万事屋が臨時で隊士になったんだが毎晩抱きしめてきて困る - 2/2

 万事屋の主である銀時が臨時の副長に就任してから、勝手に土方の布団に潜りこんで眠るようになり、かといって二人とも男同士だ。勿論、男女にありがちな事故が起こったりもしないまま2日目が過ぎた。そしてそれから更に3日が経過した辺りで、銀時が屯所の空気に馴染んでいると気づかされる。
 すっかりと気安くなってきた隊士が数人で銀時の周囲を固め、旦那!稽古つけてくださいっス!などと体育会系のノリで話しかけられている。やはり銀時は人に好かれるんだろう。ぶっきらぼうで一見すると偽悪的にも見えるが、その実は情に篤く、剣の腕も確かなのが、屯所内の隊士達にも周知になっているのだと改めて思う。こんな光景を見られるとは思っておらず、僥倖だなと土方は目元を綻ばせた。彼らにとっても、良い刺激になるに違いない。本音を言えば若い隊士らに混じって自分も銀時の周りを固めにいきたいくらいだが、この場でそんなことをしては副長の名折れになる。遠目に眺めていると、不意に目が合った。

「そーだなァ。土方くんがお願い聞いてくれたらやる気になるかもしれねーなぁ」
「ッ!?」

 まさか矛先が飛んでくるとは思わず、返答に遅れた。隊士は期待に満ちた視線を向けてくるし、銀時はといえば揶揄っているつもりなのか面白そうな目をしているのだから始末に負えない。ドSの悪癖は勘弁してほしい。

「あれ〜? どうしたのかな、もしかしてビビってんの?」
「……どうすりゃいいってんだ」

 かといって、組の為にもこの機会をみすみす逃す選択肢はないだろう。土方は苦い顔をしつつ問うた。果たして銀時は土方に近づいて、肩を組み、睦言のようにねだる。

「一緒に風呂入りてェな。…いい?」

 断る術もなく、頷かされたようなものだった。惚れた弱みと笑いたければ笑え。さっきまでドSの顔をしていたくせに、急にしおらしく可愛いげを出されて、男心をくすぐられてしまっても仕方ないだろう。
 
 
 
 
「も、もう出る……!」

 今日は暑かったからシャワーだけで良い。そう言っても、道場での汗を流した銀時がすっきり許してくれることはなかった。

「身体、ちっとも温まってねーだろ」
「だって……テメェと一緒になんて…」
「恥ずかしがってんの? 誰も来ねェように言ってやったし男同士なんだから、恥ずかしいことなんてねェだろ。前にサウナ入ったりもしたじゃん? ほら、早くお風呂に入りなさい。風邪引くよ」

 聞きわけのない子供に言い含めるように、真っ直ぐに目を見据えて銀時が言う。
 サウナなんて、あの頃はただのムカつく天パだとしか意識してなかったから入れたんだ。今とは全然違う。気遣ってくれてるのは理解できるが、その優しさが今はひたすら恨めしい。

「む、無理だ……っ」

 鼻の奥がツンと痛い。考える頭が働かない。素っ裸で涙ぐむなんて、生き恥だ。士道不覚悟で切腹ものだ。すぐそこに迫っている涙を封じ込めるようにギュッと瞼を閉じて、銀時が許してくれるのをじっと待つ。一緒に風呂に入るってだけなら、もう達成されたはずだろう。今だってどこを見たらいいのか分からないのに。ドSも大概にしろ。そういうの悪い癖だぞ。

「土方くん、どうしても嫌なの…?」
「……ぅ。だって、その…」
「土方くん背中流すのも嫌だって言ったじゃん。風呂くらい許してくれねぇの……?」
「……そ、それは……」
「せっかく頑張ってアイツらの相手してきたのに…」

 そう言われると弱い。たしかにアイツは、一緒に風呂へ入るのが交換条件だと言ったんだ。土方にとっても誰かと風呂に入るのだって、本当は久しぶりのことだし、一人で入る風呂を味気ないと思ったのも一度や二度じゃない。恐る恐る目を開けると、心配げな目でこちらを見ている銀時がいた。

「……ごめんな。無理強いさせてェわけじゃねーし、俺が出るからよ。お前はちゃんと風呂んなかであったまれよ?」
「坂田……」
「わかってるよ、布団は敷いといてやるから」

これで良いんだろうか?
こんな顔をさせたかったわけじゃない。本当なら、風呂は疲れを癒せる場所のはずなんだ。去ろうとする銀時の背を見ていると、堪らなくなって、土方はその腕を引いていた。

「……どうしたの?」
「……、……い、いいから。風呂入れよ」
「だってそれじゃお前が、」
「お、おれも一緒に入るっ。だから、その…」

 うまく言葉が出てこない。触れたことで銀時の裸体を意識してしまい、ひどく緊張している。いつまでもこんなことしていたら、誰かに覗かれでもしたら。そう思うと余計に困って、また涙ぐみそうになってしまう。

「……おいで、土方。いつまでも裸で立ってたら冷えちまうだろ」
「………おう」

 今度は逆に手を引かれて湯船に浸る。後ろから背中を抱きしめるような体勢になった。これは布団でするのとはまた違った気分になる。決して、嫌というわけじゃない。むしろ嫌悪感がないのが一番厄介な話で。

「やっぱ風呂は良いなァ」
「手合わせはどうだった?」
「んー……疲れた。こんなのは同僚の副長さんに癒してもらうしかねェよ」
「……俺なんか癒しにならねェだろ。近藤さんと原田が吉原に行くって言ってたぞ。行ってきたらどうだ」
「冗談じゃねーっつの。風呂入ってあったまって寝る方がずっといいよ」

「ついでに土方くんと二人で」。どこか甘えるような声を耳元で聞かされると、普段通りに言い返せなくなるからやめてほしかった。顔が熱くて振り向けもしない。