「いい式だったよなァ」
「ああ、…そーだな」
捻くれたところの方が多い銀時だが、この日は珍しく素直になっているようだった。銀時の声に重ね合わせて、土方も脳裏に浮かぶ華やいだ光景を思い返し、こちらも素直に頷く。二人は結婚式の帰りであった。
「にしてもよォ、ブーケまでもらっちまって……これどうすりゃ良いんだ。屯所に持って帰ったらまたバカどもに冷やかされんじゃねェか」
「はは、そーだなァ。……とりあえず万事屋に置いとくか? 土方くんが他の奴に虐められんの、彼氏としてはちょっと面白くねェし」
副長お幸せにー!おめでとうございます!なんて周りの連中に言われまくって、突っ返すわけにもいかず持って帰ってきてしまったのだ。銀時の提案にありがたく頷いておく。ほんの少し垣間見せられたヤキモチの気配が、何だか気恥ずかしい。
「花嫁さんのブーケが女ども飛び越えて俺らんとこまで来るとはなぁ」
「まあアイツ人間じゃねェもんな。夜兎族ナメちゃいけねぇってことだよね。さすがウチの神楽だわ」
「あぁ? もうテメェんちの子じゃねェだろ。総悟に呪われても知らねェからな」
「真顔で言わないでくんない? シャレにならねェっつの。……今までもこれからも、嫁に行こうが神楽は神楽だってことだよ。沖田くんだってそうだろ?」
「……おう」
万事屋と真選組が出会ってから腐れ縁となり、今まで過ごしてきた時の長さや、乗り越えてきたもの。共通の思い出、というには随分とやかましかったり物騒だったり、ぶっ飛んでいるものも数多くあるけれど、情の深さをお互いに感じているからこそ、親バカだなんて簡単には笑えなかった。
式の最中で泣きそうになったの、実はコイツにバレてやしないだろうか──なんて、それもまたお互いにそう思っているのだから。
しんみりと物思いに浸っていたところで、そういや土方くんさ、引き出物なんだったか見た?と銀時がケロっとした調子で聞いた。
「引き出物か。まだ見てねェな」
「タオルはともかくとしてお米ギフトだぜ。絶対アイツが選んだよねコレ」
「ははは、マジか。違いねェな……米もめでたいモンではあるか」
「あとはバウムクーヘン」
俺は甘いもんあんまり得意じゃねェし、バウムクーヘン、二つじゃ多いだろ。万事屋てめぇ本気で糖尿になんじゃねぇか?
隣の男にバカにされるでもなく、それどこか身を案じるように言われて、銀時は思わず苦笑した。これもまた情の深さを感じたから。
「……あー、否定できねェな。つっても俺と土方くんので必ず二つ貰うもんだし、今回は神楽に食ってもらうわけにもいかねぇし、ちょっとずつ味わうことにしよっかな」
「………万事屋」
「ん?」
「………い、今から言うことが嫌だったらそう言ってくれ。不快にさせてェわけじゃ、ねぇんだが」
「うんうん、土方くんは今までけっこう憎まれ口叩いてくれたしね。今更なんてこたァねぇよ」
「アァ!? そりゃテメェのせいもあるだろうが! ……って、あ、違ェ。その……バウムクーヘン、なんだけどよ」
躊躇いがちに土方が紡いだ、短い言葉。その意味を理解するのに数秒かかった。なんてことのない提案に聞こえて、その実とても大切で、きっと告げるのにはすごく勇気が必要なことだ。
「……次から一つにしてもらわねェか」
「………へ」
「ぁ、ッ、その……お、俺が決められるもんでもねェか……! 突然すまねェ、考えてみりゃテメェだってバウムクーヘン好きだもんな……外側の白っぽいコーティングなんかされてるやつはノーマルのやつより甘ェ味がするし、そういうのはやっぱり一つじゃなくて二つ食いてェよな、俺だってマヨネーズなら」
「土方くん落ち着いて! 誰もンなこと言ってないから! バウムクーヘンとマヨネーズの品評会は後にして銀さんの方ちゃんと見て!」
うん……そうだなぁ。そうすっか。ゆるりと笑みを浮かべて肯定すれば、土方が目を瞠った。
「万事屋はそれで良いのか……?バウムクーヘン、一つしか食えねェぞ」
この後に及んでちょっとアホなことを真剣に聞いてくる整った顔に、胸の辺りがきゅんとした。まったくこいつはほんとに。
「その後に土方くんを味わうから問題ねェの。……それによぉ」
「……?」
今度は銀時の方が言い淀む番だったらしい。この顔は、何かに迷っているような、困っているような……否、
「……指につける輪っかは二ついるだろ。銀色のやつ……俺とお揃いでどうですかコノヤロー……みたいな」
「!」
照れている、顔だ。そしてそれは自分もきっと同じに違いない。顔に熱が集まっている感覚がよく分かる。腕の中の花束が笑った気がした。