三分後にはキスされる

「じゅーとぉ……」
「ん……? ふふ、なんだよ」
「じゅーと、」
「はいはい」
 首元に顔を埋めてくる左馬刻。しばらく前からこれだから俺もすっかり興が乗っていて、よしよしと頭を撫でてやった。左馬刻はちゅっ、ちゅう、と何度も鎖骨のあたりに吸い付いて痕をつけたり、頸を甘く噛んだりしてきた。ハマの狂犬────いかつい通り名もあるヤツだが、今の左馬刻は懐いてくる小型犬みたいだ。俺様ヤクザだけど左馬刻は意外とヤキモチ焼きだし甘えるのが好きなんだよ。可愛いヤツ。俺が年上だから甘えてくれているのかもしれない。
「銃兎お前無防備すぎンだよ」
 くぐもって不満げな声色だった。お前がそれを言うのか、とは思ったが言わなかった。言ったら余計に拗ねて面倒くさくなるからな。俺の家で晩酌してるうちに酔ったんだろう。正直役得だった。
「……左馬刻、風呂は…?」
「………」
「分かった、じゃあ一緒に入るか」
「アァ゙!? ドスケベなこと言ってんじゃねーぞ」
 ギラつく瞳で鋭く睨まれた。上目遣いで睨まれても怖くないが、どうして自分の家の風呂に男同士で入ることがドスケベになるんだ。意味がわからん。左馬刻だってサウナによく行ってるじゃねぇか。あれは不特定多数だぞ。ゲイのハッテン場になってるとこだってあるのに。左馬刻は顔も身体も綺麗だから狙われたり、とか。いやまさかな、と想像するほど心配になってきた。

「サウナ……か」
「サウナ? 急になんだよサウナ行きてぇのか? 言っとくが俺様もついてくからな。一人で行くんじゃねーぞ」
「そうだな。今度一緒に連れてってくれ」
「おう任せろ」
 これなら安心だ。中々いい案じゃないか?
 左馬刻に手ぇ出した変態はしょっぴいてやる、この俺が直々に。左馬刻を変な目で見やがったらその時点で有罪だから社会的な制裁を下してやるんだ。王様の護衛も完璧とあれば誇らしい。さすが俺。
「ウサちゃんよぉ……何考えてっか知んねーけど楽しそうだなァ」
「んん? ふふ、まぁな。私にとって大事な男について、少々」
「へぇ……俺様が一番ってことか?」
「左馬刻サマに勝てる奴なんて居ない……おい、ッ、」
 不意に耳朶を噛まれた。痛いと思うより、妙な気持ち良さがゾクゾクと背筋を走り抜ける。
「ウサちゃんの耳やわらけぇ。つるつるの処女だもんな?」
「しょ、…変なこと言うな、ッ」
 吐息混じりの低い声を吹き込まれ、思わず肩が跳ねた。耳に歯を当てたまま喋られるせいで舌がくすぐったくて仕方がない。左馬刻だったらピアス穴のある場所には唇が触れていて、熱く濡れたべろの感触が凹凸をなぞっていく。性器とは遠く離れた場所なのに、左馬刻に耳を舐められると腰の奥にクるような快感があった。これは、まずい。
「っ、さまとき、待て……!」
「勃ちそーだって?」
「ふざけんなっ!」
「ハッ! 素直じゃねーな」
 男くさい笑みを浮かべる左馬刻の指先が下肢に触れてきた。スウェットの生地越しに揉むように握られて、反射的に膝を閉じる。
 左馬刻の手をぎゅうっと挟んでしまったことで形の良い眉間にシワが寄った。慌てて力を緩める。痛かったのかもしれないが、でも、こんな風に悪ふざけするのは良くない。いくら左馬刻が可愛いからって、俺は怒って左馬刻を追い出したっていいはずだ。追い出さないが。左馬刻も俺の気持ちを分かってくれたのか、俺の股間に置いていた手を離してくれた。
「はぁ、……もう、急にビックリしただろ。襲われるかと思ったわ」
「酔った勢いで食われると思ってんのか」
「いや、一瞬な? 左馬刻が俺にそんなことするわけねぇよな」
 そう言い切るのが少し寂しい気がするのは何故だろう。茶化した声に反応せず、ただ見つめ返してくる左馬刻の瞳は熱い光が煌々と燃えていて、バトルでもないのに真剣そのものだった。
「……なし崩しで一回味見すりゃ満足すると思ってんのか?」
 (どういう意味だ?)と聞き返す前に左馬刻は立ち上がって行ってしまう。その足取りはしっかりしていて酔っているとは思えない。程なくしてシャワーの音が聞こえた。
 ぽつんと一人取り残されてしまったソファの上。もし今から左馬刻を追いかけて、全て脱いで裸になって、一緒に風呂へ入ったらどうなるんだろう。
 左馬刻にはドスケベって言われちまうかな。予想通りみたいな余裕なツラした左馬刻に、上から下まで見られて────勃ってるじゃねぇか、って揶揄われるかもしれない。それでも良い。悪徳警官とヤクザしかいないこの家に、しょっぴける奴なんて誰もいないんだから。
 眼鏡を外す手が、少し震えた。