翡翠に露

 気づけば恋に落ちていた。同じチームの仲間である左馬刻を恋愛的な意味で好きだと自覚したのはつい最近のことだったので、具体的に、いつこの瞬間、とは挙げられないが。
 碧棺左馬刻。MTCのリーダーで、ヤクザだが根は優しい。弱いものを助け、ヨコハマディビジョンの住民にも好かれている。ガラは悪くとも筋は通っている男だった。緊張が緩んでいるときの気安い声や、スカイハイタワーの観光に行ったとき、子供みたいにはしゃいでくる一面も知った。こいつも年下なんだなと、「小学生みたい」だなんて言い合いながら、ハマの暴君相手に可愛いところなんか見出したりして。
そうして過ごすうちに、左馬刻のことが好きだと気づいてしまった。女に優しく接する左馬刻を見て、悋気を走らせたことだってある。決して言わないが。
左馬刻のことを目で追ってしまう。左馬刻の一挙手一投足を意識してしまう。左馬刻に肩を組まれるとドキリとしたし、触れた箇所は火傷したわけでもないのに熱が残る。煙草の火を移すときに左馬刻の長い睫毛まですぐ近くで確認できる位置にきやがるから、心臓に悪い。知ってか知らずか、至近距離の状態で左馬刻が視線を絡ませてきたりするのが、余計に悪い。
「……はぁ。どうしたもんか」
 人知れずため息を吐き出す。誰にも話せない片想いを拗らせている自覚はあったが、最近の悩みの種がこれまた酷いのだ。恋は病とはよく言ったもので、この病は誰かに聞くまでもなく悪化している。
 何を隠そう、左馬刻とセックスする夢を見るようになってしまったんだ、俺は。
 更に詳しく述べるなら、ベッドの上で左馬刻に抱かれる夢を頻繁に見るようになってしまった。
 シチュエーションは多岐に渡る。左馬刻に告白をして「俺様も好きだぜ」なんて有り得ない返答をくれる夢は、有り得ないが、まだ良い。左馬刻と両想いでイチャイチャするセックスの夢を見た日は、まだ良い。良くはないが欲はあるし、夢から覚めたあとの虚しさったらないが。オプションでヨコハマの朝日の白さが余計に疾しさを倍増させてくれる。
だがしかし、だ。これがうっかり、眠っている左馬刻に欲情して断りもことわりもなく着ているヴィンテージのシャツをはだけさせ、派手な下着をずり下ろし、奉仕をしてペニスを咥え、自分のアナルを指で拡げてほぐして、最後は寝ている左馬刻に乗っかって犯してもらう・・・・・・・夢なんか見てしまった日には、左馬刻を自分勝手な欲の捌け口に使ってしまったようで一日中ひたすら罪悪感と劣情に取り憑かれる。そろそろ日常生活に支障をきたすようになってきた。翌朝は勃っているせいで、朝からヌくことを余儀なくされる。
 今日はその良くない夢を見てしまった日だったから、左馬刻には会いたくなかった。朝から左馬刻をオカズにヌいてしまった居心地の悪さもあり、飲みに誘われたが断る。それは今日に限ったことではない。というか最近ずっと左馬刻とのいやらしい夢を見てしまうせいで、気まずくて本人に会うのを避けていた。忙しいって言ってるんだから左馬刻も察して諦めてくれれば良いのに、何度も連絡してくるから何度も断る羽目になっている。
 だが、会うわけにはいかない。
 寝ている時に見る夢は願望の現れ、とも言うだろう。
だとすればだ。困ったことに俺は左馬刻に抱かれたいと、なんなら逆レイプでもかましちまいたいと、そう思っていることになる。なんだそれは。やべぇだろ。犯罪以外の何物でもない。下手に左馬刻と親しい距離で関わって──例えば酒を飲んだりなんかして、気がゆるんでしまった時なんかに──そんな邪心がうっかり出てきてしまったら目も当てられない。
 左馬刻の女の好みについて、詳しくは知らない。そんな色恋沙汰を話したことはなかったし、それ以前に俺の性別は男で、左馬刻の恋愛対象だろう美しい女になんてなれるわけがない。なりたいとも思わない。

 惚れてるからって左馬刻をどうこうしようなんてつもりは勿論ないが、厄介なことに左馬刻は聡い。自分本位な俺様だが、人の機微が案外と分かる奴で、そんな左馬刻だからこそ若頭になって、周囲から尊敬されているんだろう。ああかっこいいな。そういうところも好きだ。いや、こっちの都合も考えず振り回されたって、ふざけて殴られた時だって、口喧嘩に発展したって、結局のところ好きだって気持ちは変わらない。こんなにも好きだと左馬刻本人に知られたらどうなるだろうか?
『……おい銃兎ォ、テメェまさか俺様のこと好きになったりしてねぇだろうな? カマ野郎なんて面倒だから勘弁してくれや。気色悪いんだよ』
 実際の左馬刻に言われたわけでもないのに、ぞっとするほど生々しく、耳の奥で響く幻聴。皮手袋の下で、指先が冷たくなる。
 そうだ。同じチームメンバーの男、しかも四つも年上のポリ公に惚れられてるなんて悪夢だろう。悪夢が現実になって左馬刻に降りかかるなんて、俺自身が許せない。
 左馬刻は女にモテる。格好いい。声も聞いてて心地が良いし、紡がれるラップのリリックも最高だ。アウトローのカリスマだ。女だけじゃない。男だって左馬刻を見て、きっと憧れるだろう。元TDDの碧棺左馬刻を知らない人間なんていないくらいに有名人で、そんな男に口説かれてチームに誘われたんだから、俺も少しは、自惚れではなく左馬刻に気に入られている、とは解る。だからって惚れられて、あまつさえ抱かれたいと欲情されて慰みに使われているなんて、絶対に知られるわけにはいかなかった。我らがリーダーを困らせたくない。

「んっ……はぁ、あ……」
 気づけば恋に落ちていた。だから人を好きになって、こんなにも性欲の箍が外れてしまうなんて思いもしなかった。
 なにせ恋なんて知らなかったんだ。今は左馬刻のことを考えるだけで、どうしようもないほど身体が熱くなってしまう。最近の俺は、いやらしい夢を見るだけでは済まなくなっていた。週に何度もマスターベーションに耽るなんて、思春期の頃でもなかったのに。頻繁に擦りすぎじゃないのか。俺のチンコ、こんなに擦って大丈夫なのか。でもやめられない。左馬刻が俺の寝室に勝手に入ったことを知ったときに怒ったのは、こんな俺を知られたくなかったからでもある。
左馬刻め、俺の気も知らずに。俺が、ここで左馬刻に、エッチなことしてほしいって言ったらしてくれんのかよ。
「さまとき……」
 想像してみる。俺を押し倒して、キスをして、それから……左馬刻・・・の手が、ベルトを緩めてスラックスを脱がす。下着越しに指で触れる。それだけなのにもう気持ち良くて、腰が揺れてしまいそうになる。
『淫乱ウサギ。まだ触ってやんねぇよ』
「そんな……ぁ、んン」
 俺の着ているシャツの前を開いていく。左馬刻に胸のてっぺんを探られ、思わず変な声が出そうになった。いやらしく尖っている乳首を転がされる。じんわりとした快感が広がっていって、もっと沢山、乳首を弄ってほしいと思ってしまう。そうすると今度は反対側の胸を、クリクリと指で挟まれる。
乳首って、舐められたらどんな感触なんだろう。舌先で転がされ、左馬刻の白いエナメル質で、かぷっと。甘噛みされてみたい。しゃぶられて、唾液まみれになった突起を指で摘まれ、狙いを定められて、音を立ててじゅるじゅる吸われたら。
「はぁぁん…っ! だめ……だめ、さまとき…っ」
 雌じみた声。びくんっと跳ねた腰。左馬刻にペニスの先っぽをぐりぐりされる。布地越しだというのに刺激が強くて、下着の中は透明な粘液でぐしょぐしょになってしまう。
「あぁぁっ! あっ、ぁん、ふ、うぅ……!」
 駄目だ。このままだと、すぐにイってしまいそうだ。左馬刻のことを考えたらすぐに昂ってしまうこの身体はすっかり快楽に弱くなってしまっていて、自分でも恥ずかしくて仕方がない。左馬刻はどんな風に女を抱くんだろう。俺は男だから、女のように柔らかくないし、左馬刻を受け入れる専用の器官だってない。それでも良いと言ってくれるだろうか。
『なあ、抱かせろよ銃兎』
「くぅ、ひんっ……ああ、……ふ、っう……は、はぁ、……はぁ……はぁ、……くそ」
 吐き出した白濁を見る度、虚しさと恋しさで胸が締めつけられた。
 
 
 
「あぁっ、んん……ぁ、はぁっ、ぁ……さまとき、さまときっ……んぅ、ああ…」
 左馬刻への気持ちを抑えられなくなってしまった俺は、やがてアナルを犯すオナニーに夢中になっていった。夢の中ではフワフワしてて、左馬刻に夢中になっていて、よく分かっていなかったが──男同士のセックスは、ここを使う。最初は指一本入れるだけでも痛かったのに、今では二本、頑張れば三本も入るようになった。左馬刻のモノはきっと大きいから、もう少し拡げないと無理かもしれない。だから左馬刻の代わりに、玩具を使ってみようと思ったんだ。黒光りするディルドは少し怖いが、興味を持ったのも必然だろう。使ってしまえば深みに入ることも分かっていた。躊躇いはあったが、このまま燻る熱を持て余して過ごす夜には、もう耐えられない。ずっと熱が篭っていて、発散させたくて仕方なくて。俺は腹を決めて、初心者向けと銘打たれていたディルドを通販で購入した。そういうオトナの玩具専門のアダルトサイトだ。
 まずはローションを使って、たっぷり濡らす。ぬるついた中指で入り口付近を撫でるだけで、ぞくりと背筋が震えてしまうくらい感じてしまう。早くほしい。でもまだダメだ。もう少し慣らさないと。息を止めないように意識しながら深呼吸を繰り返す。そしてゆっくりと人差し指を差し込んでいった。
 最初の頃は指を突っ込んでも違和感しかなかったが、今は違う。抱かれたいと欲するナカにローションを含ませて、自分の指でクチュクチュ掻き回して慰めてしまう。ナカに気持ちいいところがあるんだ。数cm入れて、お腹側に押し上げる。小刻みに探るみたいに動かし、内壁に軽く触れ、自分の気持ちよさに合せて力をコントロールしながらそこに触れると、堪らないほどの快感がナカにじんわりと広がった。
「ぅぅんん……ぁん、きもちい……」
 指を曲げて押し込むように触れれば、電流が走ったみたいに痺れて、腰が浮いた。
「ひゃあん……ッ!? ぁ、ぁ……」
 こんなところを触ると気持ちよくなるなんて、左馬刻を好きになる前は知らなかった。いやらしい声が止まらず、唇の端から唾液が垂れていく。
「なぁ、見て……っ、ここ、ここ気持ちい、から……!」
 乱れている姿を見てほしい。左馬刻の視線を想像すると、ますます興奮してしまう。左馬刻はどんな顔で、何を考えるんだろう。左馬刻が好きだ。あの手で擦られたい。乱暴に手マンされてもいい、左馬刻にだったら。左馬刻に抱かれてみたい。左馬刻に抱かれて、奥までいっぱい突いてもらって、最後は左馬刻に種付けされたい。そうしたらどんなに──
「やっ、あっ、ぁ……ほしい……ぁ、んっ……」
「へえ。何がほしいんだ?」
 ひゅっ、と息が止まる。突然聞こえてきた低い声に心臓が痛いほど早鐘を打ち、それなのに血液が逆流するような底冷えが駆け巡る。
 振り返り、見上げると、ああ、なんということだろう。寝室のドアが開け放たれ、そこには左馬刻が立っていた。夜な夜な俺が求めてやまなかった男が、そして一番会いたくなかった男が、目の前でニタリと悪辣に笑う。思考が真っ白に塗り潰され、身体が碌に動かない。
「さまっ……さま、とき……? なんでここに、お前」
「合鍵持ってっからに決まってんだろ」
 そういえば、以前しつこく強請られて渡していたような気がする……。ベッドサイドに置いてあった時計を見ると時刻は既に深夜二時を過ぎていて、こんな時間まで一人で自慰に浸っていたのかと思うと頭がくらくらしてきた。しかし、今はそれどころではない。左馬刻がいるのだ。俺の部屋の中に。その上よほど機嫌が悪いらしい。潰しにかかるような重苦しい怒気が、痛いくらいだった。当然かもしれない。メッセージを無視、はしてないが、飯や酒に誘われても断ってばかりだったから。
 それなのにこんなところ。どうしよう。見られた。よりにもよって一番見られたくない奴に!
 必死になって隠そうとしたのだが、それよりも先に左馬刻の手が伸びてきて、俺の手首を掴む方が早かった。左馬刻はニヤリと笑う。
その瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。俺の身体は恐怖を覚えている。
 左馬刻はもう片方の手で器用にベルトを外すと履いているジーンズを脱ぎ捨てた。ボクサーパンツの中に左馬刻のペニスがあるんだと思うと恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまう。
 左馬刻は手を伸ばして俺の腕を掴んだ。そのまま引っ張られ、バランスを崩して左馬刻の上に倒れこんだ。左馬刻は俺を抱き留めながら起き上がると、今度は後ろに押し倒してくる。背中にはシーツの滑らかな感触があり、目の前には綺麗すぎる左馬刻の顔があった。俺は咄嵯に逃げようとしたが、すぐに捕まってしまった。両手首を掴まれ、頭の上で固定される。
 怖い。何を考えているのかわからなくて、怖くて仕方がない。左馬刻は顔を近づけてくると耳元で囁く。
吐息混じりの低い声で名前を呼ばれるだけでびくついてしまう自分が情けなかった。
顔を上げた左馬刻は俺の頬を優しく撫でたあと、首筋へと移動していく。
「ひっ……な、なにしてるんだよ!」
「なんだろうなぁ?」
「おい、舐めたりなんか!! ッ、ふ」
 左馬刻は俺の制止など聞いちゃくれない。赤い舌を出して、べろんと首筋を舐めた。生ぬるく湿った感覚に身震いし、変な声が出てしまいそうになったから慌てて口を塞ぐ。そのまま鎖骨の方に向かっていき、ちゅっちゅっと音を立てながら口づけを落としていった。時折強く吸い付き、皮膚の薄い部分に痕を残していく。その間ずっと、左馬刻は俺を見つめていた。いつもなら睨み返しているところだが、今はそれすらできない。だって、目が合ったらきっとバレる。俺が自慰行為に耽っていた理由が。
 もう既に勘付かれてしまっているかもしれないけれど、それでもやっぱり知られたくはなかった。だからぎゅうっと目を閉じる。すると余計に感じてしまった。
──胸元の突起に熱い息がかかる。
だめ、だめ、そこは本当に弱いんだ。
左馬刻がそこに触れる前にどうにか諦めてもらおうと身を捩った。しかし、無駄だった。左馬刻に両肩を押さえつけられ、動けなくなる。
そしてついに、
「ひゃあん……ッ!? ぁ……やっ、そこ……っぁあぁ…」
 乳輪ごと口に含んで吸われた。じゅるっという音が立つ程に強く吸われ、ちゅぽん、と離される。目に見えてぷっくりするのが分かってしまい、頭の中が溶けそうだ。
「何が嫌だよ。コリコリさせてるくせに」
芯を持ってしまった乳首の先端を前歯で噛まれた。
「ひぃぃ……っ!?」
 夢想していた光景と、実際の感覚が、重なる。痛み交じりの強い甘い痺れが電流のように走ってつま先がぎゅっと丸まる。痛い、はずなのに気持ちいい。もっとしてほしい。そう思ってしまう。
 でも駄目なんだ。これ以上されたら、我慢できなくなる。力の抜けそうになる身体を叱咤して左馬刻の両肩を押し返した。
「おい邪魔すんじゃねぇよ」
 本当は嫌じゃない。やめてほしくないし、むしろ、嬉しい。だけど、そんなこと言えないんだ。俺は男だし、左馬刻とはチームメイトで、友人で、仲間で、それ以上を望むなんて間違っている。もし想いを伝えたとしても、拒絶されて終わり。そんなのわかっているから。だから俺は自分の感情を殺すことにした。俺が黙りこんでいると、左馬刻は微かに笑う。
「なンも言いたくねぇってか?」
「………」
「良いんだぜそれでも。流されて、絆されて……全部、俺様のせいにしろよ、悪徳警官」
 再び身体に触れてきた。中途半端に着ていたシャツを脱がされ、露になった上半身をまじまじと見つめられ、恥ずかしさのあまり腕で隠そうとしたのだがすぐに阻止されてしまう。それどころか、左馬刻は俺の腕を掴むとベッドに押し付けた。それからまた胸に顔を近づけると、
「んぅ……ふ、あ……はあっ……」
 舌を使ってねっとりとした愛撫を始めた。熱くぬめった舌先で乳首を捏ね回される度に、強い快感に襲われて腰が浮く。それを見越したように左馬刻は空いている方の手で下腹部に触れた。
「勃ってんじゃねえか、ここ。えっちなウサちゃん」
「ん、はぁ……ああ……ッ、ちがう、勃ってない……」
 嘘だ。俺は左馬刻の言う通り、性器をとっくに硬くしていた。左馬刻は俺の答えにあからさまな不満の表情を浮かべたあと、手の動きを再開させた。指先で亀頭を撫で回したり、裏筋をなぞったり、陰嚢をくにゅくにゅ揉み込んだりされる。ちゅぱちゅぱ音を立てて乳首を吸われ、敏感になった尖りを摘まれ、転がされる。堪えきれずに透明な汁が先端から溢れた。左馬刻の手を汚していく。
「ひっ……ぁあ」
「見ろよ銃兎。エロ汁でドロドロにしてるくせに、これで勃ってねぇって?」
「ぁ……っ、ごめんなさ、……勃ってる……おれの、勃ってるから……!」
「おい、ちんことケツどっちがイイんだよ。言ってみろ」
「………っ」
「ほら、言えって。なあ、じゅーとォ!」
「う、ううっ、……お尻の方が、いい……!」
「……はっ、開発済みだもんなァ。じゃあお望み通りにしてやんよ。……俺様を避けてピョンピョン逃げまくってたウサギは、こんなドスケベなオモチャ買って遊んでるんだもんな」
「!? ……そ、それはっ」
 今日はこれを初めて使おうとしていたのを、今更になって思い出す。すぐ使えるように転がしておいたのが裏目に出た。
「コイツをどうするつもりで買った?」
 紅蓮の火を燃やす左馬刻の瞳から激情が伝わってくる。抑えることもなくそのままが俺に向けられている。左馬刻が目を細める。それだけの仕草で頭の天辺から爪先まで焼かれそうだが、真相を話すわけにはいかない。
「別に、どうしようが関係ねぇだろ……!」
「ケツで気持ちよくなりてぇだけなのか? それとも……」
 左馬刻の指が俺の顎を掴んで、強制的に視線を合わせられる。それまで熱かったはずなのに、サッと体温が急激に下がるのを感じ、硬直した。蛇に睨まれた、ならぬ、左馬刻に睨まれたウサギ。
「誰かに抱かれる準備でもしてんじゃねぇだろうな」
 静かな怒りが、確かにその言葉には込められていたように思う。俺を見下ろす左馬刻の表情は、照明で逆光になっていてあまり見えず、真っ赤な瞳だけがギラついて見えた。しかし、ギラついた獣の光を[[rb:湛 > たた]]えているにも関わらず、左馬刻はいっそ穏やかに笑ってみせた。
「なあ、教えろや。銃兎はこんなオモチャ買って何に使ってんだよ。オトコに抱かれる準備してんのか? 俺様とは会わねぇくせに、他の男とは会ってんのか。薄情な兎だな」
「さま、」
「ほぐしてオモチャ挿れてケツ慣らしてンだろ? 偉いなぁ政府のウサギは。今日は俺様が準備手伝ってやるからよ」
「……は、ぇ、左馬刻……!? ゃ、っ、…んぐぅ……ふぅぅっ」
 甘やかすような声とは裏腹に、ゴムの表面を口に強く捩じ込まれる。ぐいぐいと容赦なく押し込まれて、息が苦しい。反射的にえづいて咽せると、左馬刻はそれを見下ろしていた。
「ちゃんと舐めねぇとダメだろ。野郎のチンポに奉仕する練習だ。舌使え」
「ん、ぶっ……、んぇ、…んう!!」
 抵抗しようと腕を伸ばせばあっさり捕まえられ、むしろマウントを取られてしまった。
 頭をがっちり押さえられ、舌を引っ張り出され、ディルドの黒光りするゴムが添わせられる。口の中をぐぽぐぽとディルドが掻き回した。
「なぁ銃兎ぉ、口の中にも性感帯はあるって知ってっか?」
 そう言って、舌の付け根や上顎をゆるゆると優しく撫で擦られ、背中がゾクリと震える。左馬刻に、こんなことされてる、なんて。
「気持ちよさそうな顔しやがって……くそ」
 ちゅぷ、と音を立て、口内を蹂躙していた玩具が引き抜かれた。口の中を掻き回されただけだと言うのに、左馬刻にされたせいなのかすっかり性感が高まってしまい頭がぼーっとする。
「フェラだけじゃ足りねぇよな。分かンだろ男なら」
「ひぁっ」
 うしろに、左馬刻の指が触れる。先程まで触れて楽しんでいたせいで、残っていたローションがこぷりと溢れていく。
「俺様が来るまで、ずーっとここ掻き回してたのか」
「み、みるな……!」
 はしたない姿を見られたくなくて、手で隠そうと腕を伸ばしたけれど、いとも容易く捕まえられ、頭上でまとめられてしまった。そのままぬかるんだ秘所に左馬刻の指が差し込まれる。
「んぁっ! ぬ、ぬけ! ひっ」
 内部を暴く指はあまりに器用で、あっという間に快楽の虜にされてしまう。自分で慣らした時点では二本だったのに、左馬刻の指が俺の身体を解してしまう。いつの間にか三本も受け入れられるようになって、増やされている指に、しかし苦痛は感じなかった。自己開発してしまった前立腺を左馬刻の節立った指で的確にまさぐられると、甘ったるい声が止まらない。
「ぁああ! ぁあ、あっ、ひぁ、アぁっ…やめ、そこ、そこやぁっ」
「嫌ァ? 気持ちよくて最高ですってツラしといて、それはねぇだろ。ナカがとろとろになって、俺の指しゃぶってんぞ」
「ぁああ……っ」
 じゅぷ、じゅぷ、じゅぼじゅぼと指の根本まで何度も押しこめられる。苦しくなかった。むしろ、気持ちよかった。自分の指でするのとは違う、大好きな左馬刻の指の感触に、身体が悦んでいる。
「そんで、これから誰に抱かれようとしてんだよ、銃兎」
 ゆっくりと優しくナカを責める手は休めずに、左馬刻が聞いてくる。尋問みたいだ。お前に抱かれたくてナカが疼いて、我慢できなくなっちまったんだ、なんて言える訳もなく。ただ、目を閉じ、口を噤んだ。
 しかしそれは失敗だったらしい。
「……ただ単にケツで気持ちよくなりてぇドスケベだってことか?」
「なっ……」
 ドスケベ呼ばわりされて絶句していると、先程口に含まされた黒光りするディルドを手に、左馬刻がにやりと悪い笑みを浮かべた。
 嫌な予感に逃げようとしたものの、性感帯を押さえられては逃げられるはずもなく。
「男をヤんのは初めてだけどよ、気持ちよくしてやるぜ。銃兎の玉ン中空っぽになるまでイカせてやる」
 耳元でそう言われ、期待にナカがきゅんとうねった。
 
 
「あっ、ひああっ! や、もぉ、もうやらぁっ! とめろっ、とめろぉ!」
「え? ンだよ、もっとか? ドMウサギ」
「ちがっ、ひゃう、あ、ああっ、んぅう」
 ナカに入れられた玩具は、前立腺を押し上げるように手で固定されている。
 それだけでも耐え難いほど気持ちいいのに、せっかくだからとスイッチを入れられてしまった。
 左馬刻は手を器用に動かして、前立腺から離さずに強弱を付けてくる。
 強く押されるたびに鋭い快感が神経を駆け巡り、身体が跳ね上がって、甘く蕩けきった声を上げてしまう。
過ぎた快楽に逃げようとする俺の腰を掴んで阻止してくる。逃げようともがけばもがくほど、体内のディルドの凹凸がぐりぐりと動いてしまい、擦られて快感を拾ってしまう。
「あううっ! あ、んあぁっ、とめ……ひぅぅ!!」
「もうそろそろか」
「ひぁんっ! あっ、あ、だめっ、い、いくっ、いっちまう……!!」
もう無理だった。
 理性がぶっ飛びそうになるくらい強い刺激を与えられ、頭がおかしくなりそうだ。
 イきたい。早く楽になりたい。
そんな思いが頭を埋め尽くしていく。すると突然、ぴたりと動きを止められる。
左馬刻、どうして、なんで止めてしまうんだ。もう少しでイケそうだったのに。
思わず泣きそうになった時、耳元に唇がくっつくほど顔が寄せられて囁かれた。
「誰のために準備してたんだか知らねぇが、来なかったソイツが悪いよなァ、銃兎」
ずぶり、と、昂って角度のついた左馬刻の熱いものが、中に容赦なく打ちこめられた。
 
 
「ほら、誰のチンコに犯されてんだよ」
「ぁ……ぁ…」
「こんな素直に掻き回されて……誰にされてんの?」
「ひんっ……ふぅ、ん」
「ちゃんと答えねぇと。俺様が誰か分かんねぇのか?」
「…さ、さまとき……」
 左馬刻ので、犯されてる。口に出した言葉の威力は絶大で、意識して自覚してまうときゅんきゅんと内壁がうねった。左馬刻だ。夢にまで見るくらいにほしかった、俺の好きな、左馬刻の。
「そうだな。めちゃくちゃ良いぜ、銃兎」
「くぅん……っ!」
 耳に吐息を吹きこむように囁かれ、力が抜けていく。
「今まで抱いたどの女より良い」
「ん、ぁぁ……さまときっ」
「銃兎、じゅーと……抱かせてくれてすげぇ嬉しい……ふ、締め付けてんのか? 可愛いやつ」
 好きだ。好きすぎてどうにかなる。心の底からそう思うくらいに絆されている。こんな風に優しさを向けられて、恋人みたいに囁かれてオチない女はいないだろう。今こうして抱き合っていることが嬉しくてたまらない。身体は正直で、左馬刻を受け入れた部分はきゅうっと収縮を繰り返して、俺の性器からは先走りが流れ続けている。
「うしろ痛くねぇか? ウサちゃんのピンクのニンジンからエロい汁がダラダラ垂れてくるもんな。痛くねえか」
「ぁあ……っ!」
 くちくちと指先で穴の縁を撫でながら聞いてくる。その仕草だけでたまらなく興奮した。
俺は必死になって首を縦に振った。気持ちいい。気持ちよすぎる。左馬刻が俺のことを気にかけてくれているという事実がどうしようもなく幸せだった。
低い声で「動くぞ」と言われれば期待せずにはいられない。
「あんっ! ぁ、くぅん、あぁっ!」
 左馬刻のもので奥まで突き上げられる度に甘えたような声が出る。
「んなに可愛い声で啼きやがって、恥ずかしくねぇのか?」
「あ、んあっ! はずかし、けど……っ、さまときとするの、きもちい、から……!!」
「はっ、どすけべウサギ」
「ひゃうゥっ!? あっ、ァッ、あああっ!!」
 ぐちゅり、と音を立てて勢いよく引き抜かれ、また最奥目掛けて突かれる。何度も繰り返されるうちに、頭が真っ白になりそうなほどの快感が波のように押し寄せてくる。腰を掴まれて揺すられる度、自分のものとは思えない甲高い喘ぎが漏れて止まらない。
「出たり入ったりしてんの、すげぇエロいわ。ゴムつけなくて正解だったな」
 女にするのとは違う荒々しいセックスに、ぞくりと興奮した。左馬刻の熱くて硬いものが俺のナカを行き来するのが分かる。いつも一人でする時なら加減ができる。こんな風に乱暴に扱われたことなんてないから、余計にドキドキしてしまう。
男としてのプライドとか、そういうものが粉々に打ち砕かれて、ただひたすら与えられる快楽を受け入れることしかできない自分が恥ずかしいけれど、それでもこの行為をやめたいとは思わなかった。
 むしろもっとしてほしいと思うくらいだ。だって、ずっとほしかったんだ。叶わない恋だと諦めていた。その相手が今、不慮の事故がきっかけだとしても、俺の目の前にあるんだ。
「ひぁんっ」
 腰をがっちり掴まれながらナカを抉られ、悲鳴のような声が漏れた。そこはまずい。奥に左馬刻の切っ先がトントン触れると、そのたびに妙な感覚が広がる。そこは、まだ一度も触れたことのない場所だ。抵抗したくて跳ね上がった足が、しかし宙を蹴る。苦しいほどの質量が腹の中に収まっているのが分かる。左馬刻のものは太くて長くて、初心者向けのディルドとは比べ物にならないほど凶悪で、だから、そこを突き上げられたらひとたまりもないのに。無理だ。絶対入らない。こわい、と本能的に思った。だが左馬刻は容赦がなかった。俺の両足を抱え上げて肩に乗せると、そのまま体重をかけて押し込んでくる。
「ひっ……」
 内臓を押し潰されそうだと思った瞬間、ずぷんっと、先端が嵌まりこむ感覚がした。みっちり拡げられたところに、左馬刻のが、きてる。
「じゅーと、てめぇも分かんだろ」
「ぁ、…うう…ぁ、ぁ」
「もっと力抜けや」
「っだめだ! だめ、さまとき……! それこわい、はいってきちゃやだ、そこやだぁ、やめ、やめてぇ…っ!!」
 逃げを打つ腰を押さえて執拗に責め立てられる。嫌でも意識させられる結合部の感触に、俺は泣きじゃくった。左馬刻のが、ぜんぶ。根元まできてしまう。こわい、こわい。
「じゅーと、お前他の男に抱かれてんだろ。どうせ誰でも良いんだろ」
「ッ、そんな」
「だったら俺だって良いじゃねぇか」
「ひ、ぃっ……ぁぐ」
「俺を受け入れろよ。俺が連絡しても、忙しいとか仕事だって避けて……なあ、これ以上、俺のこと拒むんじゃねぇよ…」
「……さまとき…」
 左馬刻の表情が、まるで迷子みたいに頼りなかったから。こわいし、苦しいのに、左馬刻のペニスがどんどん深く入ってくるのを止められない。痛い。熱い。苦しい。息ができない。それなのに、左馬刻を抱きしめる俺はなんなんだろう。左馬刻がキスしてくれる。ゆるくキスしながら力を抜いて、俺は左馬刻を受け入れる。みちみちとひどく圧迫されながら、ぐぽ、ぐぽ、と結腸の入口を撫でさするみたいにかきまわされて、おれの、頭が、おかしくなりそう。ぐぽん、と入り込んだ時、心底嬉しそうに笑った年下のかわいい男が、耳元で囁いた。
「ふ、……いいこだな、じゅーと」
 低く掠れた声。熱い。汗がぽたぽたっ、と俺の上に落ちてくる。興奮しているのが伝わってくる。俺で興奮してくれているのが嬉しくてたまらない反面、なんというか、その。
 ……とても言いづらいことだが、膀胱が刺激されて危うい感覚が先ほどからしている。もう数時間以上トイレに行けてない状態でこんなに執拗にされて、いよいよ尿意が無視できなくなってきた。このままじゃ、左馬刻のモノを挿入されたまま漏らしてしまいそうだ。ムードもへったくれもなくて憚られるがこればかりは生理現象だ、仕方ないだろう。俺は恥を忍んで左馬刻に告げることにした。
「左馬刻……っ、あの、そろそろ限界なんだが……っ」
「あ? 何言ってんだこれからだろ」
「ちがう、も、もれそうなんだよ……っ! 漏れる! お前がこんな奥までチンコ挿れたせいだ! ほんとうにもれる……だから、トイレに行かせてほしい……」
「はぁ?」
 尿意を堪えていることを伝えると、左馬刻は目を丸くした。そして、俺の頬をするりと撫でてから、優しく微笑んでくる。俺は思わずときめいて見惚れてしまった。そんな場合ではないのに。あろうことか左馬刻の雄を受け入れている部分まできゅんきゅん疼いて、やばい、こんなことしてる場合じゃないのに。これは本当にまずい。
「なぁ……っ、頼む……! このままだと本当に漏れちまうから!」
 急かすように身じろいだ時、左馬刻が口を開いた。
「ウサちゃんはおしっこしたいのか?」
 その言い方は癪に触るが、背に腹は変えられない。大きく頷いて意思表示すると「ふぅん」と言って、おもむろに身体を起こした。ずるりとあっさり引き抜かれていく熱に安堵する。
 ところが、今度はうつ伏せに転がされる。腰だけを高く上げた状態で、再び後孔に熱を感じた。
「あ……ッ!? お、おい左馬刻!?」
「ここですりゃ良いだろ」
 今、なにを言われたのか。
 理解した時には遅かった。後ろから覆い被さってきた左馬刻に、腰を掴まれて引き寄せられた。一気に、奥まで貫かれる。
「ああ”ぁぁ〜〜っ!! ふか、深いぃ……ッ!!」
「ほら、しーしろよ、じゅうとぉ」
 甘えたような口調とは裏腹に、乱暴に押し込まれる怒張。腹の奥まで突き上げられて、その度に悲鳴のような喘ぎが口から迸る。
「ひぐっ、〜〜ぁっ……あう、ごかない、でぇ”っ、ッや……ひい…あ、ぁ……やぁ”っああ”……っ」
 まるで快楽の毒を撒き散らして、身体の中から俺を陥落させていくようだった。
「ん、んんっ…やぁ…っ……あっ、あ”ぁ…」
 ただ熱かった。細かな汗が素肌から吹き出し、玉を結んで流れ落ちていく。意識してしまうともう無理で、腹がじくん、じくん、と痛み始める。
「はぁああっ…さまとき、っあぁ、あぁ……」
 こんなことされておいて縋るのもおかしな話なのに、背後からのしかかってくる諸悪の名前を縋るように呼んでしまう。返事はない。代わりに、尻に腰を打ち付けられる衝撃ばかりがあった。肉のぶつかる音。結合部から響く卑猥な水音が鼓膜を透過して脳髄までも犯していくようだ。
苦しいほどの質量で左馬刻に穿たれ続け、とうとう決壊の瞬間がきてしまう。
「あ、ぁ、……だめ、ほんとに、さま、さまとき、さまときィ……っ!」
「いいぜ銃兎。たくさん我慢したもんなぁ」
 耳元でうっとりと囁かれた言葉にぞくっと震えた。左馬刻が俺の性器に手を伸ばす。根元から先端に向かってゆっくりとなぞられて、だめ、だ。もう我慢できない。促すように尿道をくちくち擦られ、腹をぐっと押されて──ぷしゅ、と何かが漏れ出す感覚があった。全身の筋肉が弛緩した。両太腿を強く擦り合わせるが、温かいものがジョロジョロジョロと股を伝って落ちていく。目の前が白くなった。悪い意味でくらりとする。漏らした。いい年した大人の俺が。左馬刻の手にションベンかけちまった。左馬刻の前で、左馬刻が見てるのに、左馬刻が──
「ははっ、ウサちゃんの使ってるベッドびしょびしょになっちまったな。お漏らしウサギ」
「ぁ、ぁ、ぁ……ぅう……っ」
 ひと突きされるたびに感じてしまう。漏らしたあともペニスはガチガチに勃起したままで、腹につきそうなくらいだった。
「ベッドのシーツにおしっこ濡らして、どこで寝るんだよ。マットレスまで染みたんじゃねぇのか? 俺の手まで小便で汚してよぉ」
「ひぅっ、ヒゥゥ……ごめ、なさ、ぁあ、ひっ、……ひっ、ひぅ」
「ぐしゃぐしゃに泣いてヨがって、俺とすんの気持ちいいか? 他の野郎と比べてどうだよ? こんなこと許すのは俺様だけだよな?」
 必死に首を横に振った。もう言わないで。恥ずかしい。すごく恥ずかしい。ごめんなさい。見ないで。漏らしてごめんなさい。
「……銃兎ォ、てめぇ今更恥ずかしがってんのか?」
「………っ、」
「クソが……オイ、おこがましいんだよ生意気ウサギ。どうせこんなションベンまみれのベッドじゃ、男なんか呼べねぇだろうが!」
 乱暴な抽挿を繰り返しながら左馬刻が吠えるように言った。確かにそうだ。こんな汚いベッドでは、誰も呼ぶことはできない。こんなベッドで左馬刻とセックスしているなんて、今まで見たどんな悪夢よりも悪夢だ。それなのに俺は、この行為に溺れている。左馬刻に抱かれているんだと意識するだけで、何もかもが快感に変わってしまう。
「あっ! あァっ、あぁんっ……ぅう、ん、ふ……あ、あっ」
「おい、後ろでイけよ」
「へ、ぁ!? む、むりだ、むり……っ」
「無理じゃねぇ。こんなに感じてるんだからできんだろ」
「ひゃんっ!」
 パチン、と音を立てて尻を叩かれると中の粘膜がぎゅんぎゅん締め付けた。左馬刻が奥歯を噛んで衝動をやりすごすのを、息遣いで感じる。
「フン、……尻叩かれんのがンなに好きかよ、ドM」
「ち、っ、ちが、う」
「ア? テメェは嘘ばっかりだな。俺様が躾け直してやる、よっ!!」
「ぁ”ぁっ……!! ひぅ”! いたい、いたい、さまときっ」
 バチンッ!バチンッ!バチンッ!
 手のひら全体でわざと派手な音を立てて尻を叩かれる。左馬刻は何度もスパンキングしながら腰を振った。濁った喘ぎ声が上がる。ひどい声だ。お尻を叩かれると痛いのに、チンコからは精液なのか潮なのかわからない液体が、ぷしゃぷしゃと垂れ溢れて止まらない。「ゆるして」と左馬刻に慈悲を乞う。
「さまとき、さまときィ……、ゆるして、ぜんぶ、俺のぜんぶ好きにしていいから、だからっ」
「……言ったな。他の奴とヤったらぶっ殺すぞ」
「しない! しないからぁ!」
 左馬刻がまた俺の身体を表に返した。濡れたシーツが背中に触れるが、もうどうでも良かった。全部明け渡して抱かれている。左馬刻のチンコでよがり狂うほど感じて、漏らして、子供みたいに尻を叩かれて、お仕置きされて。”入間銃兎”がこんな情けない姿を晒すのは、お前だけだよ。
「はぁ、っ……ぁ、く、銃兎、おい、出すぞ……ッ!」
 左馬刻と視線を合わせる。音にならない声で「だして」と告げる。きっと左馬刻なら俺の望みを理解してくれる。縁の粘膜が捲れ上がるほど引き抜かれたあと、どちゅんっ、と一気に突き入れられる。だしてほしくて、無意識にきゅんきゅん締めつけてねだっていた。足が左馬刻の腰を引き寄せてしまう。ラストスパートに向かって激しくされて、俺の奥が、いかないでと引き止めるように吸いついてしまう。負けず嫌いの王様チンポに前立腺を掻くようにごちゅごちゅ動かされると、強烈な快楽。もうダメだった。ひくひく、きゅんきゅん、止まらなくなる。
「ぁ! ぁ! ぁ、ぁあああっ……!!」
 俺は言いつけに従ったように後ろで絶頂を迎える。左馬刻に結腸まで犯されて、びゅくん、と精液が飛び出したのを見て、左馬刻が笑う。
「はッ……おまえ最高、……く、ぁ、はぁ……っ」
「ぁあぁ、ぁ、でてる、……さまときの……」
 俺のナカ、一番奥に左馬刻の精が注がれる。つられるようにビクビク全身を震わせながら、触られていないペニスから潮をびちゃびちゃ迸らせた。左馬刻のを引き抜かれると、糸を引いた白いものをヌルヌル纏わり付かせてアナルがひくついた。たくさん可愛がられたせいで、すぐには閉じきらない。ようやく激しいエクスタシーから解放されて、涙目のままぜえぜえと息をしていると、左馬刻が心の中まで覗きこむように至近距離で目を合わせてくる。長い睫毛が綺麗だ。
「なぁ、銃兎はただ気持ちよくなりたかっただけか?」
「そ、れは……」
 こんなことをしてきたくらいだ。左馬刻も、男相手にこういうことをするのは抵抗がなかったのかもしれない。けれど、恋愛的な好意ともなれば別の話だろう。それとも、こんなことをされたんだから、期待してもいいんだろうか。
 達した後で冷静を取り戻す思考。シーツが冷たくなる。グルグル迷っていると、左馬刻の手がそっと頬に添えられた。骨張ってて男らしい手だ。……俺を、救って、助けてくれた手だ。ヒプノシスマイクを握り、ヨコハマの未来を切り拓く、強い手だ。
「……ベッドは俺様が買い替えてやっから後始末は心配すんな」
「……左馬刻……」
「他にも欲しいもんがあンだろ、ウサちゃんよぉ」
 言え、と命令をくだす声がドロリと甘い。俺を陥落させるには充分すぎた。そうだ、初めから落ちている。気づけば落ちていた。
「……明日というか、もう今日だけど、朝ごはん作ってくれ。コーヒーも」
「おう。それで?」
「……、俺以外に、左馬刻のこんな色っぽいところ……見せてほしくない」
「! は、」
 予想してなかったのか左馬刻の鋭い目つきがまん丸くなり、なんだかすごく可愛くて、思わず笑ってしまう。
「テメ何笑ってやがる、……おい、マジで笑いすぎだろうが! ナメてんじゃねぇぞ、俺様は真面目な話を」
「左馬刻」
「ンだよ!」
「俺はな、お前に抱いてもらう夢ばかり見すぎて……それがあんまりエロいから我慢できなくて、ディルドなんて買っちまったんだよ。夢の中で、寝てるお前の上に跨って腰振ったりもしてた」
「…………!」
「引いたか? ……でも分かっただろ。こんなにめちゃくちゃしなくても、俺にはお前だけだよ。ガキみたいに尻叩かれても左馬刻なら許せる。ベッドは寝心地重視。柔らかすぎないマットレスにしてくれ……俺より少し背の高いヤクザが一緒に寝ても狭くならない大きさで」
 想いに倣うように左馬刻の頬へ手を添えて、ほしいものを告げる。ただでさえ赤い左馬刻の顔がもっと赤くなった。左馬刻の手が頬から離れ、俺の手をそっと握られる。普段より熱くなっていて、緊張しているのが分かる。俺の心臓まで呼応してドキドキが早くなる。深呼吸を一つ。それから真っ赤な目がギラリと輝き、俺を射抜いた。
「良いとこ全部ウサギ持ちにはさせねぇぞ銃兎。俺だってお前のことが──」
 今までずっと言えずにいたその先の言葉。気づけば恋に落ちていた、のは、俺だけじゃなかったと知る。