付き合わなければずっと一緒に居られるしお互いに好き合っていられるとか思ってたよ俺は

 理鶯はキスが上手かった。緩急があり、強引に堕とすようなキスも、柔らかく包み込むようなキスも、繊細に慰めてくれるキスも気持ちよかった。今まで経験してきた下手なセックスなんかよりもずっと、理鶯とするキスが気持ちよかった。
 銃兎の家で二人、酒を含んだ味のキスをして、それからは酔いに任せ──いや、酔ったフリをして身体を重ねた。理鶯は雄なのだと強烈に示され、銃兎は肉体で以てそれを受け容れた。
 理鶯とはただのセフレですと一言で切り捨てられるほどドライな仲ではなかったが、恋人でもない。しかし何度もセックスしていたので、他人から見ればセフレだろう。繋がっている時しか「好きです」と言えない関係がもどかしくもあり、それが銃兎にとっては好ましくもあった。

 甘ったるい疲れに身を委ねていると、理鶯はじっと銃兎の目を見つめてきた。無言で見つめてくるだけで何も言わない。銃兎は恋人のように理鶯の身体に肌を寄せ、先程のセックスがどれだけ最高だったかを述べ、他の男達とは全く違う、理鶯との相性の良さや手先の器用さを褒めちぎった。銃兎が賛辞を送れば他の男は簡単に籠絡できた。しかし理鶯は、銃兎が熱っぽい猫撫で声で話せば話すほど、冷静になっていくようだった。
 銃兎が話し終えるのを待ってから、理鶯は静かな声で言った。
「だが付き合ってはくれないのだろう?」
 冷えたシャワーを浴びせかけられたように筋肉がぎゅっと硬く竦み、言葉が出なかった。繋がっている時なら言える「好きです」は、繋がっている時だけしか言えない。
 理鶯だって付き合うことは望んでいないと思っていた。しかし、そうではなかったらしい。自分がそうだから理鶯もそうだろうなんて、とんだ思い違いだった。
 簡単に付き合って、些細なことで幻滅して、それが積み重なって別れる。そんな馬鹿な沙汰で理鶯を失うのが嫌だった。そんな陳腐な相手にしたくなかったし、なりたくもなかった。
 ずっとこのまま許される限り近くに居てほしい。ずっと好きでいてほしい。どうしたら解ってもらえるか考えたが、頭の中で感情が溢れすぎていて、掬いあげるのは無理だと悟った。この関係は軽くて明け透けなくせに、潜伏して息づく想いが重すぎる。
「そう、ですね」
 ただ一言、なんてことない返事をした。それが銃兎に言える精一杯だった。
 理鶯はまだ何か言いたげだったが、それ以上は何も言わずに銃兎の頭を撫でただけだった。その手があまりに優しくて温かくて心地よかった。好きです、と言えたら。しがみついて縋れたら。思わないでもなかったが絶対にしない。それをしたら最後、泣いてしまうかもしれないからだ。