正しい朝の迎え方

 すぅ、すぅ、すぅ。静かな呼吸に合わせて、薄い胸が上下している。ほんの三十分前まで、眠る気にならないだとか左馬刻とセックスするんだとか言ってうるさくゴネていた銃兎だが、現在は左馬刻の寝室の、キングサイズのベッドの上で寝息を立てている。左馬刻も同衾してはいるが、セックスをする為ではない。ただ、眠っている銃兎を眺めていた。眼鏡を外すと実年齢よりも幼く見える無防備な寝顔だった。銃兎が眠ってしまってから、ずっとそうしている。連勤からの徹夜は相当に堪えたのだろう。寝付いたばかりの銃兎から離れる気にもならず、ずっとベッドの上にいる。疲れてるんだろうから甘やかしてやんねぇと、なんて考える己の発想が、銃兎と出会う前の自分では考えられないくらいには甘すぎて、勝手に顔が熱くなる。座りの悪さに思わず舌打ちせずにいられなかった。
(ったくよぉ、やっと寝やがって。……こっちの身にもなれっつーんだ、クソが)
 忙しいのはお互い様だ。まさか銃兎はセックス出来なければ自分のいる意味がないとでも思っているのだろうか。馬鹿ウサギ、俺様をなんだと思ってやがんだよ。俺様はセックスしなくてもテメェに飽きたりねぇし、テメェのこと気に入ってるし、……普通に、お前のこと好きだわ。
 とはいえ、それを銃兎に伝えたことはなかった。左馬刻も元来素直とは言い難い性格なのだ。
 心の中のぼやきも、好きだと思っても、銃兎には聞こえないし伝わっていないだろう。左馬刻がいても気にせずに寝返りを打っただけだった。仰向けだった銃兎の身体が左馬刻の側を向いたので、とりあえず腕の中に引き寄せておく。セックスはするけれど、キスはまだしたことがなかった。この状況なら奪えるとは思うが、それは望むところではない。ただ、大事にしてやりたいという気持ちだけで抱きしめる。セックスしなくても、甘やかしたいと思っても、結局今の関係に落ち着いてしまっている現状がなんだか悔しくて仕方ない。
「……さま……」
「! ……んだよ、……」

 薄い唇を微かにむにゅむにゅさせたかと思うと、またすぅすぅと寝息を立て始めた。寝言で自分の名前を呼ばれると、やはり調子が狂う。眠れずにいるよりはよっぽどマシだし、せめて夢の中でくらいゆっくり休んどけよ、と頬を撫でた。こんな真夜中に一つのベッドで平和に抱き合って眠っているなんてことも、自分たちの立場や生業を考えれば許されないだろう。しかし誰にも見られていないここでは、肩書きや世間の目なんか関係ない。腕の中にいるウサギを見つめる。口うるさくて面倒だけど誰よりも特別で可愛いやつ。
(………俺様に惚れちまったりとか、しねぇかな)
 もしいつかこの気持ちを言葉にして、想いを通わせられる日が来たなら、その時は唇へ口付けたい。今はまだ、そっと願うだけだ。疲れているならゆっくり眠らせてやりたいと思うくらいには大事に思っている。