選組では鬼の副長とも呼ばれているせいなのか、自分は周りの人間に嫌われていると思っているし、それでいいと思っている。
近藤はなんでも笑って取り入れてしまう性格だから、自分が規律を守って厳しくすればいいと背負いこんで、そのせいで憎まれてるんだと思ってるんだろう。
だけどな、厳しくしても隊士たちのお前を見る瞳は羨望の眼差しに決まってるから。鬼の副長に怒鳴られてるくせにどこか嬉しそうに見えるのは俺の目が腐っているからではない。
土方が怒ったり、厳しくするのは愛情表現の一部。ホントに嫌いな人間ならあいつは眼中に入れもしない。近藤や沖田、ジミーやハゲだけじゃなくて、隊士の連中だって皆それを分かっている。
少し頬を紅く染めながら眠っている土方の頬を撫でる。俺が何度も泣かせたせいで目元も腫れぼったくなっていて、起こさないように気をつけながら優しくキスをした。黒の髪が肌にかかり、影をつくる。髪をかき上げてやると、普段はV字前髪で隠れて見えなくなってるおでこが見られる。なんつーか新鮮だし、そんな小さいことだって愛おしい。
「汚くなんかねェ。お前に醜いところなんて一つもねぇよ……土方」
あるとすれば、現在進行形で俺の中に巣食いまくってるこの想いだろう。
誰にも見せたくない、誰にも触らせたくない、俺だけの土方にしたい。どこかに閉じ込めて、真選組も近藤も沖田もジミーもハゲも、他の隊士のことも全部忘れて俺だけのことを考えてほしい。そんな浅ましくて醜い想いを知られたくないし、真選組の副長として生きる土方だから俺は惚れたんだ。
コイツから大事なモンを取り上げればコイツは人形となり、何も心に映さなくなるだろう。だから、そんなことは絶対にしない。土方の居る場所を、大切なものを護りたいと思う。護りたいとか言えるほど土方が弱い男じゃないとは知っている。じゃあなんでそんな風に思うのかって言えば難しい理由じゃなく、土方は強いけど、それ以上に俺にとって土方が特別で、大事で、惚れてるってだけだ。
「ん……」
無意識にずっと頭を撫でていたせいで、寝てた土方を起こしたかもしれない。眉根を寄せた土方にピシリと固まったが、その手に擦り寄るように土方は頬を寄せてきた。いや可愛いすぎんだろ。
俺の素直な股間へモロに衝撃を与えておきながら、本人はそのまま再び心地良さそうに眠りに落ちていく。
────コノヤロー! こんな姿見たら、男なら誰だって勃っちまうから! 見せねぇけどっ!!
ホントこの子は人の視線とか思いとかに鈍いとこあるから。沖田くんのせいで、事実をかなり歪曲して信じているみたいだけど、お前を怖いとか嫌いだなんて思っている人間はいない。
どちらかっていうとお前とキスしたい、抱きしめたい、抱きしめられたい、あわよくば二人で……とか思ってる奴ばっかりだからね。いつも殺したがってる沖田くんだって「殺りてぇ」が「犯りてぇ」になっている時があるから。お前は信じないだろうけど、銀さんは気付いてるからね。だからお前も、もっと自分を知って防御してくれよ。他人の好意に疎くて、自分の魅力に自覚がない恋人ってやつは心臓に悪い。手放すつもりは一切ねぇけど。
大きく深呼吸して、心の中で素数を数える。自分と自分の息子を落ち着かせてから再び頭を撫でてやると、土方の口元が少し綻んだ。……まぁ、こんな姿を俺だけに見せてくれるんだから良いってことにしようかね。俺も大概だと苦笑いを浮かべて、土方の柔らかい頬に唇を近づけた。心底好きだ。口にするキスは、目が覚めてからのお楽しみにしよう。