久々に酒でもどうよ。飲み比べだな。勝てると思ってんの?たりめーだろ。そんな会話をしたのはもう何時間か前の話。机を挟んで向き合って座り、目の前に並べられた酒を好きに飲み合う。机上や床には空き缶が転がったまま、自分達がどれだけ飲んだのか思い知らされる。いい感じに頭にも酒が回ってきた頃、万事屋はその場で立ち上がると俺を虚ろな目で見下ろした。静かな部屋だ。空気の違いを肌で感じる。酒を飲む手が止まり、口内に残された唾をゴクリと飲み込む。
「おれさぁ、お前のこと好きかも」
あやしい呂律でそう告げられた。万事屋は「へへへ、言っちゃった〜」なんてヘラヘラ笑っている。……今のは酒のせいか?俺はどうすりゃいい。聞こえなかったフリでもするか。
そう思ってたはずなのに、俺の身体は万事屋の隣に静かに腰を下ろし、俺の口は「い、いつから惚れてたんだよ……?」と聞いた。
お前はいつから俺を好きなんだ、と。万事屋は考えるような素振りも見せず簡単にただ一言「わかんねぇ」と告げた。
……コイツと酒を飲んで酔っ払うときは俺も一緒のペースで飲んだくれるせいで、記憶が曖昧になる。だが今日のコレはなんだ。俺はまだ正気を保っている方だと思うが、万事屋は。そういえば、いつも以上に酒のペースが早かったように思う。まさかこれを言いたかったからなんだろうか。告白されて嫌な気分がしないのも、俺を好きだと言った万事屋がいつもより可愛く見えるのも全部、酒のせい、なのか。
「……俺も、テメェのことは…エロいと思う」
挙句に出た言葉がこれだ。いやもっと他に何かあっただろ俺。フォローしろ。いやさすがに無理か。驚いたように目を丸くしてる万事屋と目が合う。何か言ってくるかと思えば、黙ったままだ。俺も黙ったままで沈黙が数秒、それから更に延長して数分になった。
「今まで、何人に抱かれた?」
先に沈黙を破ったのは俺だ。最低なことを聞いている気はするが、もし俺が万事屋のハジメテをもらえたならそれはそれで男としては嬉しい、なんて。こんな思考をしてる時点で相当俺はおかしいのかもしれないが、そう思った。万事屋のハジメテをもらえるなら、いや、この際ハジメテじゃなくても良い。だから。
「おい……?」
下を向いたまま動かない万事屋の顔を覗き込む。
──グシャッ。酒缶の潰れる音。
──ビシャッ!突如響いた水音。
急に冷んやりした、真夏の夜。ぬるい部屋の温度が下がった気がする。ぽたり、ぽたり、肌を伝い流れ落ちる水滴。つん、と匂いが増すアルコールの匂い。一瞬わけが分からなかった。缶を握りしめてる万事屋の手が視界に入る。ああ、ビールをかけられた、とやっと理解ができた。言うまでもねぇがこれは祝いのビールなんかじゃない。やっぱり俺も酔ってたんだろう。一気に俺の酔いが醒めた、気がする。
「っ……テメェ、何しやがらァ!」
「目が覚めたか? そりゃ俺も酔ってるけどよぉ、そりゃねェだろ」
「……チッ」
ああクソ。マジで最悪だな。俺もそうだが、テメェも大概だろ。滴る雫を着流しの袖で拭う。拭ったところで身体中から酒の匂いがする。どこを嗅いでもアルコール臭。コイツは風呂を貸してくれるだろうか。怒らせたんだから無理か。
なあ土方。湿った腕を掴まれ、今度は万事屋の方から顔を覗き込まれる。
「っ、なんだよ」
「エロいと思ってくれたのはさ、嬉しいよ。でも銀さんは、男だろうと女だろうと、穴に突っ込む方が好き」
だから抱かれたことなんかねェよ。そう口角を上げ言い放ってクスリと笑ったのを最後に、唇がぶつかるように重なった。顔が熱いのは、身体が熱いのは、何のせいだろう。これも全部酒のせいになるのか。
「も、それ、よろずや……! ァ、ひぁっ」
万事屋の乱れた姿や羞恥で赤く染まる顔を間近で見られて、高くもなく低くもない掠れた色っぽい喘ぎ声を聞けると思ったのがそもそも間違いだった。
相変わらず綺麗に鍛え上げられている筋肉。万事屋と真っ向からの力勝負をして勝てるなんて昔の出会ったばかりの俺ならいざ知れず、現在の俺は思わない。
だが、万事屋が滅法強いからといってコレが合意でない行為だとも言えないだろう。気がつけば押し倒されていたが、視界に舌舐めずりをする万事屋の姿を見たとき、俺は確かにときめいた。これは和姦だ。だが全裸で足を開いているこの格好は、ちょっとどころかメチャクチャ恥ずかしい。
「ここは前立腺って言うんだよ。知ってんだろ? こーやってグリグリされると気持ちいい?」
ニヤつきながら万事屋はその場所を、チンコで何度も突いてきた。女とした経験は何度かあるが当然男とこういう行為に励むのは初めてだし、ケツの穴を使ったのだって当然初めてだ。 もちろんチンコが挿入ってきた時は痛かったが、でもその痛さも異物を感じる気持ち悪さも、いつの間にかなくなっていて。俺は生まれて初めて感じる快感にどうしていいか分からなかった。一人じゃ堪えきれず、何度も「万事屋」と訴える。
「よろ、あぁ! ぁあぅ……んん、よろずや、よろずや…! だめ、ぬいて、チンコ、つかない、れ」
「やめてほしくねぇくせに。とろとろの顔して、素質あるんじゃねェの? オンナノコみてェに俺に抱かれる素質♡」
「〜〜〜っ、ぁ、ァ」
きゅう。低く甘い声で言われ、下半身が痺れるように疼いた。なんだ、なんなんだ。俺にもよく分からない、ただ体内からじわじわ湧き出してくる快感に溺れそうで、身体が。変だ。上手く言うことを聞かない。
「へぇ、いまさ」
「い、言うな……!」
愉しげな笑みを携え、耳元で十四郎、と呼ばれる。まるで愛されているような錯覚に陥る。
「や、やだ、っ呼ぶな、! …はッ、ぅあ、ぁ、はぁ、ハッ、よろずやぁ」
反応なんてしたくないのに。普段ふざけてる時だって呼んだことないくせに、なんで呼ぶんだよ。なんでよりにもよって今になって。なんで今になって、名前を呼ばれるだけでゾクゾクして、息ばっかり上がるんだ。恥ずかしい。熱い。そこもかしこも。
「あ、あ…っ! や、ぁん、変になる……!」
「変になっちゃうの?」
「ん、んっ、はぁ、ぁっ、変だ、俺」
「……うん。そろそろイきそうなんじゃね? チンコ指でしごいてみ? ごしごしって」
「むり、むり……できね、さわっ、て…!ぎんとき、おれのチンコさわって」
「……クソっ」
かわいい、なんなんだよクソ、お前メチャクチャかわいいんだよふざけんじゃねーよバカヤロウ。むしゃくしゃしたような声で言いながら俺のを触って、根元から上までグチュグチュ、いっぱいしごかれた。俺はそうやって先っぽを磨くみたいにヌルヌル擦られまくるのも弱い。すぐに気持ちよくなって、暗い部屋なのに目の前が白くなって、きつく目を閉じる。ひくひく震える腰もきゅうきゅうしまる後ろの穴も、そのまま全てを銀時に渡すつもりでぎゅっとしがみついた。やがて全身の力が抜け、続いて体内の違和感を自覚する。……体内。主に尻の中だ。まだナカに入ってる銀時のはさっきより柔らかい感触がする。指で後ろを触るとドロドロに濡れていて、溶けそうな熱が残っている。
「ぎん、…なか、出した、だろ」
「……うん。十四郎に中出ししちゃった」
悪びれる様子もなくティッシュを手に取ってるのを視線で追いかける。すう、と自分の熱が一気に冷める感覚。まどろむような眠気もあったが、改めて俺は何をしてるんだろうと冷静になる。
別に付き合ってなんかいない相手、しかも同性で腐れ縁だった相手とセックスをしてしまった。お互い、とっくに酔いは覚めていた気もしなくもない。拒絶だってしようと思えば出来たはずだ。それをしなかったのはそういうことなのか。……そういう。さっきとは別の意味で、心臓がうるさくなった。
乱れた前髪を直されながら、ごめんな、と。万事屋は困ったようにへにゃりと眉を下げて笑った。ごめんな、だと?
なんだそれは、どういう意味だ。何に対する謝罪だよ。
「テメェは……なんで俺を抱いたんだ」
「お前が可愛くて……エロかったから?」
「な、…なん、だよそりゃ」
「……惚れた相手とセックスしてぇと思うのは男なら普通だろ」
──惚れた相手と。
そうだ、確か、こいつは俺のことが好きだ、とそう言っていた。それから俺に缶ビールの中身をかけて、……なんだそりゃ。今思うとめちゃくちゃな流れだ。風呂も貸してもらおう。ただ、俺のことで必死な顔してるのは悪くなかったな、と先程の行為を思い出す。目の前にいる万事屋は白くてフワフワした髪をしていて、赤い目はウサギみてぇで、俺が何も言わねェからちょっと情けねェ顔になっている。
「なあ、……嫌だった?」
「俺は、付き合ってもねェやつとはしたくなかった」
「だったら俺と付き合えばいいじゃねェか」
「はあ……!? 急に、なんでそうなるんだよ」
「いいだろ」
否定の言葉は許さないとばかりに、二度目のキスをされた。お互いの唇がぶつかる。でもさっきよりは慣れたか。
「ん、…ん、バカ……」
「俺と付き合うよな?」
「はっ、くるくる天パ。選択肢一つしかねェくせに」
満足げな顔で笑った万事屋と目が合って、何故だか悪い気は全くしない。
俺も何だかんだでコイツのことがずっと好きだったのかもしれねェ、と過去の出来事を思い出してみる。嫌いになる要素は山積みだったと思うんだが、俺はコイツに何度も救われたし、今になって毛嫌いする要素なんか一つだってない。コイツが女とこういう、ワンナイトラブみてぇな過ちをしたと聞いた日には、平静でいられないだろう。他の女とキスする万事屋を想像すると悲しくなってきた。それがバレたのか、万事屋に顔を覗き込まれる。
「……土方くーん。なに考えてんの? ちなみに銀さんは本命のことは束縛したい派だから。吉原も浮気に入るから」
いや流石に思考まではバレてねーか。全然関係ねぇこと抜かしてやがる。ただ一つ言うなら、やっぱりちゃんとした順序を踏んで、お、お付き合い……を始めたかったような。まだ寝てていいぜ、と俺に言った万事屋は居間へ向かったようだ。俺はそんなにヤワじゃねェぞ。転がってる空き缶どもを一人静かに片付ける万事屋の背中に狙いを定めて、布団に放られたままになってたパンツを投げつけてやった。さっきからフルチンで歩きやがって。