三百三十五訓(アニ銀220話)その後の銀土的補完 - 1/2

「さあ皆さん、こちらに来てください。今度は僕達が江戸流のやり方で皆さんのお背中をお流しします」

「…え?い、いやあの、家族水入らずを邪魔するのは悪いんで、僕らに構わず楽しんで下さい!」

慌ててそう云う新八に対し、屁怒絽は嬉しそうにいらえを返した。

「なんて優しいんだろう。でも、それでは僕らの気がすまないんです。どなたか一人でも、如何でしょうか?」

「ああ、それなら土方さん洗って貰ったらどうです? 毎日疲れてんでしょう?」
「……え?」

床に盛大にコケた沖田は起き上がり、何食わぬ顔で宣った。どこまで人を陥れりゃあ気が済むんだ、と土方は般若の視線を刺したが、

「でも…一人では心細いかもしれませんね。
そうだ、坂田さん。一緒に背中を流すのを手伝ってはくれませんか? 僕らだけで粗相をしてしまったら失礼になってしまいますし」

屁怒絽の口から発せられた言葉に一瞬思考がフリーズした。それもそのはず、土方は坂田さん──もとい、万事屋の坂田銀時に淡い想いを抱いていたから。

「……え?」

向こうにしても思わぬ飛び火だったらしい、銀時は驚いた顔をして屁怒絽を見返し、次に土方を見つめた。そう、見つめられたのだ。
銀時の考えていることが分からぬまま土方も視線を返したが、こちらは二秒と持たない。どこか真摯な眼差しを向ける男にいたたまれなくなり、顔を下に向ける。

「あー……別にいいけど」

やがて口を開いた銀時の答えを、屁怒絽と土方はまるで正反対の気持ちで聞いていた。

「さぁ土方さん、そこへ座って下さい。どうぞ寛いで」
「…はい」

他のメンバーはとうに退室した後で、土方は大人しく床に腰を下ろした。指南役を頼まれた銀時はといえば、無言で成り行きを眺めている。
しかし、何も考えていない訳ではなかった。
明らかな体格差。見た目の違い。恐ろしい風貌をした屁怒絽に腕を捕らえられている土方は、何だか普段自分と意地の張り合いをしているとは思えないくらいに小さく見えて──普段隊服で隠されている生白い身体に、やけに庇護欲をそそられる、と。

オイオイ、野郎相手に庇護欲も何もねぇだろうよ。
そう突っ込むもう一人の自分も居るのだが、それでも妙な気分になっている本心があった。

「…坂田さん?」
「…え?」
「すみません、僕の声小さかったですかね?」
「そ、そんなことアリマセンって! ちょっとボーっとしててっ」
「そうですか…あの、それで、初めはコレを使うんですよね?」
「……あ」

屁怒絽が差し出したモノ。それはピンクローションのたっぷり入った風呂桶で。

「なっ…!」

それを見て土方は目を剥いたのだが、屁怒絽は気がついていない。

「すみません…僕らの種族にとって、コレは殺菌作用が強すぎるようで。坂田さん、代わりにやって頂けますか?」
「…………」

銀時が無言でこちらを見遣った。死んだ魚のような瞳の奥で、彼が何を考えているのかは窺い知れない。
しかし、彼の手によってローションまみれにされ、あまつさえ触られるなんて、想像するだけで恥ずかしさで死ねる。

「あ、あの、僕はそれいらなっ、」
「…ああ、構わねェよ」
「よ、万事屋ッ!?」

拒絶の言葉は、男の予想外の返答に遮られる。
土方が目を白黒させている間にも、銀時はそれを湯で軽く溶き始めていた。
屁怒絽の手前完全拒否する訳にもいかない土方にとって、不利な状況この上ない。

「じゃあ、お願いします」
「おう。あ、かかるといけないから風呂にでも浸かってて下さいね~。…よっ、と」
「ひっ……!」

云うが早いか、桶の中身を全て身体にぶっかけられる。ぬらぬらとしたピンク色が土方のキュンと締まった上半身に絡みついた。
湯で溶かれたローションは、熱いというより生温かい。

「な、何考えてんだ…! 逆上せて頭おかしくなったのかよ!?」

屁怒絽に聞こえぬように声量を落として吠えた土方の切羽詰まったような声が、銀時の鼓膜を心地よく震わせた。

「逆上せる訳ねぇだろ、あんな極寒の氷風呂で。いいからじっとしとけや。…アレ? 何かカタくなってね?」
「……ッ!?」

ローションで張り付いたタオルの上から局部を軽く撫でられた。信じられない男の行動に、土方は身をすくませる。

「や、やめろ気色悪ィ! 野郎のモンなんか触って楽しいか!?」
「俺もそう思ってたんだけどさァ」

──さっきまでは。

酷薄にも取れる笑いを漏らし、銀時は浴場の床にその強張った身体を押し倒した。

「……ッ」

左右の胸板の中心にトロミを垂らし、馴染ませるように手のひらで撫で回す。ピクピクと震える敏感な身体の反応を楽しんでいると、土方が剣呑な目付きで銀時を睨んだ。羞恥からかほんのりと桜色に染まっている頬と、つり上がった柳眉に、たまらなく加虐心を掻きたてられた。

「…なに?」
「何じゃねぇ! もう気がすんだだろ、さっさと離せっ」
「へェ、乳首ビンビンのくせに?」
「ひ…っ」

ピン、とローションに塗れた指先で、胸の尖りを弾く。周りを撫で回されるばかりで掠りもしなかったそこへ与えられた、鈍く痛むくらいの刺激は、土方が思っていたよりもずっと甘美であった。
ピン、ピン、と続けざまに二、三度弾かれ、土方はアア、と堪えきれない声を上げる。

「なに? そんな声出しちゃって…感じるの?」

女のコみたいだね、と揶揄うように囁かれ、耳元からじわじわと溶けるような感覚が広がっていく。
乳首からは既に痛みは消えかけ、代わりにむずむずと痒いような疼きを生み出し、土方を苦しませた。

「もっと可愛がってやるよ」
「やめ…っ、うあ!」
「はいはい、気持ちぃねー」

キュウ、と強めの力でつまみ上げられた。
痒いところに与えられた、計ったように絶妙な痛みの刺激。ただただ心地よくて、土方は抵抗するより快楽に溺れてしまう。
あっあっとはしたない声を断続的に上げる土方に、銀時は確かな高揚を覚えていた。
制止されては堪らないから、土方の両手を頭の上に纏めて、左の手で床に押さえつける。
「坂田さん……?」と呼びかける屁怒絽の声は最早銀時の耳には届いていなかった。

「は…あぅ、ん、ん、んっ!」

キュウ、とつまんだ後に、クリ…クリ…と優しく指先で捏ねると、赤みを増していく土方の素直で可愛らしい双粒。いやらしい刺激から逃れることも出来ず、テラテラとぬらつき、熟れて勃ち上がったソコは、銀時の目と指先を楽しませた。

「ひっ、ィああっ…!」
「逃げない逃げない。見ろよほら、気持ちヨさそー」
「やっ、見たくないッ…」
「見ろよ。男なのに乳首真っ赤に腫らして、コリコリに勃起させて、恥ずかしくねェの?」
「あ……」
「…どうなんだよ、なァ?」
「恥ず、かし……ぃ」

ざらついた低い声に力が抜け、思考が散漫になってゆくのが分かる。ここが銭湯で、自分達以外の者がいるなんてことは頭の隅に追いやられていた。
欲のままに左右の乳首を同時に愛撫され、土方はヒクンヒクンと背を仰け反らした。

「ナニ? もっと触ってー、ってか?」
「違うぅ! っ、よろず…や」

もう、辛抱たまらない……土方は泣きそうな声でそう云った。視線を下げると股間に張り付いたタオルは、冗談で触った時にはなかった膨らみを作っていた。今すぐタオルの下の秘密を暴きたくなったが、流石にこの場でそこまでは致せない。
銀時は微かに笑みを零すと、優しく頷いてみせた。

「…なぁ、屁怒絽サン。コイツなんか具合悪くなったみてェだからさ、礼はここまででいいってよ」
「えぇっ、土方さんは大丈夫なんですか、坂田さん!?」
「あっ、ああ大丈夫大丈夫! 大したことねェよ、俺が送ってくし!」

屁怒絽が近づいてくるのを寸でのところで制止する。床にローションが零れたから気遣ったのだ……と思いたいが、それとは全くベクトルの違う感情が顔を出していることに、ここまでくると嫌でも気がついてしまう。
──快楽に浮かされた土方の表情を、自分以外の誰にも見せたくなかった、なんて。

「じゃあ、また」
「え…ええ、今後とも宜しくお願いします」

銀時は手早く床と土方にシャワーを浴びせかけ、ローションを流していく。綺麗になった土方は立ち上がるが、溶け残りのローションでズルッと滑りそうになった。

「大丈夫か?」

そつなく支えてやる。
ああ、と返事をした土方だったが、その視線はそわそわとしていて、まるで自分に定まっていなかった。
その様子を思いがけなく可愛いと思ってしまう。どうした俺、さっきからなんかおかしいぞ、と自問自答しても、明確な答えは返ってきやしなかった。

「…っよ、ろずや」
「!? …あ、悪ィ、ボーッとしてたわ」
「もっ、いいから、はやく何とかしろ…!」

脱衣場で呼びかけられ、我に返った。着流しに袖を通した土方に、余裕ない瞳で見つめられ、慌てて着衣の手を動かした。
はぁはぁ、と小さく早く息をする土方の頬が赤いのは、風呂場のシャワーの所為ではないのだろう。