メシを食えば眠たくなるし朝になれば腹が空くし寝ても覚めてもお前が好き

 ヨコハマディビジョン。同じラップバトルのチームでリーダーやってるヤクザと同居している。そして公言してこそいないが、俺はチームメイトでヤクザの男────つまり左馬刻が好きだった。頼もしいところがあり、他を許さない強さを持ち合わせ、皆に好かれる左馬刻には憧憬のような眩しさを抱いたこともある。それは否定しないが、それだけじゃない。左馬刻に向ける慕わしいその気持ちは、間違いなく恋愛的な意味も含んだ『好き』だった。左馬刻にされたことに一喜一憂して、触れればドキッとして、触られたところをしばらく意識してしまう。
 決して伝えるべきものではなく、隠し通すと決めている。それは自明の理だろう。柔らかい胸もなければ優しくも可愛くもない。いい歳したマル暴の警察官が担当している組の若頭に恋してるなんて、おいそれと話せるわけがない。ましてや強請られたからって一緒に住んでるなんて、誰かに相談したところで正気を疑われるのがオチだ。
 もしこれが他人の恋愛話だったすれば、俺は間違いなく「やめておけ、諦めろ」と言うだろう。好きなのに触れないなんて生殺しもいいところだし、報われる余地もない。
 しかし俺はそれでも、左馬刻との生活が楽しくて仕方がなかった。もちろん告白するつもりなんかない。想うだけでいい。迷惑かけたりはしないから、せめて好きでいることくらい許されるだろ。
 今日も左馬刻が可愛いすぎる。
 
 
△▼△▼△▼
 
 
 『惚れた欲目』という言葉は重々承知している。それでも左馬刻には可愛いところがあると俺は思うんだ。だから個人的に、というか俺の脳内では【同居】じゃなくて【同棲】ということにしている。勘違いするなよ、俺が勝手にそう思ってるってだけだ。誰かが傷つくこともない、ただの俺の一人遊びだと思ってもらえれば良い。それなりに虚しいし、ちょっとだけ切ないが。左馬刻の性別は男で俺も男だ。当然だが左馬刻が俺の恋人になるわけはない。正直、料理する時につけるネイビーのエプロンは凄く似合ってるけど。
とりあえず、何度も連呼して申し訳ないが左馬刻は可愛い。
 四つ年下の左馬刻は俺より少し背が高い。そういう稼業だからってのもあるだろうが、喧嘩して殴られれば相当に痛いし、殴られて腫れたことだってある。
 左馬刻は俺様で気分屋で、言っちまえば自分勝手なやつだ。だが二人きりの時に俺に甘えてくる時の左馬刻がたまらないんだ。俺を傍に呼び寄せたい時には「じゅーと」って俺を見つめてくるんだぞ。抵抗するなんか無理だろう。そんな風に呼んだところで何が始まるわけでもなく、俺が何かするでもなく、ただソファでゴロゴロしてるだけだ。どうして呼んだのか聞いても「なんでもねぇ」って答えるし、本当に用事はないんだろう。でも、左馬刻とならそんな無駄な時間を過ごすのも悪くない。
 寝ぼけている時は俺の寝室に勝手に来ることもある。横に潜りこんできた左馬刻が勝手に俺を抱きしめて、そのまま眠りにつく。そんな無防備さが愛しくて堪らない。こんなに可愛い生き物が存在していていいのか? ああもう、好きだ。
 あと、風呂上がりの濡れ髪のままリビングに来るのはドキドキする。左馬刻の跳ねた髪がしっとりと落ち着いている姿は妙に色っぽくて困るんだ。だいたい下着しか履いてない。そりゃ全裸よりは多少マシだが、それでも意識してしまうものは仕方ないだろう。その格好のままビール飲んだりベタベタしてくるのは目に毒だ。この毒は別の種類の危うさを纏っている。「なぁ銃兎、シャンプー変えたんだけど分かるか?」じゃねぇんだよ。ふざけんな。とても皿まで飲み込めない毒だ。均整の取れた良い身体をしているから余計にいけない。女だったらきっとすぐにでも抱いてもらいたくなるはずだ。見せたくないが。
 味噌汁を飲む時も、いってらっしゃいと見送ってくれる時も、日常すべてが俺には特別だった。独りで生きると思っていたあの頃よりも、左馬刻に出会ってからの方がずっと輝いている。つまるところ、百歩譲っても左馬刻がめちゃくちゃ可愛いのが悪い。

 左馬刻の時間に余裕がある時は、弁当を持たせてくれたりもする。どうやら俺の自炊能力の低さに相当呆れてしまったらしく、朝早く起きて準備してくれる。眠いとかダルいとか言って許される限り寝ていたそうなのに「しょうがねぇから俺様が作ってやる。感謝しろよ」と。
その時点で完全に紛うことなく左馬刻は優しいし俺の嫁みたいだよなって、少し思う。いや、左馬刻は嫁なんてガラじゃないだろうけどな。俺は左馬刻からの愛情が詰まった(ということにしている)弁当をありがたく頂いて一日の活力にしている。
 昼飯は自分のデスクで食べているが、それを見計らったかの様に左馬刻からメッセージが届く。”今日は遅いのか?”とか”ちゃんと昼飯食ったか?”とか何気ないものだ。どれも言葉は短いが、俺のことを考えてくれてるんだと分かって嬉しい。なるべく返信するようにしている。職場の相手ならどうとでもなるが、左馬刻の純粋な厚意の前では気の利いたことも茶化す言葉もあまり言えなくて、一言二言の短い返信をするだけだ。スタンプ機能が今までになくありがたく感じる。

「……ただいま」
 今日はボンクラ共の尻拭いに手間取らされたせいで随分と遅くなった。左馬刻に早く会いたくて帰路を急いだあまり、今から帰るという連絡を入れ忘れてしまったがきっと許してくれるだろう。それに連絡したところでもう寝ているかもしれない。俺は家に着くと静かに鍵を開け、滑るように家の中に入った。
 しん、と静まり返ったリビングは明かりこそ付いていたが、時計の音だけがカチカチと響いていて、誰もいない。部屋が明るいってことは晩酌でもしているかもしれないと期待したが、居ないということは左馬刻は寝ているんだろう。こんな時間だ、声を聞きたかったけど仕方ない。
 俺も早くシャワーを浴びて休もうかと思った矢先に、ふと気づいた。俺の部屋のドアだ。少し開いている隙間から、光が廊下に漏れている。そっとその隙間に視線を向けると、中から人の気配がする。きっと左馬刻だ。
 どうしたんだろう。俺の部屋に何かあったのか?
 不思議に思うもとりあえず声をかけようと俺は口を開いた。しかし「左馬刻」と呼ぼうとした瞬間、喉まで上がっていた言葉を飲み込んだ。
 スウェットの下が床に脱ぎ捨てられている。右手を下着の中へと差し入れ、”そこ”をぐしゅぐしゅ擦り立てて、息遣いが荒い。
「……っ、は、……くそが、ッ、はぁっ……!」
 左馬刻が俺の部屋でオナニーしていた。
 これは一体どういうことだ?
 よし、もう一度考えろ。
 そうだ、左馬刻が俺の部屋でオナニーしてる。はぁはぁ言ってても色っぽくて、俺の部屋でチンコ擦られても嫌な気分には全くならない。
 いや待てSTOP.落ち着け入間銃兎。そんなはずない。だって左馬刻様だぞ、金権力女に酒の左馬刻様が俺のベッドの上でチンコ擦ってるわけねぇだろ。何かの見間違いだ────
そう思いつつも俺はドアの陰に隠れ、じっとその光景を見つめた。たしかに俺も一人でこっそりヌいたりしてる。左馬刻だって男だし、溜まるモノは当然溜まるだろう。生理現象で、おかしなことじゃない。どうして俺の部屋でしてるのかは分からないが、急にムラっとしたのかもしれない。俺が正当性を探している最中にもナニかをぐちぐち上下にしごきたてる動きが激しくなり、左馬刻の口からは吐息と一緒に小さな喘ぎがこぼれる。
「はぁっ、……は、ん、じゅーと……じゅーと、ッ」
「……っ!?」
 呼ばれた。今、俺の名前呼んだよな。
 左馬刻は俺をオカズにシコッてるのか。じゅーとって、俺のことだ。いつも左馬刻が呼ぶ時とは違う、余裕のない掠れた響きをしていた。
 疲れていた身体に夏の熱帯夜の湿気が纏わりつくせいなのか────脳みそが沸騰しそうなくらい熱くなり、心臓が痛いほど脈打つ。全身の血流が早まる感覚に、俺の下半身も反応してしまう。左馬刻が興奮しているところを見て、俺も欲情してしまう。左馬刻は男で、性欲があって当然だし、女を抱きたいとも思うはずだ。だけど違ったのか?
 左馬刻は俺を想像しながら抜いてるんだろうか。左馬刻は俺のことをどう思っているんだろう。
 俺が左馬刻を想うのと同じ気持ちを抱いてくれているのなら、どれだけ幸せか。
目の前には俺の名前を呼びながら自慰をする左馬刻がいる。
「アイツ、いくらヌいても気づかねぇから……たまんね、めちゃくちゃにしてやりたくなる」
「……!」
 何回もしてるのか?この部屋で?
 知らなかった。
「じゅーとのTバック、あれエロすぎんだよ……洗濯するたびにムラムラしちまう、俺様の身にもなりやがれ」
イラついた声で吐き捨てる左馬刻。身体の奥からゾクゾクと痺れるような快感が駆け上ってくる。下着姿の俺をオカズにしてるんだ、左馬刻は。
「……はぁ、銃兎のパンツにチンりしてぇ……あの細せぇ腰押さえつけて、俺様の……っくそ、うう、じゅうとッ」
 寝室に置きっぱなしの枕は左馬刻の汗で濡れきり、左馬刻の匂いがじっとり染み付いているんだろう。左馬刻は俺が居ない間に俺をオカズに使って、俺のベッドであんなことをしているんだ。
 胸がきゅぅっと締め付けられた。雄の欲望を向けられても嫌悪なんかない。左馬刻が可愛くて、好きだ、としか考えられなくなる。
 左馬刻は俺の視線に気づいていないのか、夢中で下着の中で勃ってる場所を慰め、快感に浸っていた。
ああ、触りたい。抱き合いたい。俺の手で、俺の身体で、左馬刻の欲を受け止められたら。
 俺が左馬刻に触れたいと思うのと同じくらい、左馬刻にも触れてほしい。キスをして、舐めて、噛み付かれて、痕を残されたい。左馬刻の、擦りつけられてもいいよ、俺。いつの間にか俺のモノは完全に勃起していて、ズボンの前がキツい。窮屈で苦しい。
「……っ、ふ……ッ、はぁ、っく」
 うつ伏せになっている左馬刻は苦しげに呻くような声で喘ぐ。きっと眉間に皺が寄っているんだろう。
「銃兎……ッハァ、ぐ、ぅう……」
 腰を震わせている。まだイかないらしい。射精を堪えている左馬刻も男くさい色気があって、すごくいい。
「じゅーとのナカ挿れてぇ……俺のチンポじゅーとに……っはぁ、奥まで突いて、揺さぶって、種付けしてぇ……! なァ、俺の精子、全部受け止めてくれよ……じゅーと、ッ」
 左馬刻は俺の枕に顔を埋め、はあ、と熱く濡れた息をこぼす。ぞくりと背中に電流が流れる。左馬刻が俺を求めている。俺を求めてくれる。嬉しい。
 左馬刻が欲しい。左馬刻にもっと求められたい。じゅこじゅこ扱き上げる手の動きに合わせて、俺もとうとう自分の股間に手を伸ばす。手のひらで、ゆるく擦った。スーツの上からじゃもどかしい。ベルトを外してスラックスを下ろす。今日の下着もTバックだ。覆っているのは触れ心地の良い質感の布地だったが、先走り汁でじっとり濡れている今は何の意味も成さない。
「ぁ…っ、……とき、さまときぃ……」
 整えて着ているスーツはくしゃくしゃの脱いだ形のまま放置して、左馬刻の声を聞きながらするオナニーは倒錯的で最高に気持ちいい。左馬刻の名前を何度も呼びながら、俺は竿を握る手を上下させる。ゾクゾクと快感が込み上げた。左馬刻は自分のをどんな風に弄ってるんだろう。先端をぐりぐりする? それとも全体を包み込むように握ってシゴくんだろうか。この位置からだと、どんなふうに責め立てているのかが分からない。
 ……左馬刻が俺の名前を呼んで、俺の下着を脱がせてくれる妄想が浮かぶ。濡れた下着を左馬刻に見られて、恥ずかしい。
『シミ付きパンツのウサちゃん』
 低い声で揶揄って、濡れて汁を垂らす先っぽをくりくり、優しく撫でられる。
「ぁ……っ、ぁん、ふ……、ン。だめ……アっ」
 下着をずらした左馬刻が、ぬるついた亀頭を直接指先で撫でてくる。親指と人差し指の腹で挟まれて、裏筋を引っ掻かれる。
 俺のを扱いてる左馬刻はきっと興奮しきっていて、瞳孔が開いてギラついてるはずだ。あの綺麗な赤い目が、今は俺だけを見てる。
左馬刻に見られてる。俺の勃起ちんこを、こんな間近で。左馬刻の手のひらが俺の陰茎を包む。しこしことゆっくり擦り上げて、だんだん早くなって、それから────ああもうダメだ、出る。
「ひ、ぅぐ……んんぁっ……!」
 ぐっと息を止め、目を閉じて、俺は絶頂を迎えた。びゅく、と精液が飛び散る。その飛沫が俺のシャツにまでかかった。
 射精後の倦怠感で動けずにいると、部屋が静かなことに気づいた。
 何事かあったのかと、そろりと隙間からドアを覗こうとして息を呑んだ。
「……!」
 視線が合った。夢中になって自慰に浸っていたはずの左馬刻は、部屋の入口で夢中になって射精したばかりの俺を、じっと見ていた。
 あまりのことに固まったまま動けない。
 沈黙を破ったのは、左馬刻だった。愉しげに、嬉しそうに笑う。
「ずりぃなぁ、俺様はまだイってねぇぜ」
「さ……さま、とき」
「お前の部屋で匂い嗅いですんのも悪くねぇけどよォ、やっぱ足ンねぇわ。トロトロんなるまで可愛がってやるから来い、銃兎」
 左馬刻はフラフラとベッドに乗り上げてきた俺を押し倒す。そして、俺の唇を塞ぎ、舌を差し入れてきた。
「ん……ぅ」
「オカズにしてたウサちゃんすげぇエロいの。俺の言いなりで、キスしながら自分でチンチンしごけって言えば素直に従ってくれンの。俺の言う通りに動くウサちゃん、すげぇ可愛い。銃兎もできる?」
「でき、ぅ」
「俺とベロチューしながらチンチンしごいてみな」
 言われた通り、左馬刻に覆い被さられながら左手で性器を握り込む。左馬刻の唾液を飲み込んで、さっき遠くから見てるだけだったそこに手を伸ばす。くしゅ、と触れると、そこはもう血液が集まって熱くてドロドロに濡れていて、滑りがよくなっていた。ぬち、ぬち、と音を立てながら扱き始める。左馬刻は俺の口内を舐め回して、上顎を舌先でくすぐる。
「はは、……俺のかよ、さわんの」
「ん、ぇ……? ぁ、……違うのか? でも俺」
「ん?」
「左馬刻を気待ちよくしたい」
 だから、と言ったあと、言葉を継ぐのが恥ずかしくなる。何言ってるんだ俺。左馬刻がその先まで汲み取って「触ってくれんのか?」と訊ねてくる。こくりと首を縦に振って、俺は左馬刻の太くて硬くなったそこを握りこんだ。
「いい子だなァ、じゅーと」
 満足気に笑う息遣いをすぐ近くで感じる。キスできる距離にいるんだと改めて実感した。目が合えばまたキスが始まる。今度は俺から左馬刻に舌を差し出す。お互いの舌を絡めて吸いながら、俺は左馬刻のを、ぬこぬこと扱いた。指先で先端を弄ってみたり、カリ首を強く擦ったりする度に、左馬刻が反応する。『気持ちいい』『もっとして』と言われているみたいだ。左馬刻が腰を揺らすと、腹に付くほど勃起したものが俺の手のひらを擦る。先走り汁でぬるぬる滑る。可愛いところもあるが左馬刻は男で、俺の身体を使ってオナニーをしている。左馬刻の息が荒くなって、吐く息には熱がこもり始めている。俺も興奮していた。
「ン……もう、出すか…?」
 口を離せば糸を引いた唾液が垂れてしまう。顎にまで伝ったそれを拭いながら問うと、左馬刻は眉根を寄せて、照れくさそうに笑った。
 かわいい。俺の手で感じてくれてると思うと愛しくて堪らない。張り詰めたペニスを撫でてから、手の動きを早めていく。左馬刻は切なげに息を吐き出した。
「はっ、…じゅうと、」
「……ずっとガマンしてたんだろ、出していいよ」
「ん……はぁ、ッ、銃兎……お前見てると、たまんねぇ。声も、手も、やっぱり全部……すげぇいい」
「俺も……さまとき、好き……」
「っ、ゔ、あぁ……! イっ……!」
 左馬刻の表情が歪む。俺を抱きしめていた腕に力が入る。同時に、びゅるっと白濁液が飛び散った。熱い飛沫が俺の顔にまでかかった。
「ぁ、わり……顔、つーか眼鏡も」
「いいよ……いっぱい出たな」
 はは、と笑って、ティッシュで顔と眼鏡のレンズを拭う。あとでシャワー浴びればいいし。

「左馬刻、先にシャワー浴びてくるか? 汗すげぇだろ」
「……後でいい。つか何で終わりみてぇな空気出してんだ、俺ばっかり良いようにされて終わりとかねぇだろ」
「はぁ? 俺まだ風呂入ってなくて汚いし、つーか帰ってきたばっかでコレって」
「銃兎は汚くねぇしメシは温め直してやる」
 左馬刻は俺に覆い被さって、身体に手を這わす。
「おい、左馬刻……っ!?」
「俺も銃兎に触りてぇ。銃兎ばっかりずりィ。俺もしてぇ」
 甘えた声すんなよ、嫌だなんて言えなくなっちまう。……俺だって本当は、触ってほしいと思ってるんだから。
 俺と左馬刻は一緒に住んでただけなのに、こんなことしたら戻れなくなっちまう。
「左馬刻、っん……だめ」
「ダメじゃねぇ」
「ほんとに……っ」
「……やっぱ無理だわ」
「え?」
「我慢できねェ」
「さま、……ッ」
 唇が塞がれて舌が侵入してくる。ぬるついた舌先が絡まる感触も、舌を合わせてねっとり擦るのも、上口蓋をくすぐられるのも、左馬刻とするキスぜんぶ気持ちいいって、教えられてしまったから、反抗できない。
 シャツの上からまさぐるように、左馬刻の指先が下から上に這う。ついに乳首に触れた。
 くるりと円を描くように撫でては押し潰され、時折爪でカリッと引っ掻かれる。それだけで俺はビクビクと身体を震わせた。
 左馬刻はそんな俺の反応を楽しむように、しつこく胸元ばかり弄ってくる。たまに掠めるだけの刺激が焦れったくて仕方がない。もっと強く摘んで欲しい。ぐりぐりと捻られたい。
 そうしてほしくて堪らないのに、左馬刻の指先はシャツの上から乳首を弾くだけで、なかなか触れてくれなかった。
左馬刻は俺の耳たぶを食み、ふーっと息を吹きかける。
ぞくぞくする。気持ちいい。
「なぁ、ウサちゃん……どうしてほしい?」
 その問いに答えるのが恥ずかしい。だけど言わないと、きっとずっとこのままだ。意地悪な左馬刻は、俺がおねだりするのを待ってる。
 羞恥心と快感の間で揺れていると、左馬刻が不意に、乳首の周りを指の腹でなぞってきた。優しく撫でられる。決定的なものを与えずに焦らすつもりなんだ。
 ああ、触ってほしい。そこをいっぱい弄って、つまんで、捏ねくってほしい。
 我慢できずに口を開けた瞬間、ピンッと先端を弾かれた。ビリリとした感覚が全身を巡る。腰が浮く。
もうダメだ。俺は左馬刻の首筋に顔を埋め、懇願した。
「…直接、さわって……さまときっ」
「どこを?」
「俺の、ちくび……いじって」
「こうか?」
「ひあっ……! あ、……んんっ」
 ぎゅう、と両方の乳首をつねられて、俺は仰け反りながら喘いだ。
 痛いくらいのはずなのに、それがすごく気持ち良くて、思わず涙が滲む。くにくにと親指と人差し指で挟むようにして擦られる。今度はくりくりと転がされて、熱が逃せないまま蓄積されていく。
 もう片っぽは、ちゅう、と吸いつかれる。そのまま吸われたり、甘噛みされたり、舌で舐められたり。ちゅぽ、と音を立てて唇が離れると、唾液まみれになったそこは真っ赤に腫れて、ツンと主張していた。
「可愛いな、ウサちゃん」
 左馬刻は俺を見下ろしながら笑う。自分の痴態を思い知らされて居た堪れない。
「足開いて俺様に全部見せろ」
 命令口調でそう言われれば逆らうことはできなかった。足をM字に開き、左馬刻に向かって太腿の付け根から奥まで全てを晒す。恥ずかしい格好をしている自覚はあるものの、それを指摘すれば余計に辱められるのは分かっていた。
「一緒に住んでても、銃兎のこんないやらしいポーズ見れるなんて思わなかったぜ。……こら、足閉じてんじゃねぇ。尻の穴まで全部見せろって言ってんだろ」
「……そんなに、見ないでくれ……」
「スケベなパンツが尻に食い込んでんぞ」
 パチン、と割れ目に食い込んでいる紐を弾かれて微かな痛みが走る。
「ぁ……っ! だめぇ、さまときぃ……」
 抗議のつもりで発した自分の声がどこか甘い。まるで被虐されて悦んでいるような。
「チンチン苦しいだろ……? 取ってやる」
「ぁう、」
 Tバックは布面積が少ない。服に響かないから好んで身につけていたが、左馬刻が少し指を引っ掛けただけで、ぷるんっと中身が出てきてしまう。俺のペニスはもう完全に勃起していて隠しようがなかった。
「チンコの形まで綺麗だな」
「………うう」
「グズんなくてもいいだろ、……なぁ、ウサちゃん」
 左馬刻は俺の名前を呼びながら、性器に手を伸ばしてきた。勃ち上がった陰茎に手を添えられ、先走りで濡れた亀頭を手のひら全体で包まれる。そのまま根本まで上下に扱かれ、くびれをくるりと撫でられた。
「んん、ふぅ……!」
 待ち望んでいた直接的な刺激に、はしたない声を抑えることができない。……もっと激しく責めてほしいのに、左馬刻の手つきはひどく緩慢だった。それなのに敏感な部分への愛撫は止まらず、裏筋やカリ首をすりすり擦ったり、鈴口を指先でつついてみたり。中途半端な快感が苦しい。身体の奥からじわじわとせり上がってくるようなもどかしさに、無意識のうちに腰が揺れていた。
それに気づいたのか、左馬刻がくすっと笑った。
 亀頭を手のひらで包まれる。そしてそのまま、くちゃくちゃと揉みしだいた。
「ひっ!? ぁ、ああぁっ!」
 直接的な強い刺激に声を上げる。ぬるぬるの先走りを絡めながら上下に扱く左馬刻は楽しげだ。左馬刻の手の動きに合わせて、一度イった後のそこからカウパー液が溢れて止まらない。
大好きな左馬刻の手を俺が汚している。そう思うだけで興奮して、射精感が高まっていった。足を広げて股間を見せつけるような体勢になってしまう。竿をしごきながら先端の小さな穴を指でくりくり弄られると仰け反るほど気持ちいい。やがて絶頂が近づいてきて、身体の奥底が疼く。
「イきそーか?」
「ん……ぅん……っ!」
 素直にこくこくと何度も首を振ると、左馬刻は手の動きを早める。俺の限界が近いことを察してくれたんだろう。カリ首の段差から裏筋を恥ずかしい水音を立てて擦られ、
「あぁっ、だめ……、っ、ァ、ァ」
「ほらイけ」
「ひぃ、んぁんッ……ーーーー!!」
 俺は声を上擦らせ、呆気なく達してしまった。二度目の精液なのに勢いよく飛び出して、左馬刻の顔や髪にかかる。左馬刻は頬についた白濁を指先で拭って、赤い舌でぺろりと舐めた。恥ずかしいのに目が離せない。俺が見入っているのに気づいたのか、左馬刻は目を細めて俺の腹に飛び散った白濁にも舌を伸ばす。臍の窪みや下腹部に垂れているものを掬われ、口に含まれる。
「はは、…苦ぇな」
「……バカ、そんなもん舐めるなよ……早くシャワー浴びて、」
「ウサちゃんも一緒に入ろうぜ。俺様が満足するまで離してやンねぇけど」
「………っ」
 今でさえいっぱいいっぱいなのに、これ以上されたらおかしくなる。俺が返事に迷っているのを見抜いたのか、左馬刻が抱きついてくる。
「銃兎よォ、もう諦めて口説かれちまえや……銃兎だって俺のこと嫌いじゃねぇだろ。俺に触られたくて堪ンねぇって顔してるぜ」
「………だって、お前と……一緒に住まないかって誘われただけでも、幸せだったのに、こんなことされたら……!」
 どんどん欲張りになっちまう、俺。左馬刻に触れたい。触れられたい。もっと欲しい。左馬刻の唇が俺のものに触れた。啄むようなキスを繰り返す。それから、耳元で囁かれた言葉はあまりにも甘かった。
「これからはイチャイチャ同棲生活しようぜ。メシ食って酒飲んで、くだらねぇこと話して寝て……それも楽しかったけどよ、気持ちイイこともお前と一緒にしてぇ」
 本当に左馬刻が恋人になってくれるのか。もしそうなれたら一生、大切にする。浮気なんて絶対しないし、苦労はすることもあるかもしれないが、お前となら乗り越えて、共に生きたい。
「それともテメェは俺様が他のヤツんとこ行っちまって良いのか?」
 左馬刻がこのマンションから出て行って、俺の知らない女と一緒に住んだり、するのか。俺を置いて────嫌だ。嫌だそんなのは。左馬刻が他の誰かの息づく場所で暮らすのを物分かりの良い年上として見送るなんて、今の俺には、とてもできそうにない。
「銃兎、俺のモンになれよ」
 ゆっくりと視線を絡める。そうだ、逃げて誤魔化してばかりいたって何も変わらないし始まらない。大好きな左馬刻様は俺の返事を期待して待っている。
 イチャイチャ同棲生活、か。上等じゃねぇか。俺の隣にずっといてくれよ。夢想していた光景を実現させるために腹を決めると、左馬刻の左手を両手で包んで、薬指の付け根にキスをした。少し格好つけすぎたかもしれないけど、これが俺の答えだ。惚れ直してくれたか?
 ヨコハマディビジョン。同じラップバトルのチームでリーダーやってるヤクザと同棲している。公言してこそいないが、左馬刻が大好きだ。俺は目的の為ならば手段なんて選ばない。淫らで甘ったるい毒を皿ごと死ぬまで飲んでやる。