他に愛などない - 2/2

「土方ぁ、しっかりしろって!」
「んぁ〜?」

むにゃ、うぅ、んん……と日本語にならない言葉を呟いた土方は、顔とか耳だけじゃなくて全身が柔らかなピンク色に染まっていることだろう。きっと着流しに隠されて見えないところだって、熱くて、ピンク色をしている。銀時はあまり考えず、見ないようにもしながら土方を何度か揺さぶってみる。閉じられていた瞼がゆっくりと開いて、焦点の定まらない目が銀時の姿を認めた。

「…すげぇ。よろずや……ふふ、三人もいるんだ、な」
「いや、俺は三人もいねェからね? オメーが酔ってるだけだから」
「分裂できんのか……? すげぇ、さすがは…毛玉……だ」
「寝ないで土方くーん。ここの勘定、お前持ちだから。あと毛玉じゃねーよ」
「ん……でも、よろずや……三人いる。三人ともふわふわだな」

そう言って緩みきった顔で笑う。正直、とんでもなく可愛かった。心臓の辺りがギュゥッと鷲掴まれたように苦しくなる。骨抜きにされるとは、きっとこんな気持ちを言うんだろう。
ああもう撫でたい。今すぐ抱きしめたい。下がった目尻にキスしたい。酒で箍が外れた脳味噌はいつも以上に雄の欲望にまみれている。自制の為に吐いた溜め息が熱かった。
ひと月ほど前、土方に『いい酒がまだ残ってるんだよ』と誘いをかけたのは銀時だった。『飲みきっていいと言わなかったか』という返事を聞いた時は、内心で盛大にガッツポーズを決めたものだ。酒を口実にしたのかと笑うなら笑え。こっちはどうやってお堅くて不器用で素直じゃないマヨラーに取り入ってやろうかと真剣なんだ。銀時はもう長いこと土方に恋をしていた。片想い歴も既に片手では数え切れない年数に到達している。一人で、今はこの街にいない男の身を案じて飲む酒なんか、苦くて全て飲み干しきれないに決まっていた。そんなのは土方だって分かっている筈なのに、ずるい男だ。「帰ってくる」と言った男と皆で酒を飲む約束を反故にして二年間江戸から姿を消した上、偶然に萩で再会しても、聞かれたことにろくすっぽ答えず逃げた自分が言えるセリフではないけれど。思い返してみれば土方にも心配をさせた筈だった。
それでも抱いていた密かな恋心。もっとも、それに関してはもう達観の域に達している。職務立場を視野に入れるとして平和を取り戻した今の時代、土方が所帯を持つかもしれないことだって銀時は分かっていた。
付き合いたいとまでは言わないが、せめて近しい間柄でいたい。真選組が一番なのは知っている。だけど、土方に恋人ができたら一番に相談してもらえるような、そういう気安い友達になれたら。そうして自分以外の誰かに親しげに笑いかける土方を想像して、勝手にそのイメージに打ちのめされた。俺だって笑いかけてもらったことなんか全然ねぇんだぞコノヤロー!顔も知らぬモブに八つ当たりする。

(……クソ、やっぱりダメだ。何がせめて、だよ。ガラじゃねぇっつの。好きだ。好きなんだ。土方くんが俺を好きになってくれたらいいのに。俺のモンになってくれたらいいのに)

そうしたらどんなに美しい女より、土方十四郎を大事にすると誓う。

飲み会当日。戸を引いた時から数秒間、いつもこの時は妙に緊張する。土方の隣に誰か知らない野郎が座ってたらどうしようとか、土方がソイツと楽しそうにしてた時、俺が取るべき正しい態度は何なのか、とか。余計なことを考え始めてしまう。そんな銀時の葛藤を知らない土方は、いつもと変わらずに一人でカウンターに座っていて「遅せェんだよ。待たせんじゃねぇ」と言った。偉そうですこと。別に良いけど。怪我もなく変わりない土方を見て、ほっと胸をなでおろす。甘い卵焼きと甘エビの塩辛、焼き鳥なんかを机に並べ、きんと冷えたグラスに日本酒を注いで酒宴は始まった。酒は上等な銘酒だった。口に含むと果物のような爽やかな香りが鼻を抜け、さらりとした飲み口で料理の味を損ねず引き立ててくれる。このところ暑くなってきたから冷やで呑んでも良いが、常温にすると味に深みが増し、口当たりが柔らかくなるのもまた美味い。棚にとっておいた土方の気持ちがよく分かる。

「こないだ三丁目の婆さんの家で草むしりしてたんだけどよぉ。神楽のやつが、」

銀時はかぶき町の住民や万事屋の間で起こった他愛もない話をして、土方はそれに相槌を打って、冗談を言い合って笑ったりして、久方ぶりに穏やかな時が流れた。大勢でどんちゃん騒ぎながら飲むのもいいが、土方が生きる真選組での他愛ない近況に文句や憎まれ口を交えつつ聞きながら飲める酒は、何ともいえないくらい愛おしい。
壁掛けの時計の針が日付を変更した頃。土方がくたりと机へ突っ伏して、そのまま動かなくなった。その後が「よろずやが三人いる」だ。もう考えるまでもなく、完全に土方は酔っていた。焦点が合わなくなるくらいに。
いつも(といっても随分と前に思えるが)土方と飲み比べをすると銀時の方も酔いが回ってしまい、二人して騒いで暖簾から追い出されたことだって普通にあった。でも今日は土方と久しぶりに飲めることが嬉しくて、ワケも分からないくらいに酔い潰れるのが勿体なかった。土方くんって酔うとこんな無防備になるのか。危なすぎる。俺以外の前で日本酒を飲もうとしたら何としても阻止しなければ。可愛いなちくしょー。
おばちゃんにクスクス笑われながら、未だ微睡んでいる土方を起こして店を出る。酒は美味しく頂きました、ごちそうさん。

「土方ぁ、ホテルでいい? 銀さん重いよ……眠いし……歩きたくねぇよ」
「んー……」

甘えたように言う土方。ほんとに、俺以外のやつにこんなことしてたらヤバいと銀時は思った。

「なぁ、よろずや……」
「ひ、ひじかたくん……?」

連れ込んだ先のホテルで、ベッドに寝かせていた土方が身を起こしていた。くぅくぅ眠っていたとばかり思っていたが、起きていたのか。ちなみに疚しいコトはしていない。風呂に入っていただけだ。

「どっかいくのか……?」
「行かねーよ。こんな格好でどこいくの」

備え付けのバスローブを身につけた銀時は、タオルで髪についた水滴を拭っている最中だ。土方は、身体に芯が通っていないかのように右へ左へと小さくゆらゆら傾いでいる。酔いの所為で水分量の増した紺青の瞳が、照明を受けて揺れている。よろずや、と呼びかけられて目が離せなくなった。

「……さんにん、いるなら。ひとり、おれにくれねぇ?」

俺で良けりゃ、なんでもしてやるから。俺なんかじゃ、てめぇを癒せやしねぇかもしれねぇけど、それでも、俺にできる限りで、大事にするから。なァよろずや。だめか……?

舌ったらずで間延びした、甘く響く声。耳から入った音が脳まで到達しても、銀時は全く動けなかった。
──土方は今、なんて言った? 俺の、都合のいい夢か?
土方の指が銀時の手首を絡め取り、そのまま握った。馬鹿力の銀時からしてみれば少し力を入れれば振り解けてしまうくらい、やわらかな拘束だった。だが、そこだけが燃えるように熱い。夢ではないのか。未だ固まったままの銀時の肩に土方の額が乗る。体重を全て預けられている。その重みと温もりは、とてつもない幸福となって銀時の身体中を満たした。

「……あのさ、土方」
「ん、……あんだよ」
「いや、なんつーか……一人で良いの?」
「へ?」
「三人もいるんだろ? もっと欲しがってみねぇ?」
「……みねぇよ。良いんだよ、ひとりで。ひとりいるなら、じゅーぶん……幸せだ」

少し逡巡した後、土方は答えた。なあ、くれよ。よろずや。耳元で囁かれる言葉の威力は絶大だ。一気に背筋を駆け上ったのはまぎれもない快感だった。首筋に擦り寄せられた頭からは、アルコールに混じって甘い香りがした。息をひとつするごとに理性が削られていく。酔っ払いの戯言だ。明日には覚えていないかもしれない。それでも。この男が今だけでも手に入るなら、構わないと思った。

「……分かった。やるよ、一人」

──だからお前も俺達と一緒に江戸で、今もこれから先もきっちり生きてくれよ。無茶して、勝手におっ死んだりするんじゃねーぞ?
真面目に言い募った心からの望みに、土方が吐息だけで微かに笑う気配がした。これは絵空事を馬鹿にされているわけではなく、土方ならできる限りでそうしてくれるだろうと、長くなった付き合いの中でしっている。
銀時の返答を聞いた土方はふわりと笑みを溢し、嬉しそうに声を弾ませた。

「ほんと、か?」
「うん。その代わり、銀時って呼んでみろよ……そのまま、抱きついて」

緩慢な動作で上がった腕が、銀時の背へと回る。指先に力を込められるのが分かって愛おしさが増した。もっと色んな反応が見たくなって耳元で息を吹きかけてみれば、びくんと身体が震えた。敏感な反応を楽しんでいると、土方と目が合った。闇の中でとろけるような光を宿した瞳は酒精と混じり合い、艶然と潤んでいる。誘発されて心臓が強い拍動を生んだ。身体の奥から熱が昂ぶってくるのが分かる。

「銀時、ぜんぶやる。すきにして……身体が熱いんだ。さわって、俺のこと、かわいがって」

その言葉を聞き終わるかどうかで、堪えきれずに土方を抱きしめていた。【きっかけは酒の勢いでした】なんてロクでもないって言われそうだけど、もう何だって良かった。強く抱きしめる。痛いかもしれないが力の加減が出来ない。土方が腕の中にいる。土方。土方。土方。頭の中はそればっかりで、好きだとしか分からない。やはり締め付けられると痛かったのか、痛てェよ銀時と笑う。その腹筋の震えさえも感じられるほどの近さに眩暈がした。しあわせすぎて死にそうとはこのことをいうのかもしれない。名残惜しいが目に焼きつけておきたくて、一度身体を離し土方と正面から向かい合う。
絡んだ視線の中には、自分と同じ熱を孕んだ情欲が混じっていた。たまらない。どちらからともなく唇を合わせる。しっとりと湿ったそこは想像していたよりも柔らかかった。下唇を舌で撫でると、閉じていた唇がゆっくり開く。できた隙間に舌を差し入れ、少しずつ愛してやる。綺麗な歯列。軟口蓋のざらついた箇所、舌の裏側。反応の良かった場所はことさら丁寧に嬲った。絡ませた舌の熱さと柔らかさに眩暈がする。同じ酒を飲んだはずなのに、今日も煙草を吸っていたくせに、土方の口腔はなぜかひどく甘く感じた。そういえば禁煙するのはやめたんだろうか。聞ける余裕はなかった。

「ん、ふ、っぁ……! んん、ふ」

小さく漏れる声がさらに興奮を煽る。唇を合わせているだけで蕩けてしまいそうだ。後頭部に手のひらを沿え、吐息すら飲み込むように更に深く口付ける。溢れそうになった唾液を舌で搔きよせ飲み込む。土方も拙いながらに、銀時の舌へ自分のを擦り寄せて唾液をほしがった。とろりとした液体が粘膜から喉を通い、飲みこむ。土方も、はふはふと呼吸をしながら一生懸命に銀時の唾液を嚥下した。相手の一部を取り込む行為が、こんなにも甘美なものになる。快感が渦巻いて腰のあたりへと溜まっていく。最後にもう一度ヌルヌルと舌を絡めてから唇を離し、潤んだ目尻から落ちる雫を舐めとった。僅かに塩辛い味がして、それすらも甘露のようだった。顔中にキスを落とした。雄の欲望を抑えることは、もうしない。柔らかなピンクどころか、濃いピンクに染まっている身体。着流しに隠されて見えない場所にも触れたくて仕方ない。吸われて赤く色づいた唇の間から、濡れた舌が覗く。さっきまで食んでいたそこはいつも以上に煽情的に映った。一気に股間へと血が集まるのが分かる。

(やべぇ。勃った)

見事にテントが張っている。ぼんやりと定まらなかった土方の視線が、銀時の股間でぴたりと止まった。じっと見つめられる。

(……土方くん、恥ずかしいからあんまり見ないでくんない?)

「ぎんとき……ソレ、勃起してる」

土方の口から卑猥な言葉を聞くとムラムラしてきて、質量を増した気がする。正直な息子に銀時は乾いた笑いを零した。

「……おー。勃ってるな」
「俺が、気持ちよくさせてやるから」
「ひひひ土方? ちょ、無理すんなって」
「無理なんか……してねー、よ」

土方はもたつく手でベルトを引き抜き、ボトムのチャックを下ろす。下着の上から隆起した銀時のペニスが土方の鼻先を掠めて、小さな感触の刺激にもジワリと快感が走った。土方は逃げるどころか銀時の自身に触れるだけのキスをしてから、下着をゆっくり下ろす。五指で握ると、恐る恐るといった手つきで上下に扱かれた。

「っ、ひじかた」
「ん、嫌か……? 俺の手に触られるの……こんな、女みてぇに綺麗でもねぇ、硬いだけの手じゃ……気持ちよくなれねぇ?」
「バカ言ってんじゃねーよ、めちゃくちゃ気持ちイイに決まってんだろ……! もっと強く、っは……そうそう、」
「銀時のちんこ……裏の筋んとこ、触るとドクドクしてる。痛くねぇの? カリのとこも…でかくて、俺の指が引っかかるみてぇになってて……すげぇ」
「土方くんのエッチ。…スケベなことばっかり言って、覚悟しとけよ」

先程の口付けの名残を残したままの土方は、声にも表情にも艶が乗っていて余計にタチが悪かった。床に膝立ちになった土方の着流しの隙間から見える、淡い色をした乳首から目が離せない。ベッドに寝るように促して、帯を引き抜いて床に落とす。大胆に開けた胸元はやはり美味そうな色に染まっていて、ぷくんと慎ましい膨らみの乳首が銀時の目の前に晒された。恥ずかしそうに土方が身体を震わせ、着流しをかき合わせる。

「ゃ、…みるな……! ぎん、」
「やじゃねーだろ? お前だって俺のチンポ見たんだから、隠してねェで全部見せろよ。土方くんのハダカ」
「……っ、意地が…悪いんじゃねーのか、テメェ」
「へーぇ、いじめられんのが好きなんだ。トロトロの顔しちゃってまぁ……たっぷり可愛がってやるから脱げよ、M方くん」
「だっ、誰がエム……ぁう! ちくび、つねらないで……ッ、わかった、脱ぐ、脱ぐから……っ!」

床に落とされた着流しは皺になってしまうかもしれないが、今は構っていられなかった。目の前の土方の肢体にひどく劣情を煽り立てられ、もっと愛でてやりたくなる。

「ん…いい子だなぁ土方くんは。ここも、さっきよりプックリしてきたんじゃねェの……?」
「ぁあん! さわんなッ……ふ、ぅ…くすぐってぇよ……んんぅ」
「くすぐったい、ね。これは? 指でおっぱい挟んでさ、転がすの。優しくしてやろうな」
「! ひっ……ああっ! あぁぅ……それ、ヘン、だから! んん、ぁあ……っ」
「感じてんじゃねーの? 可愛い声出して……乳首もシコってきてんぞ」
「だめ、だめ……許して、銀とき……ちくび、俺、ちくび感じちまってる、から……はぁ、あっ、んん」
「そしたらさ、土方くんと勝負しよう。俺が負けたら、乳首いじめるのやめてあげるよ」

銀時に誘われるまま、二人は体勢を入れ替える。まるで押し倒すような、銀時を見下ろすことのできる視界に土方が高揚したのは、男の本能に近いのかもしれない。

「……? どうするんだよ」
「んー……土方くんがベッドについてるその手が、とろけて崩れちゃったら俺の勝ち」
「ガマン比べか?」
「そうそう。土方くんが負けたら、何してもらおうかな〜」
「ま、負けなきゃいいだけの話だろうが」
「頼もしいねェ。そしたら、今からスタートっ……てことで」
「あ……ぁ、てめ、いきなり……ふ、ずりぃぞ…ぁん」

厚い胸筋を両手でマッサージするように揉みしだきながら、不意に伸ばした指先で脇腹を何度かくすぐると、土方は背をしならせ、ひくひくと身悶えた。腕から力が抜けるのをすんでのところで我慢する。

「頑張るね〜、流石は真選組の副長」
「う、るせ……ァっ、あっ、ああ」

土方は左右の乳首を同時に責められ、はしたない喘ぎを漏らした。ねっとりと乳輪を撫で回されるうちに疼いて突起してきた乳首を優しく転がされる快楽ときたら。堪えきれずに、体勢をキープする力が抜けていく。少しづつ近づいてきた土方の柔らかな耳たぶを銀時が甘噛みした。複雑な耳殻の形を確かめるように舌を這わせ、耳穴に舌を捩じ込む。じゅるじゅると音を立てながら、指先はついに土方の乳首を摘まむ。

「ぁぁん! だめ、あッ、…だめ……!」
「おっぱい好きなんだろ。エッチな声出して」

囁かれると熱が湧くようだった。乳首を紙縒りのように挟んで転がし、クニ、と指先で押し倒せば、ピンと跳ね返してくる。先端を人差し指で甘く詰られて土方の腰が淫らにくねった。止まることなく舐めしゃぶられる耳朶。熱く濡れた舌が耳穴を犯す感触に、ひどく感じてしまう。

「……おいで、土方」
「ヒッ、〜〜ッ!」

発情しきった乳首をキュッと引っ張られ、潜めた甘い声音で囁かれ、土方は声もなく陥落した。銀時の胸元に縋るように呼吸をする間にも、身体中を這い回る熱が下肢に溜まっていく。唾液が溢れ、口端から顎へと伝った。

「おかえり〜。ナニ、やっぱり銀さんの腕の中が恋しくなっちゃった……?」

土方くんの負けだね。何してもらおっかな。
楽しそうに言う銀時に不穏な気配を感じたのか「い、痛いことは嫌だ」と可愛いらしい先手を打ってきた。賭けに了承したくせに、と怒ったりはしない。土方を抱ける幸せを逃したくなんかない。銀時は顎を引いて頷いてやりながら、火照った土方の素肌を撫でた。微かな汗の香りに欲情する。

「……んっ、ぁ……はっ、はあ、ううん」
「どうした、股の間もじもじさせて」
「ひんッ……だめ、グリグリしたら……!」
「もしかしてお漏らし? チューして乳首弄られただけで我慢汁いっぱい濡らしちゃったの?」
「……ふ、ぅぅ、だって……んッ…お前が、えっちなことするから……ッ」
「えっちなことはイヤ? もうやめる?」
「やめないッ……ぎんとき、もっとして……パンツの中、かたくなってぐちゅぐちゅしてるの、切ねぇよお…」
「土方……っ」

酒に酔って理性を手放した土方を銀時は雄の欲望のまま抱いて、隅々まで可愛がった。とろとろのふにゃふにゃになった土方の熱くて柔らかいナカを暴いた。揺さぶれば必死に背中にしがみ付いてくる健気なところも可愛いくて色っぽくて、少し調子に乗りすぎてしまった。興奮しすぎて夢中になって気絶させてしまったのは反省しているけれど、最高の夜だった。
 
 
♦ ♦ ♦
 
 
翌朝、予想通りというべきか土方はホテルでの出来事を忘れているようだった。自分の格好(全裸)と銀時の格好(全裸)を見て、可哀想なくらい目が左右に泳いでいる。それでも、銀時は昨晩とは打って変わり、全く悲観していなかった。もちろん、他の誰かに渡すつもりは毛程もない。
──だって土方は、俺のことが好きだろ?
嫌われてはいない筈だ。
『三人いるなら一人ほしい』
『かわいがって』
『全部やる』
『好きにして』
昨晩、この部屋で銀時の手を握った土方。向けられた視線。その全ての仕草が、好きの想いを精一杯に表していた。銀時が欲しいという発言や行為中の態度が全て演技だと言うんなら、それこそ嘘だなと言い返せる。土方の不器用な性格は出会った頃も、最後に顔を見た二年前も、二年経って再会できた今だって変わらない。そんな土方だから好きになった。
──さて、どうやったら落ちてくれるかな。
方法はいくらでもある。湧き上がる幸福を隠しもせず、銀時はゆっくりと唇に笑みを浮かべた。

「おはよう、土方くん」


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