「……ん、ぅ」
「っはぁ、土方…」
理性が霞みそうなのは、最早土方だけではなくなっていた。縺れ込むように入ったラブホテルで、二人はベッドへ行くのすらもどかしく唇を重ね合わせる。
柔らかな肉を割って入り込んでくる、自分のそれとは違う温度のぬるつきを、土方は迎え入れた。
惚れた相手のその部分は愛おしく、土方は自分から舌を差し出す。銀時の舌べろが嬉しそうに絡み、土方の健気な舌とヌリュヌリュ擦れ合った。
生々しい触れ合いに驚いた土方は口を離しそうになるが、いつのまにか押さえられていた後頭部に身動きが取れない。逃がすものかと云わんばかりにより強く擦られ、上顎の粘膜を擽られ、土方はふるふるとその身をすくませた。
「んぅ、ふぅ…ん、よろず、や……」
ぐずぐずに溶けた淫らな欲求に、理性は今にも決壊しそうだ。
「土方ァ…可愛い」
しかし、それは相手も同じだった。
黒い着流しの滑らかな手触りを楽しむように動いた手が段々と下に這っていくのを感じた時に確信する。
惚れた相手にそうされて嫌な筈もなく──一時の衝動で点いた火は、いつしか全身を包むくらいの熱に変わっていた。
「……床なんざ御免だぞ」
「…ああ、そうだな」
暗に仄めかしたつもりだったが分かりやすかったらしい。次の瞬間、土方の身体は銀時に抱え上げられていた。
「なっ、下ろせ…ッ」
「暴れんなよ」
有無を云わさず運ばれる。自分は男と対して変わらぬ背丈だし、体重もそれなりの筈だ。ひょいっと持ち上げ、腕の力だけで横抱きにするとは並大抵ではない。
慣れない浮遊感に、この馬鹿力、と胸中で文句を云うものの、中々どうして安定している……と、
「うアっ…!?」
ボスッ、とベッドに放られた。床に白い着流しが放られるのが見えてからすぐに、銀時の身体が乗り上げてくる。
「っ、テメェ雑なんだよ」
「悪ぃ。次は優しくすっから」
「…!? んん…ッ」
「次って何だよ」とか、「優しくすっからって俺ァ女じゃねぇぞ」とか、云いたいことはあったが、それらは銀時の口の中に呑み込まれてしまった。
土方の帯を寛げさせていく手に迷いはない。
容易く素肌をあらわにされた。先刻弄り回していた乳首ではなく、まっすぐ下肢のみなぎりを目指される。男同士だというのに下着を脱がされるのが恥ずかしく感じて、土方は下着のゴムに手をかける銀時に制止をかけた。
「だ、ダメだ、そこはっ」
「…ダメなの?」
残念そうに云い、銀時は灰色のボクサーパンツに鼻先をスリスリと擦りつける。布越しの土方のペニスは少し兆しているが、まだ柔らかで温かい。
銀時にとっては嫌悪感など存在しない行為だったが、土方の方はそうもいかないらしかった。必死に足を閉じようとする。しかし銀時の頭がある為にそうもいかない。湧き上がる羞恥に普段つり上がった眉を八の字に下げて、土方は小さくかぶりを振った。
「どうしたの?」
「や……っ恥ずか、し」
「平気だよ。土方のココ可愛い…ピクピクしてる」
「馬鹿ぁ…!」
クスリと笑って頬を膨らみに擦りよせると半分涙声になる土方だが、銀時に触れられた昂りは布地の上からも分かるほどに脈動していて。
「これ以上汚しちまう前に全部脱ごうぜ。俺も脱ぐし」
「……ク、ソッ」
ジジ、とジャージのチャックを下ろし始めた銀時を横目に、土方も腰の辺りに纏わりついている着流しへ手をかけた。
「土方、パンツは? 俺が脱がしていいの?」
「……勝手にすりゃいいだろ」
「りょーかーい」
トランクス一枚になった銀時にスルリとあっけなく最後の布を取り去られ、土方の、黒い繁りに飾られて濡れ光る先端部が露骨にあらわになった。
「何だよ、先走りベショベショに垂れてんじゃねーか」
「やめろっ、見るな…!」
ヌルヌルになってしまっているのは自分でも分かっていた。節の綺麗な指が、恥ずかしい場所を覆おうとする。
「隠すなって」
「あっ……!」
口に含む。亀頭の下のくびれを舌先で辿ると、ビクビクと熱塊が震えた。驚愕に土方は目を見開く。
「テメッ、何して…!? 離せっ、汚ねェだろうが!」
「風呂入ったばっかじゃねぇか。汚くねぇよ」
先走りを舐めとるように舌が這う。敏感な亀頭を刺激され、ビリビリと痺れるような快楽が土方の背筋を這い上がった。駆け巡る熱さに息が上がる。
ペニスはたちまち汁にまみれ、その温かい液体は銀時の喉元を幾度も通過した。
「ぅ、うぅ…はぁ」
「どうしたの?」
「どうしたじゃねぇよっ、こんなのおかしいっ…」
変になるからもうやめて。快楽に溺れそうになりながらもそう云った土方は、しかし尿道口を尖らせた舌べろで抉られいやらしい叫び声を上げてしまう。
床に沈んだ手はギュウッとシーツを握り締めていた。腰は意に反して揺れ、ペニスを銀時の口の中へ無意識に押しつけている。
「あっ、ンひ、イきたいぃ…! イっ、イかせろ…って!」
「…ン、銀時って呼べたらイかせてやるよ」
土方の肉茎に指を絡ませ、ぬらつく幹を何度も激しく上下にしごく。
咥えた亀頭、カリ首の括れにかけてを可愛がることも忘れない。ソコはやめてくれと力なく訴える声を無視してジュップ、ジュップと舐め回した。
「ああっ!ああっ! 銀、ときっ!ぎんときぃ」
「うん…、気持ちイイ?」
「やぁあん! イイっ、イイっ!」
「ッ…! 出そう、か?」
「んッんッ、出る! も、イっくぅ…!!」
浴場で中途半端に熱を宿した土方の身体はなぶられて疼き、そそり勃った肉茎はヒクヒク震えながら気持ちがいいと涎を垂らす。絶頂を迎えようとしていた。
「あっ! ああっ! …ぎ、んああっ…ヒッあああァんっ!!」
来たるべき瞬間。
土方は強制的に開かされた脚の付け根を惜しげもなく銀時の眼前に晒し、甘い叫びと共に熱い飛沫を弾けさせた。
ゴクン、と嚥下した精液の味はハッキリ云って青臭いが情欲が鎮火されることはない。
硬度を失った土方のペニスからは尚も白濁が湧き溢れ、菊座へしたたっている。銀時は達した後の土方へ視線を這わせ、ズクズクと自身が疼くのを感じた。
「あっ、見るなぁ…」
力なく身を捩る土方の身体を反転させる。今更もう止まれないが、この体勢の方が負担が少ないと聞いた事があったからだ。
初めて見る土方の窄まり。恥ずかしくて堪らないであろうそこに、銀時の視線がぴったりと張りついた。
細かな放射状のスジが走り、スジの集まった中心は引き絞ったようにキュウッとしまっている。
銀時は銭湯を出る時に持ってきていたローションを、尻の割れ目にトロトロと垂らした。
「ひっ…何、して」
「冷てェか? その内あったまるから我慢しろよー」
「ちっげーよ! 何してんだって聞いてる!」
「何って、ナニだけど。俺のマグナムをオメーの穴に、」
「俺に突っ込まれる穴なんざねぇ! ふざけんのも大概にっ…くぅ」
「俺ァ本気だよ? 本気でオメーを抱きたいって思ってる」
「…タチの悪ィ冗談はやめろ。溜まってんなら抜いてやるから」
「冗談で云う訳ねェだろ。本気で惚れてんだ、お前に」
「………何、云って」
『本気で惚れてんだ』。
今のは幻聴か何かだろうか。男に片想いなんぞしていた自分の心がでっち上げた、虚構。
だが目の前の男は馬鹿みたいに真剣な顔をしていて──初めてだった。男のそんな表情を間近で見たのは。
「……ほ、れてる…?」
「ああ」
「お前、が……おれ、に?」
「っああ、そうだよ!」
「ッ…」
「なッ、云わせといて黙るなよ! 云っとくけどマジで恥ずいんだからなコレ!」
「う、うるせぇ! 急にンなこと云われて信じられる訳ねぇだろうが!!」
「…じゃあ信じてくれ」
「アホかっ、どういうことだよ!」
「信じるまで愛してやるから覚悟しとけ、ってことだよ。解ったかコノヤロー」
これ以上喋ったところで役不足だ。
そう云わんばかりに、身を起こした土方の肢体をベッドに縫いつける。
有無を云わせないくせに、存外その手つきが優しかったものだから、一瞬の間抵抗するのを忘れてしまった。
「なッ……!」
秘めるべき蕾に躊躇うことなく這わされた指先にぞくりとした感覚が走る。
じたじたと足を動かしてみても、無遠慮な指先は卑猥な蠢きをやめてくれない。
挿入されている圧迫感が増え、土方の蕾が無意識にヒクヒクと収縮しながら二本の指を締めつけた。入口を拡げる即物的な行為に、全身の血液が滾るほどの羞恥が駆け巡った。
「アぁあ…っ、ん、あ、はぁっう」
程なくして銀時が三本目をゆっくりと挿入する。丹念な行為に頬へ涙の伝う感触がした。
口からは自分のものとは信じ難い甘い声が漏れ、内壁を擦られる度に漏れる水音に聴覚すら犯され、このままではおかしくなってしまいそうだ。
「あァんん…っふぁ、も、やめろぉ……」
「やめるかよ。ちんぽ勃ってきてるじゃねーか、ほら」
「んうううっ……!」
先刻達したばかりの昂ぶりを空いた左手に包みこまれる。
精液とカウパー液、いやらしい樹液で惜しげなく潤う幹をニュルンニュルンと先端から根本まで扱かれ、土方の腰がヒクヒク大きく震えた。
直後、解されていた場所に熱いものが宛がわれる。
息を呑んだ瞬間、それが何かを理解するより先に熱塊が押し入ってきた。
「あああっ――! っぐぅ……」
いっぺんに体内を犯される衝撃に目の前が白く眩んだ。
銀時の方も強い締め付けに相好を歪ませる。スラストなどしようものなら喰い千切りそうな勢いだ。
「ひ…ひじかたっ、痛ぇ…って、も少し力ぬけッ……!」
「る、せぇ…い、きなり突っ込みやがって死ねクソ野郎っ……抜けるもんなら抜いて、んだよ!」
「わ、るかったって…エロくて我慢、できなかッ…」
切れ切れに告げながら銀時は、兆していた土方自身がすっかり萎えてしまったことに気がついた。この痛みのせいだろう。
後孔を貫かれた土方は肩を上下させながら必死に深呼吸をしていて……互いの苦痛を和らげようとしてくれている目の前の相手が無性に愛おしく感じた。
「ひじかた…だいじょ、ぶか…?」
「は……っ、ううっ…」
呻くような声が漏れ聞こるのと共に、銀時は段々と自身に対する締め付けが緩和されていくのを感じた。
だが枕に額を擦りつけ耐えている土方は、返事をする余裕もないのだろう。
未だ苦痛に苛まれているのだと思うと心苦しくて、なんとか気持ちよくしてやろうと硬度を失くした土方のペニスを指先で辿る。
「あっ……!」
途端に可愛らしい声が上がり、銀時は安堵の息を吐いた。
「ごめんな、もっとシてやるから…」
「あ、あ、あっ…」
敏感な亀頭を手のひらで擦られる。溢れてきたトロミもろとも撫で回すように刺激されると、尾てい骨の辺りがじんと痺れるのを感じた。
とろけるような快楽に、じんじんとする痛みが遠のくのを感じる。
「元気になってきたかー、土方ジュニア」
「ああっ…な、てきたぁ…」
「…エロいなオイ」
動くぜ、と熱っぽい声で告げるのが聞こえたかと思うと、ぴっちりと納まっていた欲望がズリュ、と出てゆく気配がした。ふあ、と弱々しい声を紡ぐ喉に羞恥を抱くが、程なくしてズブズブと内壁に沈んできた熱に押し出されるように甘い声がまた漏れてしまう。
銀時はこんな自分を見て呆れているのではないか。そう思い恐る恐る銀時の方を振り返ると、これ以上ないくらいに愛おしげな眼差しを向けられていたから、かぁっと顔が熱くなるのを感じた。
「土方、」
「んん、んっ……ぎ、ん」
口腔を掻き回しながら、どくどくと脈打つ銀時の全貌が抽挿を繰り返した。
ズチュッ、ズチュッと段々激しく突き上げられ、土方の後孔には切なくもきゅうんと甘い性感の波が押し寄せてくる。痛みはもう感じなかった。
「ひぃ……ッ!?」
ある一点を突かれ、そこから痺れるような快美が生まれた。
土方の反応が変わったことに感づいたのか、銀時はソコに先端を押し当てるようにして何度も突き上げた。
「ああァ、くぅぅ…っ、そこ、やッぁあ!」
「イヤじゃ、ないんだろ、が!」
「あああッ……!」
ガクガクと揺さぶられ、与えられる熱に土方の腰はぐずぐずと甘く崩れ落ちる。
しかし強い力で掴まれ、柔らかい内壁を深いストロークで抜き差しされた。
猛る熱に潤沢な蕾はグチョン、グチョンと淫らに泣き続ける。
「ヒ、あぁあ…っ、も、だめだ……!」
「っ、ひじか、た……くッ!」
低い呻きとともに銀時は腰をブルリと痙攣させる。まるで狙いすましたように、土方の泣きドコロへ激熱の精を叩きつけた。
刹那、視界が白く染まる。
「っああ、アツ、ひいィ! んんぁ…ぁぁあアっっ!」
快楽点に熱いものをドクドクと勢いよく放出されてはもう辛抱堪らない。
そそり立った土方の昂ぶりはビュルッ、ビュルッと腹筋に跳ね返りそうな勢いでシーツを汚した。
やがて呼吸を整えた銀時が体内から自身を引き抜いた。尻肉からトロトロと溢れ出た白い欲望に、行為の後を実感させられる。力なくシーツに沈んだ身体をくるりと表に返し、触れるだけのキスを何度も顔に降らせた。
手を握ると確かな力で握り返されて、些細な仕草に愛おしさが込み上げた。
「……とおしろ」
「…!」
初めて銀色に下の名を呼ばれた。相手にとってもどさくさ紛れだっただろうそれは何となくくすぐったい。小さな隙すら逃さずに浸透していく手のひらのあたたかさを感じながら、土方は自分が未だに何も伝えていないことに気がついた。
「銀時、その……云いそびれたんだが」
「…なに?」
「…俺もずっと前から、テメェのことが──」
好きだ。
土方がそう告げると、銀時は驚いた顔をした後、とびきり嬉しそうに笑った。