アイラブユーの副作用

 グレードの高いルームを選んだのは左馬刻だった。ベッドの上で高い位置にある天井を見上げる。完全に酒の勢いだった。酔っぱらったら帰るのが面倒になったという、その場のノリで。明日が休みだという解放感もあった。
 俺と左馬刻は自分で言うのもなんだが仲が良い。ここまできて別々の部屋を取るわけもなく同室で、二人きりの部屋。
「……じゅーと」
「ン……さぁまとき……ふ、んぅ」
 寝転んでいたら左馬刻がふざけてキスしてきたから、俺は拒否するどころか舌を絡ませてやった。ちゅ、くちゅ、と湿度の高いリップ音が漏れる。素面なら噎せ返りそうな酒の味がぬるくなって遠くなり、左馬刻の舌の温度と感触といやらしい触れ合いの音で塗り替えられていく。唾液が顎を伝ってゆく。身体がじんと火照り、濡れた衝動に駆られる。お互いに服を脱がしあって裸になり、浴室へ。もうその時から前戯が始まっていた。夢中でセックスに溺れている最中、俺は左馬刻に愛されていると錯覚していた。左馬刻と視線を交わして笑い合ったそのとき、俺は、男と男であろうが、ヤクザと警察だろうが、俺達の仲はついに信頼のおける仲間から恋人と呼べるようなものに変質したのだと、間違った確信を抱いた。身体は苦しかったがそれよりも心が悦びに満たされて、馬鹿みたいに左馬刻、と何度も呼んだ。左馬刻も、応えるように俺の名を何度も何度も呼んでいたから、余計に俺は、俺の間違いに気がつくことができなかった。
 間違いに気がついたのは、事が終わった翌朝だった。馬鹿な話だ。

「あー……スッキリしたわ」

 すっかり酔いの醒めたらしい左馬刻はそう言いながら俺から離れて、それから、

「また溜まったらヤろうぜ」

と、続けた。

「……『また溜まったら』……?」

 そのときだ。そのとき初めて、俺は違和感を覚えた。左馬刻は俺の疑問符を拒否と受け取ったのか不満げな顔をする。

「アァ? ンだよ嫌なのかよ、いいじゃねぇか。……深く考えんじゃねぇよ。お互い特定の相手もいねぇんだし、女と違って本気になられちまったりガキできちまったりみてぇな間違いも起きねぇだろ」
「…………」
 ああ。間違い。そうか。本気になるのは間違い、なのか。つまり、俺達は、恋人ではない、のか。
 俺の答えも聞かずに説き伏せてくる態度は俺様そのものだ。左馬刻の声を聞きながら、俺はやっと目の前にあるだけの事実に気がついて、思考が白く靄がかったようになった。恋人では、ない。左馬刻にとって俺は、特別でも何でもないんだな。無造作に皺が寄ったシーツの溝を眺める。白々としたそれは、朝を迎えたホテルの部屋で見るには向かなかった。明るいくせに、真夜中よりずっと疾しい。
 
 
△▼△▼△
 
 
 あれから。『間違い』に気づいてから、俺は俺が間違っていたことを左馬刻に決して悟られないように、なんでもないふりを装って関係を続けている。
 セックスの最中に、左馬刻と名前を呼ぶのはやめた。「左馬刻」の代わりに、感じている声しか出さないようにする。左馬刻に抱かれると媚びるように甘くなってしまう俺の声は、正直なところ好きじゃない。寝室に響くのも恥ずかしいが、これが『正解』に近いんだろう。左馬刻は、単に性欲処理ができる都合の良い相手として俺を認識しているんだろうから。左馬刻が、ギラついた瞳で俺を見下ろしてくる。それでよかった。この関係が正しいはずだ。俺達はお互いに特別な感情など抱いていない。ただ都合が良いからセックスしている。それだけだ。
 だが左馬刻は俺を抱くたびに「銃兎」「ウサちゃん」としつこいくらいに呼び続けてくれる。そのたびにやめろと言ってはいるが、そしてそれは心からの拒否ではあるが、同じくらい強く、やめないでほしいとも願っている。シーツの上で「銃兎」と呼ばれるたびに、ああ、左馬刻は俺のことをちゃんと分かってて抱いてるんだな、とか────誰か別の男や女と勘違いしてるわけじゃねぇんだなと、そんなことを一つ一つ確認して安心して、本当に馬鹿みたいだ。厄介な恋煩いを、これ以上大きくさせるわけにはいかない。
 抱かれたあと、目が覚めると部屋に左馬刻は居なかった。帰ったのかと思ったがシャワーの音が漏れ聞こえてくるから帰ったわけではないらしい。
 俺さえこれ以上間違えなければ良い。俺が間違わなければ、俺達はきっとずっとこうして、約束して、会って、呑んで、まぐわって、仕事では共謀して、仲間として────MAD TRIGGER CREWというチームで同じ方向を見据えながら戦っていける。
 幸せも、甘さも、優しさも、何もなくとも、ただ苦しく虚しいだけでも、左馬刻の匂いや体温を感じることはできる。どうやってキスするのが好みなのかも、知っていられるんだ。

「……んだ銃兎、目ぇ覚めたのかよ」
「……ああ、悪い……いつのまにか、寝ちまってたみてぇだ」
「情けねぇツラしてっけど、腹でも痛てぇのかよ」
「腹は、痛くねぇ」
「じゃあなんだ、変な夢でも見たか?」
「変な……ああ、そうだな」

 素直に肯定した俺を面白そうに見た左馬刻が、片眉を上げる。

「へぇ。どんな?」
「本気で惚れた奴と初めて寝たときの夢だよ」
「……マジで言ってんのか」
「嘘なんか言ってどうすんだよ」
「チッ……いつ頃の話だよ」
「あー……もう、半年くれぇ前か」
「半年だと? ンなの、つい最近じゃねぇか」

 左馬刻の声がざらついて尖る。俺の言う『本気で惚れた奴』がまさか碧棺左馬刻だなんて思いも寄らないんだろう。セックスの後に俺が誰のことを想っていようと、どうでもいいんだろう。それどころかきっと、セックスの最中に俺が誰を想っていようと、左馬刻は一切気にしないだろう。気持ちよくてスッキリできれば、それで良いんだから。全くピンときていない左馬刻の様子が、雄弁に俺の立ち位置を教えてくる。俺は、左馬刻の恋人ではない。締めつけられるように苦しくなる胸の奥に眉を顰める。やめろ、落ち込むのは。本気で惚れたのが悪い。間違えているのは俺だ。

「……ああ、なるほどな」

 不意に納得したような語尾の落とし方をしてから、左馬刻はニヤリと口角を上げた。

「半年経っても夢に見ちまうってこたァ、よっぽど巧くいかなかったんだろ。で、ソイツにフラれて、ヤケクソで俺とこんなことになっちまったわけだ。俺様と初めて寝たのも半年くれぇ前だもんなァ、銃兎」

 左馬刻が俺と初めて寝たのがいつ頃だったかを憶えていたことに、今度は俺が驚いた。もちろん、おくびにも出さないが、心臓が不規則に脈打つ。

「ああ……そうだったかもな。シャワー浴びてくる」

 今の流れでシャワーに行くなんて不自然だったか。思うが、これ以上は無理だ。努めてゆっくりと、なんでもない風を装って俺は左馬刻の隣から逃げ出す、はずだった、が、止められる。

「……オイ、なんだよ。放せ」

 左馬刻が何も言わずに俺の腕を掴んでいる。ブレスレットの天然石が照明を白く反射しているのを睨んだのは、顔が見られなかったからだ。見ないようにしているのに、熱の伝わってくる指に泣きたくなる。やめてほしい。辛い。俺を放してくれ。俺の思いとは裏腹に、強引に引き倒された。

「たまにはいいだろ、シャワーの後にもう一回ってのも」
「は……!?」

 俺を捕らえる力の強さに反して左馬刻の口調は涼しいものだった。しかし、今まで何度となく淫らにまぐわって関係してきたが、シャワーを浴び終わって『スッキリ』した後になってまで左馬刻がそんな風に誘ってきたことはなく、今度こそ俺は驚きを顕わにしてしまった。

「もう一回って、俺はシャワー浴びてくるって言ったんだぞ!? 急にどうしたんだよ」
「いいだろ。ウサギの×××柔らかくなってんだから、シャワーの前に付き合えや」
「なに言い出すんだよ? お前だってもうシャワー浴びたじゃねぇか……サッパリしたのにまたベタベタになってどうすんだ」
「………」
「ったく、ヤった後は眠いとか言って、いつも先に寝てただろ? バカ言ってないで寝ろよ、離せ」
「あーもうゴチャゴチャうるッせぇな! 誰が寝るか! なんでもいいからもう一回っつってんだ! ヤるんだよ!」
「っちょ、オイ、」
 なんだ、どうした、何かあったか、と聞こうとする思考と、もしかして、まさか、嫉妬しているのか、と期待しようとする感情が、ごちゃ混ぜになって俺の頭の中を駆け回る。
 抵抗らしい抵抗もできず、そもそも抵抗したいわけでもないが、しかしどうして「もう一回」なんて言い出したのかは知りたい、と口を開いたときだった。不意に左馬刻が、あろうことか俺の、乳首、を、舐めた。

「ヒッ!? な、何すんだよ!? おい左馬刻っ……やだって……!」

 今までそんな風にされたことはない。キスも愛撫もされたが、胸を舐められたことなんか、ない。左馬刻はあの夜ホテルで俺にキスをしてセックスに雪崩れこんだ割には元々男好きというわけでもなさそうで、他にどこそこの男とデートしていたなんて見聞も聞かない。男の、俺の、豊満さも柔らかみもない薄い胸板になんて、なんの興味もなさそうだったのに、左馬刻は今、現に、俺の乳首を、舐めしゃぶっている。

「なぁ、どんなふうにしたんだよ。それともされたのか? ……されたんだろうなぁ、テメェえろいしよ」
「は……はっ? 何がだよ! つ、つーかッななな舐めんなよそんなとこ! ヤんならヤるでいつもみてぇにしろよ! さっさと突っ込め!」
「銃兎ォ、ソイツにどんな風にされたんだか言えよ。次ヤるとき失敗しねぇように俺様が相手してやるぜ」

 『次』に向けて好き勝手な作戦を立てた悪どい男は、ニタニタと下世話な笑みを浮かべて実に楽しげだ、が。

「お……お前、まさか妬いたりして、んじゃ」

 言ってすぐに後悔する。そんなわけはない。左馬刻が嫉妬なんかするわけない。酔った勢いでセックスした男相手に本気になるような間違いをしたのは、俺だけだから。

「いや、そうだよな。ンなわ────ッングっ」

 ンなわけねぇよな、と言おうとした口に、左馬刻が食らいつくようにキスしてきた。乳首を解放されて安堵する暇もない。なんだ、どうした、と俺はまた混乱する。
 初めて唇と唇を触れ合わせたときとは違う、呼吸を根こそぎ奪うような深い口付け。酸欠で頭がクラクラし始めた頃、ようやく左馬刻は俺の口を解放した。
 かと思えば、ぎゅっと首元にしがみついてくる。お互いに酸素を取り込む荒い呼吸が耳を犯す。重なる肌が熱い。苦しい。首もだが、それよりも、心臓が引きちぎれそうに痛い。やめてほしい。やめてくれ。やめろ。

「やめ……ッ放せ!!」

 力の限り叫んだ。俺の怒りなどではきっとビクともしないだろうと思っていたが、予想に反して左馬刻はビクリと肩を揺らした。が、離れない。放さない。

「ッオイいいかげんにし」
「やっぱりソイツがいいのかよ」

 いつもどおり不遜、だったはずの左馬刻の低い声が、揺れる。公の場では決して揺らがないはずのものが、この小さな領域の中でたしかに震えたような。

「は……左馬刻、どうした……?」
「分かってんだよ」
「何を……」

 支離滅裂な言葉に問い返すと左馬刻は頭を振る。ぎゅっと眉を顰める。その表情は怒っているようだったが、俺には、どうにもならない悔しさを抱えているように見えた。

「分かってンだよ、テメェほどの男がフラれるわけねぇって。フる奴なんかいねぇよなぁ……お前さっき、本気で惚れた奴と『初めて』寝たときの夢、つったろ。初めてってことは、二回目も三回目もあったわけだ。今もソイツと寝てるんだろ。ソイツと続いてんだろ……銃兎」

 掠れた声で言い募る左馬刻の鼻先が、耳裏をくすぐる。

「……フラれてヤケクソになって俺と寝たんじゃなくて、俺と初めて寝たとき、ソイツとはまだだったんじゃねぇか? だから俺の名前、何度も呼んでくれたんだろ。何度も何度も、特別みてぇに………ンでそのあとその惚れた奴とめでたく結ばれたもんだから、俺の名前は呼んでくれなくなったんだろ。なんで呼んでくんねぇのかって思ってたけど、やっと合点がいったぜ」

 左馬刻の腕がぎゅうぎゅうと俺を抱きしめた。

「……俺とこんなことすんのは、もう終わりにしようって言いてぇんだろ……銃兎」

 ────なぁ、そうだろ?
 すっかりいつもどおりではなくなった左馬刻の自嘲めいた苦笑が静かに耳に響く。
 なんだこれは。なんなんだよ。一体何が起こってる。左馬刻は、何を分かった気になってるんだろう。”分かってる”と言いながら左馬刻が俺に話して聞かせてくれた内容は、全く現実とは違うし、全然分かってないし、俺の意志を掠りもしていない。ダーツの的を射抜くのは上手いのに、今、左馬刻の言っていることは全くの的外れだ。
 終わりにしようだと?
 俺はどんなことがあってもこの関係を終わらせるつもりなんかない。名前を呼べなくなったのは居もしない誰かが理由なんかでは決してないし、この想いが間違いだと知ったからだ。俺が惚れこんでいて何度も抱かれたらしい本命の『ソイツ』ってのは誰なんだ。知らねぇぞ。左馬刻以外の、他のどこぞの誰かなんて全く興味もないし心当たりもないし、俺の話には一遍も、一片たりとも出てきてない。
 なのに、なんだ、どういうことだ。つまり。今こうやって、ぎゅうぎゅうに俺を抱きしめている左馬刻はつまり。

「やっぱりお前、嫉妬して」
「しねぇよ。するかよ。そんなんねぇよ」
「じゃあなんだ、嫉妬じゃねぇなら、何でそんな顔するんだよ」
「………るせぇ」
「愛着でも湧いたか。男とセックスするのが案外具合良くて、惜しくなったのか?」
「そうじゃねぇよっ! これは、そういうんじゃねぇ────元々そういう話だったろ。溜まったらヤるってだけで、深く考えるような関係でもねぇ。俺が言い出したんだ、分かってんだよ。テメーで言っておいてテメーで反故にする気はねぇ。間違いは起こさねぇし、お前が終わらせてぇなら今日で終わりにしてやる。……けどよ」

 俺の期待をまくし立てるように否定した左馬刻は、言い淀むように言葉を切らし、何度か躊躇った後に続けた。

「……けど、もう一回、あと一回だけで良い。コレが最後なんだってちゃんと分かってる状態で、銃兎を抱かせろ」

 ────じゃねぇと踏ん切りつけらんねぇ。最後に、俺の好きなように抱かせてくれよ、銃兎。

「さま、とき」
「イイなぁ、それ。最後くらいはよぉ、俺の名前も呼んでくれねぇ?」
 熱い身体から発せられた熱い言葉に燃やされて、全身が発火したような錯覚。口付けから解放されたとき以上の熱に灼かれそうだ。この熱の正体は、的外れなことを言って俺を諦めようとする左馬刻への怒りだ。そして、俺自身のこの上ない喜びでもある。
 だって、つまり、左馬刻はつまり、俺に惚れているんだと、全身でそう、訴えているんじゃないか。
 嫉妬ではないと左馬刻は言った。しかし、それが嘘だってことなんか、この熱の籠った声を聞けば丸わかりだ。どんだけの付き合いだと思ってる。左馬刻が、嫉妬してくれている。最後だから名前を呼んでくれと、こんな馬鹿正直に、まっすぐ。ヤクザだとか警察だとか関係ない。精一杯のありったけを示されて、これはもう、愛を告げられたも同然だろう。愛した男に愛を告げられたなら、答えは決まっている。結局のところ、俺は今までずっと間違っていたんだろう。だって左馬刻の前でらしくもなく臆病になっていたんだから。不甲斐なさも女々しさも蹴り飛ばすつもりで、大きく息を吸った。

「〜〜〜ッ、いつからだ!」
「あ……?」
「だから、いつから俺に惚れてたんだよ! 吐けや!」
「?! な、っンだよそれ、ほ、惚れてねぇわ! そんなわけねぇだろうが!」
「アァ!? そんなわけあるだろうが!」
「黙れクソウサ公が! ああそうだよ俺様だってテメェのこと好きだったわソイツより先に好きだったしソイツよりテメェのこと好きな自信あるわ! だからって今更引き留めたりしねぇよ! 俺だってなぁ、ウサちゃんが幸せになんならそれで、とか思ったりするんだよ!! めんどくせぇことも言わねぇでおいてやるからさっさと最後に抱かせろって」
「めんどくせぇこと言えよッッ!!」
「………銃兎?」

 俺の首元から顔を上げる。まん丸になった目で俺を見下ろしてくる。俺はそれを力一杯睨み付けてやった。覚悟しろこの野郎。

「めんどくせぇこと言えよ! 俺の幸せ勝手に考えて勝手に諦めてんじゃねぇよ! 左馬刻様だろうが! 俺のこと誰にも渡さねぇくらい言ってみせろや! 間違いは起こさねぇって言ってるがなぁ、もうとっくに間違いなんざ起こってんだよ! 寝ただろうが! 何度も! 何度も何度も何度も抱いたくせに! 本気になったら間違いになるんだったらなぁ、俺はお前に最初に抱かれたあの時からずーっと、今だって間違えまくってんだよ! そもそもこっちは抱かれた日からテメェと恋人になるんだと思ってたんだぞナメんなクソボケ!」

 丸くなった左馬刻の瞳が、俺の機関銃のような自白を受けるにつれて次第に細くなり喜色に染まっていく。やめて止めて待ってなんて言われても聞く気はなかった。

「左馬刻に初めて抱かれた夜の夢なんか見て、覚めた時にはやっぱり恋人じゃねぇんだって思い知らされて落ち込むのは、これはなんなんだよ。俺が間違ってるんだろうなぁ? どうなんだよ、なぁ左馬刻! 俺が間違ってるんならそう言えや! 俺のことただのセフレだって言えよ! 本気になってんじゃねぇよって、お前なんかなんとも思ってねぇよって笑えばいいだろ!」
 苦しくなるほどの口付けを食らうまで、俺は左馬刻に小言を言いまくってやった。うんざりするほど甘ったるい幸せが丸ごと全部手に入るなら、それで左馬刻が喜ぶんなら、声が枯れるのも構わずに何度でも「左馬刻」って呼び続けてやる。何回でも「好きだ」って言ってやる。そんでまあ、声が掠れまくったとしても、明日くらいは二人で養生すりゃ良いよな。