「ほう。これは……TDDの楽曲か。銃兎は本当に左馬刻が好きだな」
「貴方のことも大好きですよ、理鶯。ただ……TDDの左馬刻様は、あまりにもカッコ良すぎるんです。見てくださいほら」
「うん? ……ほう、これは……たしかに」
「顔が良い上にこのオールバック! もはや有罪だと思いませんか? 格好良すぎてしょっぴかれても不思議じゃありません……まさに様をつけて呼ぶに相応しい。普段の左馬刻はただの左馬刻ですけどね」
「左馬刻の写真を手帳に挟んで持ち歩いているとは、愛が深いな。イケブクロの山田兄弟から聞くに、銃兎のそれは『推しガチ勢』というんだろう? 『リアコ』……であったか。サマトキサマリアコだな」
「りりりりリアコだなんて、そんな……! 左馬刻様は最高に格好いいですけど、推しだからこそ恋愛感情を持ったりはしていませんよ。私なんかが左馬刻様と付き合うとか結婚とか、とてもとても、とっても烏滸がましいです。そもそも男ですよ私」
「そういうものか」
「そういうものです……! コホン……ところで理鶯、左馬刻には絶対にバラしたりしないでくださいね。秘密ですからね。TDD時代から推してるなんて知られたくありません。私が左馬刻のファンで、そのうえチームを組んでいるなんてこと知られたら、それこそ左馬刻様リアコのガチ勢ファンから刺されるかもしれませんし」
「秘匿任務か。承知した」
それからもヨコハマの日常が過ぎていく。銃兎は理鶯の前だと気を許せるのか、左馬刻の話やTDD時代のライブ演出の話、左馬刻の着ている衣装の話、ライトを浴びて立つ”左馬刻様”がどんなに素晴らしい魅力に溢れているかなど楽しそうに話してくれた。
チームメイトに好意を持つのは素晴らしいことだ、と理鶯は思う。嫌悪したり猜疑心を持つよりずっと良い。チーム内の結束も、より強まるだろう。特に親愛なるチームメイト同士であれば尚更のこと。しかし、理鶯が愛する者の一人である左馬刻は無愛想や不機嫌を通り越して、ついに浮かない顔をしている。今日も一人で理鶯のベースキャンプに来て、食後のコーヒーを飲みながら溜め息を一つ。
「左馬刻、どうした?」
「……なあ理鶯。俺……銃兎に避けられてる気がするんだわ。こないだ家行きたいっつったら拒否られた。なんだアイツ……誰か家にいんのかよ。聞いてねぇぞ」
「そんなことはない、と思うが……銃兎なら一昨日、小官のベースキャンプに来ていたが元気そうだったぞ。夜半の灯に寄ってきた巨大な虫に、ひどく驚いているようだった」
「ハァ!? ……アイツ理鶯には会ってんのか。俺には忙しいって言ってたくせに……」
ある時────もういい加減、銃兎に塩対応され続けることに耐えられなくなって押しかけた左馬刻が見た光景。それは忙しい中、自宅で一心不乱に仕事を片付けている銃兎の姿ではなかった。
リビングでラップバトルの映像を蕩けそうな目で観ている瞬間だったのだ。ある意味とても一心不乱ではあったが、左馬刻の知らない銃兎がそこにいた。切ないような、眩しいものを見るような……どう見てもラップバトルの敵状観察をしているような顔じゃない。まるで、そうだ。画面越しに、健気な恋でもしているような。誰かに恋でも、しているのか、銃兎は。銃兎に好きな相手がいる。思い当たった答えを反芻すると、安い油物を食ったわけでもないのに胸焼けがひどい。わけのわからない怒りで血が湧くようだった。銃兎は一生俺様の横に置くって決めてんだよ渡さねぇぞ。ドス黒い感情に苛まれる。一体どこのチームの雑魚野郎が銃兎にそんな顔させてるんだ。許さねぇ。そいつぶっ殺す。今決めた。ギラギラと殺意を込めて敵を睨んだ。画面すらブチ割れんばかりの歓声の先、挑戦的な笑みを浮かべて左馬刻に対峙してきた男────それは果たして、碧棺左馬刻であった。
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あの出来事があってからというものの、銃兎は、俺様を避けることがなくなった。障害なく銃兎に会えるようになったのは良いが、代わりにヤツに対する好意を全く隠そうともしない。初めて俺様に見つかったあの日はすげぇよく通る声でシャウトしてきたくせに、今や部屋着姿ですっかり寛いで、画面の”左馬刻様”に夢中になっていやがる。俺様が冷やし中華を作ってやったら、喜んで美味そうに啜ってたから許してやるけどな。
「……はぁ。本当に良いですね……」
「ったくよぉ、ま〜たそのライブ映像観てンのか? 俺もう見飽きたわソレ。つまんねぇ。ソレじゃなくてアレにしろよ……銃兎と理鶯が映ってるやつ」
「うるせぇな、理鶯は大好きだけど俺が映ってんのなんか見たって面白くねぇだろ嫌だ。それにTDDのメンバーが繰り広げるラップバトルは何回観たって最高だ」
「それこそ何十回目だよ? 同じもんばっか見てどうすんだ。ムカつくだけだわ」
「何回も観ないと分からないことだってあるだろ。それに何回観ても左馬刻様はかっこいいし……あ、ほら観てくれよ! ここ。このシーン。左馬刻様の気怠げかつ凶悪な魅力が最大限に引き出されていて、もう……やべぇ。何度観てもドキドキしちまう……やっぱり左馬刻様が一番だな」
「……そうかよ」
堂々と本人の前で言うことか。慣れたといえば慣れたが、銃兎の口から”ドキドキする” “俺様が一番”なんて素直な好意を吐露されると、なんだか面映い。銃兎は俺の気も知らずほう、と幸せそうな溜息を一つ。
「ああ……このシーンも最高なんだよなぁ。左馬刻様と一郎くんが即興ラップバトルするんですよ。分かるか? 前回の端と端で二人が睨み合う演出も熱くて最高だったけどよ、今回はステージの真ん中でくっついてメンチ切り合ってんだよ。いちゃいちゃしやがって……可愛すぎるよな」
「ハァ……!? いや、一郎クンもサマトキサマも本気でメンチ切り合ってんだわ。全くもってイチャイチャしてねぇからもう一度よく見てみろ」
「もう何度も観てるわ。……もしかして本当に分からねぇのか? 鈍いやつだな……一郎くんと左馬刻様は二人ともツンデレなんだよ。お互い素直になれないだけで何だかんだ言っても二人は一番気が合ってると思うんだ。たしかシンジュクの医者だってそんなこと言ってただろ。見ろ、ニコニコ温かく見守ってるだろうが」
「いや絶対ぇ違うと思うんだが。気が合うどころか憎み合って対立してんだろ。ほら見ろや銃兎、めちゃくちゃ素直にdisり合ってんじゃねぇか」
「さっきから聞いてりゃ何なんだ? てめぇは俺の左馬刻様を侮辱してんのか? お前に左馬刻様の何が分かるんだ!」
「アァ!? 少なくともお前よりはサマトキサマのこと分かってるわ!!! つーかこのセリフおかしいだろ!! 左馬刻様は俺だ! 俺様がMr.Hc! 左馬刻様だろうが!」
「はぁ……? じゃあなんで左馬刻にはこの二人の魅力が分からないんだ」
「……左馬刻様はヨコハマ推しなんだよ。クソダボ野郎の映像ばっかり見やがって……」
なんで俺とダボが云々ってことになるのか、全然ひとッ欠片も意味が分からねぇ。することもなくて暇な俺は、銃兎に拒否られない(気にしてないだけとも言える)のを良いことに腰を抱いたりしていたが、これもう後ろから抱きしめても怒られねぇんじゃないかと思えてきた。つーことで決行。
「じゅーとぉー」
「おい、左馬刻……!? なにすんだよっ」
「だってつまんねぇんだよ。なんで同じシーンわざわざ巻き戻して観てんだ。スロー再生すんのもやめろ……なんか俺様が間抜けに見えんだろ」
見てて居心地が悪くて仕方ない。堪らずにリモコンを奪ってやろうとするが、ぎゅっと抱えこむようにしてガードされる。くそ、このやろう。
「安心しろ。俺の左馬刻様はマヌケなんかじゃねぇ」
ふふん、と自分のことでもないのに何故か自慢げになる銃兎。ところでさっきから俺の、俺のって言うのは無意識なのか?
俺様はいつのまに高飛車で小うるさいウサギのもんになったんだよ。……だったらウサちゃんも俺様のもんにできねぇと不公平だろうが。人生は平等じゃないが、ウサちゃんと俺様は仲間なんだからよ、そこは平等にいこうや。
「……なぁ、銃兎」
「ん?」
「お前こんな簡単に背後取られて……敵に捕まったらどうすんだ。ウサギのくせに警戒心ゼロか」
「警戒……? はは、しねぇよそんなの。だって左馬刻だし……左馬刻が俺を背後から締め殺すわけねぇだろ。今から新しくチームのメンバー探すのなんか面倒じゃありません?」
「……ふ、くく、はは、あー、そうかよ……まあそうだなぁ。そいつは面倒だわ。ん? おら、じゅーとっ」
「ぁ、消すなよ観てたのに……! ふ、うぁ、ふふ、くすぐってぇ……脇さわるな、弱ぇからっ、く、…ひ、ははは、おい、やめろって! ぁふ、ふは、笑わせん、なッ……!」
「やーっぱり納得いかねぇんだわ。どこをどう見たら俺とクソダボ野郎がイチャイチャしてるって結論になんだ?」
「……はぁ、はぁ。だからっ、さっき説明してやっただろ? い、一郎くんとお前が」
「すげぇムカつくからその名前呼ぶんじゃねぇ」
「お前が聞いたくせに!」
「じゃあ今のこの体勢ってなんだよ」
「え……? 今……?」
銃兎は肩越しに俺を振り返って、それから自分の腹にがっちり回されてる俺の腕を確認するように見て、きょとんとした顔をする。んだその顔、可愛いすぎんだろ。
「ウサちゃんよぉ、これは”イチャイチャ”してるんじゃねぇの?」
「違うだろ」
自分のことになれば即答かよ。やっぱりお前は左馬刻様のことを分かってねぇな。
「へぇ、これは”違う”のか。……どこが?」
「……手持ち無沙汰な時に抱きしめる枕とかクッションみてぇなもんだろ?」
「なっ、」
「流石に俺じゃ抱き心地悪そうだけどな」
「……チッ」
「左馬刻……? どうした?」
「うるせぇ。ちっとも何にも分かってねぇウサギに分からせてやんだよ」
「はぁ……? 痛っ、…おい、てめぇまさか」
「もう遅いぜ銃兎。自慢できるなぁ? 大好きなMr.Hcにキスマークつけられちゃったんです♡って」
「するか!! どうすんだこれ…Yシャツ着るだけで隠せるか…?」
「……ギリギリ隠れるんじゃね? 俺様に感謝しろよ」
「感謝っつーかお前が急にンなことしなけりゃ……ひぅ、ん! やだ、いやっ左馬刻……舌いやだ、舐めないで……汗で汚ねぇから…!」
「しょっぺえの。…んー? あんだよ。跡つけんなつったり、ペロペロすんなっつったりイヤイヤが多いな。わがままウサギ」
「わがままとかじゃない! だって、やべぇ感じがする……っ! ひぃぅ、っ、ゾクゾク、て、しちま、ッ、ぅ、から……!」
「抱き枕が抵抗してんじゃねーぞ」
ドスを利かせた低い声で囁く。目に涙の水膜を張って身を捩る銃兎を見てると、分からせるってのが冗談じゃ済まなくなってきた。エロいんだよ、こいつ。銃兎がエロいのが悪いよな。
「銃兎……ココしゃぶってやろうか。特別だぜ」
「んん……、や……!? ぁ、さまとっ、ッ」
くにくにと、貝殻のような溝をなぞるように舌先で辿ると、ひくんひくん肩が震える。耳が敏感なのか、そんなところもウサギみてぇだな。俺と違ってピアスを空けてない耳たぶ。それすらも可愛い。軽く食んでから、つるつるで柔っこい耳朶を吸ってやった。
「はっ……は、んン」
「ぁ、うあ」
じゅるじゅる吸ってやる。わざといやらしい水音を立ててやると、火照ったように紅潮するウサちゃんの身体。舐めてやれないもう片方の耳は指の爪で擽ぐるように弱い力で掻いてやる。
「ぁあ……! ひ、う、やぁ……さま、耳、さわるの、やめ……こんなの、変だ……っ」
「変じゃねぇ……左馬刻様がイチャイチャする時はこうするんだって……お前に教えてやってんだよ、銃兎」
背中の熱が伝わる。びくびく反って反応してくるのが堪らない。突き出されてる布越しの胸に手を這わせ、微かに膨らんでいる突起にわざと指を引っ掛けるようにして触れた。
「ひっ、んぅ……!?」
「ン? どうした……あー、心臓の音すげぇな」
「ち、ちがう……! ぁふ、なんでもね、っ」
────アタリだ。銃兎は耳だけじゃなくて、こっちも敏感なのかもしれない。最高じゃねぇか。確かめるようにもう一度、今度は指の腹で擦りあげてから、左右に弾くように転がす。服の下で転がされるたび、銃兎のソコが硬くツンとなっていく。はぁはぁと息が上がる。爪でカリカリしてやれば、びくびく震えた。
「……んふっ、あぁぁん! ……くそ……忘れてくれ、今の……」
「……なあ銃兎ぉ? 勃っちまってるじゃねぇか……お前の乳首」
さも今気づいたように言ってやると、はっとして自分のそこに視線を向ける。Tシャツ越しでも分かる乳首の膨らみに、銃兎は小さく息を呑んだ。
「ぅ、うそだ……こんなの、気のせいだ…ッ」
「気のせい? 俺が触ったらコリコリになってたぜ」
「ちがう……! ほんとにちがうんだ……からかわれたくらいで、こんな……ちくび、やだ……左馬刻に気色悪いって思われたら、俺」
「……銃兎……」
取り澄ました眼鏡のレンズの奥が泣きそうに歪んだのが分かってしまう。
「………さ、左馬刻、……そんなに怒ってるのか……? ……おれが、ずっと左馬刻様を好きなの黙ってたから……お前のことほったからかしにして、構ってやらなかったから……」
だからこんな意地悪するんだろ、と言外に伝わってくる。銃兎にそういう顔をされると、これ以上は意地悪できなくなってきた。俺様は敵には容赦しないヤクザだが、ヤクザだってこと以前に男で、銃兎の彼氏(になる予定)だ。かわいいウサちゃんを泣かせちまうかもしれねぇっていうのは焦るし、優しくしたいと思うだろ。へにゃりと落ち込んで、しょんぼり垂れるウサ耳の幻覚が見えるようだ。
「銃兎のこと気色悪いなんて思ってねぇよ」
それどころかシャツ捲り上げてねちっこく乳首つまんで転がして舐めしゃぶりたいと思ってる、なんてバレたらコトだ。努めて穏やかな声をかける。
「………さっきも言ったが、俺様は左馬刻様だからな。たとえ画面の俺様に夢中になられたとしてもよ、てめぇに好かれんのは悪くねぇ」
「……さまとき……ありがとう。ごめんな」
「ん。俺も」
「もうしねぇ?」
「おう、しねぇよ」
今日は、と心の中で付け足す。この先の未来永劫ずっと手を出さないなんて保証は全くできねぇからな。今だけの超短期保証になるが、そこは許せや。
それからはウサちゃんと仲直りした。交代でシャワー浴びてから二人でベッドに寝っ転がる。一人暮らししている銃兎のベッドは、二人で寝るには少し狭い。
次に買い替える時はデカいベッドにしようぜ。俺様が贈ってやろうか?と口説いてみたが、なんで俺じゃなくてお前が決めてんだよ俺のベッドだぞと最もらしい顔をした銃兎に文句を言われるだけだった。
「そうだ、知ってるか? ……左馬刻様って好きな相手がいるんだぜ」
「へ、……そ、そう、なのか? 知らなかった……だって、雑誌のインタビューでもTVでもラジオでも、お前ンなこと言ってなかったよな…?」
「秘密だからな。……誰にもバラすんじゃねぇぞ」
「……ふふ、分かりました♡ 考えてみりゃ、これってちょっと役得だな。……お前は格好いいし、優しいし、すげぇ頼りになるヨコハマの王様だろ」
「よせや照れんだろ」
「本心だよ。……だから、きっと、その子もお前に惚れてるよ。左馬刻が告白すれば、すぐ両想いになれるんじゃないか? ……俺も、応援してやるから」
「おい銃兎、なんでそっち向くんだよ」
「もう寝る」
「まだ寝んなって。……なあソイツ全然気づかねぇの。二人っきりで抱きしめてやっても気づきやしねぇって、鈍いにも程があんだろ」
「それは……すげぇな」
「だろ? ……それとも俺様が嫌われてんのかもな。カタギでもねぇし、こんなナリだしよ……」
「なっ、……んなことねぇよっ! 絶対あり得ねぇって俺が保証する! だから落ち込むな。自信持てよ」
「そうか……?」
しおらしい声で自虐的なセリフを言ったのは完全にわざとだった。そっぽ向かれてるのが寂しいから、銃兎の顔が見たくて気を惹くために言っただけ。明かりを落とした暗闇の中で、思惑通りにウサちゃんの目が俺を見つめる。眼鏡外してると幼く見えるよなコイツ。ああ、可愛いな。
「左馬刻様にリアコのガチ勢ファンは沢山いるぞ。俺の知る限りでは」
「またソレかよ。……銃兎は?」
「へ……?」
「銃兎に惚れてるヤツだっていんだろ」
「俺!? ……いや、MAD TRIGGER CREWのファンはいるだろうけど……俺個人を恋愛的な意味で好きになるやつなんか絶対いねぇだろ……嫌われるのには慣れてるし、今更気にしてねぇけどな」
「んなの分かんねぇだろうが。……ほら、こうやって二人きりのベッドの中でよ……誰が来たってお前のこと譲る気はねぇよって言われたりしてな。下着ズリ下げられてよ、エロいことされちまうの」
「!? や、やややめろ、乗っかってくんな! つーかそんなもん断るに決まってんだろうが! 俺は、知らねぇやつベッドルームになんか入れねぇし、それに……俺には……さ、左馬刻様がいるから」
「サマトキサマ、ね……だったら銃兎、今そのサマトキサマって何してんだ?」
「……お、俺の部屋にいんだろ。あんまり意識させんじゃねぇよ性格悪ィな……考えねぇようにしてんのに」
俺が押し倒したらすげぇ動揺してたくせに、部屋から出ることもせずにモゾモゾ毛布の中に引っ込んでくウサギを見て、思わず笑いが漏れる。この反応は、ちょっとくらい期待しても良いよな。
「……へぇ、意識してんのか、ウサちゃんは」
「し、してるに決まってんだろ……! だってお前、さっきから優しい声で喋ってくんの反則だぞ。俺じゃなくて女にしてたら絶対勘違いされるからな……! それと……む、むね、に触るのも……好きな奴だけにしとかねぇと……しょっぴかれても知らねぇからな」
「ふ、は、くくっ……そーかそーか。サンキュ。せいぜい気ィつけることにするわ」
少なくとも嫌われてはねぇし、それどころかやっぱり”TDDの左馬刻様”じゃなくたって好かれてるって自惚れても良いよな。額にキスしてやったら「左馬刻お前ぜんぜん分かってねぇだろバカ……」と、ぐずぐずに溶けた声で文句。バカでも上等だよ。誰にも譲る気ねぇんだわ。