身の程を知る頃

「……ンだこれ」
 午前二時だった。
 くわぁと欠伸を一つ。それから首を右にコキッと回して、両腕を伸ばしながら洗面所へ向かう。ぼんやりした頭で歯ブラシを取ると、その毛先が開いてきているのに気づいた。いや、正確に言うと気づいてしまった。夜も更け、日中の疲労と眠気がもったりと瞼へ圧し掛かっている今に。
 できればこのままさっさと歯を磨いて眠りたかったが、気づいてしまったものは仕方ない。左馬刻は「チッ」と小さく舌打ちした後、洗面台の下にある棚の扉を開ける。きっとアイツがここに置いていったはずだ。
────『アイツ』とは左馬刻から見て四つ年上の恋人、入間銃兎だ。
 警察官の恋人は職業柄なのか人の世話を焼きがちなタイプで、そのくせ本人は不器用で生活力が高いとは決して言えないウサちゃんであった。世間から見たら悪徳警官でも、左馬刻からすれば可愛いウサちゃんだ。
 歯ブラシを買い物に頼んだ時「沢山あって左馬刻の好みが分からなかった。好きなの選べよ」と色んなメーカーの歯ブラシを購入した銃兎が、ダイニングテーブルに歯ブラシのお店を広げてくれたのは記憶に新しい(おバカで可愛くて盛大に笑ったらプンスコ拗ねられてしまった)。
 歯ブラシは消耗品なのでストックがあっても困らないし、そしてそれらはきっとここにある。思った通り、棚を開けてすぐの場所に歯ブラシのストックを見つけて取り出す。と、沢山ある歯ブラシのパッケージの先端、フックのようになっている部分が何かに引っかかった。不思議に思いながらぐいっと引っ張ると、奥に隠すように置かれていた見慣れない紙袋が顔を出した。それが冒頭である。
 
 
「? 銃兎か……?」
 左馬刻が購入したものではない。しかしこの紙袋はどう見ても碧棺家の洗面所にある。つまり銃兎が置いていったのだろう、と察しがついた。
しかし、なんだってこんなところに。奥にしまって、気づかれないように隠してるのか。隠してるってことだよな。
(俺様に見られたくねぇもんなのか……?)
 このまま見ないフリをしてやっても良かったが、深夜のノリというか、銃兎が隠していたモノだと思うと妙に気になって紙袋へ手を伸ばす。眠気より好奇心が勝った。この隠し方だ、どんなイカガワシイものが入ってるか分からない。次に来た時は揶揄ってやろうと算段した左馬刻はニヤリと笑った。奥に隠されている紙袋を引っ張り出し、覗きこむ。その中身はイカガワシイものでは全くなく、左馬刻の予想を裏切るものであった。
 
 
○○○○○○
 
 
「じゃあ、そろそろ帰る」
「……おう」
 休日の夜だった。前日から左馬刻のタワーマンションに一泊していた銃兎だが、明日は出勤なので帰らなければならない。お気に入りのウサギと過ごせる時間は左馬刻にとってはあっという間で、思わず「もう少しここにいろや」とカッコ悪くも口走ってしまいそうなくらい名残惜しかったが、理解あるカッコいい彼氏でいたいという男のプライドと見栄もあって、そんな寂しい気持ちを押し殺してソファから立ち上がる。
 リビングから廊下に向かおうとしたそのとき、左馬刻の背後から、不意にすっと二本の腕が伸びて胸元に回された。背中にぴったりとくっついた体温。
「銃兎……」
「……しばらく会えねぇんだ。少しだけ」
 どうやら名残惜しく思っていたのは自分だけではなかったらしい。左馬刻は抱きしめられたままになってやった。一呼吸ほど。そして、回されていた腕に手をかけて離す。銃兎は拒否されたと勘違いでもしたらしく、振り向いた左馬刻にキスされて目を丸くした。
「んだよ銃兎」
「いや、あの……悪い。引かれたんだと思ったから」
「バーカ」
 軽く唇を食むようなキスを繰り返し、徐々に唇の合わせを深くしていく。口腔内をじゅるじゅる舐めまわしているうちに、かわいいウサギの腰が引けていく。逃がさないとばかりに腰を抱いて固定すると、観念したかのように銃兎の方からも舌を伸ばしてきた。くちゅり、と唾液の絡まる音がする。夢中になって貪っていると、銃兎の手が肩を押してくる。まだ足りねぇ、もっと寄越せ、と訴えるように首に腕を巻き付けて引き寄せる。
「ン、ぅ………ぁ、んふ、さまとき、待て、だめだ」
「あ? 何だよ……もうちょっといいじゃねーか」
「だめ、だ……こんなにされたら、帰りたくなくなっちまう」
 二度目のダメを零して俯いた銃兎の顔は真っ赤に染まっていた。いつも涼しい顔をして澄ましこんでいる男が、冴えた瞳を潤ませているのだ。
 なんだコイツ可愛すぎんだろ。ぐつぐつ湧き上がる衝動のまま、銃兎の顎を掴んで上向けさせ、また唇を重ねた。角度を変えながら何度も重ねて、舌をぬるぬる絡ませる。ようやく解放される頃には銃兎の目元は桜色に蕩けて涙で潤み、濡れた吐息が忙しなく零れ、足には力が入らなくなっていた。
「ぁ、ン……左馬刻、聞けよっ、やばい、これ、ヘンな気分になる……」
「なっちまえよ」
 抱き上げて寝室に連れていく。ベッドの上に押し倒して、服を脱がせようとしたところで銃兎が我に返った。
「ちょ、おい! 聞けや! 帰るって言ってんだろ!」
「ハァ?」
「俺は明日仕事なんだよ!」
「ンなこともう知らねーよ」
 抵抗してくる身体を押さえつけてシャツを剥ぎ取ると、露になった乳首を摘まんでやる。
「ひゃっ!?」
 途端、銃兎から甲高い声が上がった。驚いて口を塞ごうとする手を絡め取ってシーツに押し付ける。
もう片方の手でもう一方の突起をくりくり弄れば、銃兎の口から漏れるのは甘い喘ぎ声で。
「ゃ、ン……、さま、それや……ッ」
「やだって顔してねえぞ」
 耳元に囁いてやると、銃兎はぶわりと全身に汗を浮かべた。
「左馬刻、……ほんとに、だめだから」
「だめ?」
「ん、……だめだ、たのむから」
「なんでヤなんだよ」
「だって……こんなの、したくなっちまう……」
「ん、可愛いとこしゃぶってやろーな」
「うぁ! はぁんっ……あっ♡ ァア♡」
 舌先で弾くように刺激すると、びくんと大きく跳ね上がった。れろりと乳輪を舐めてから吸い付くと、銃兎は震えながら悶える。ふぅふぅと息を荒げ、気持ちいいことに耐えようと必死になっている姿はひどく扇情的だ。そのまま執拗に責め立て続けると、やがて銃兎は抵抗できなくなった。んふ、っく、あ……と吐息を零しながら悶える銃兎の乳首をコリコリと刺激する。大きさこそ控えめでも愛されてぷくりと勃っている乳頭を指の腹で撫でてあやしながら下着ごとズボンを引きずり下ろすと、既に勃ち上がって先走りを垂らすペニスが姿を現したから左馬刻は満足げに笑う。そして、銃兎の耳元に唇を寄せた。耳殻の複雑な形を柔らかく食んで囁く。
「ナァ、お前も俺様のしゃぶれ」
「っ、」
「嫌ならやめるぜ?」
「………いや、じゃない…」
 銃兎は恐る恐るという感じに左馬刻の下腹部へ手を伸ばしてくる。帰れなくなっても、ここに泊まっていけば良い。ヤクザの若頭をやってはいるが、早起きして黒塗りの高級車でヨコハマ警察署に送るくらいしてやれる。愛おしい恋人のためなら。いかにもすぎて銃兎に断られそうだが、どうするか考えるのは今じゃなくて明日の朝で良い。

○○○○○○

 ベッドに寝転んだ兎が、無言のまますりすりと頬や頭を擦り付けてきた。素直に甘えてくれているようで可愛い。口からフッと吐息混じりの笑みが零れる。
「おう、……なぁ、どうしたよウサちゃん」
「……んだよ」
 半分甘えるような、半分拗ねたような目で銃兎がジトッと睨む。
「兎にマーキングされてる気分だわ」
「マっ……」
 心外だったらしい。マゼンタとグリーンが混在する瞳に、ありありと動揺が映されていた。本人に自覚はないだろうがその姿はさながらびっくりするウサギのようだ。左馬刻はクックッと笑いながら続ける。
「だってよォ、さっきから俺様の身体にウサちゃんの匂い擦りつけられてるみてェだろ。エッチしたら甘えたくなっちまったか?」
「からかうな! ……嫌ならそう言えば良いだろうが」
「ヤり終わった後にベタベタされんの鬱陶しいんだよ邪魔だわって? ……おいっバカ、ンなわけねぇだろが!」
 冗談で考えたクソみたいな男のセリフを聞いて、銃兎は眉を下げた。これはもう完全にしょんぼりと耳を垂らす兎の幻覚でも見えてきそうだ。鬱陶しく思われないよう隅で寝ようとする健気な兎を急いで抱きしめて、その背中を撫でた。
「銃兎……ちゃんと肩まで布団かぶって俺ンとこいろ。ウサちゃんいねぇと寝れねぇんだわ、俺」
「……ぬいぐるみじゃあるまいし」
「ぬいぐるみよりお前が良いに決まってる。な? じゅーと……」
 やがて心の強張りが解れたのか、おずおずとした様子で体重を預けてきた。
 しばらく会えなくなるらしい銃兎からは、今は左馬刻の使っているボディソープの香りがした。髪にキスをして、閉じこめるように抱きしめる。銃兎は安心しきった表情で左馬刻に身体を預けていた。ヤクザだとか警察だとか、そんな外面も肩書きも関係ない。信頼して自分に身を任せきってくれているのだ。それが堪らなく嬉しかった。そういえば、と思い出す。

「……銃兎、お前よぉ」
「ン……?」
「洗面所の棚んとこに荷物置いてってんだろ」
「ッ?!」
 そう、先日見つけた怪しげな紙袋の中身は、洗顔料だとか下着だとか、言ってしまえばなんてことない銃兎の泊まり用の荷物だった。勿論イカガワシイものなんて入っていない。
 特に気にしたこともなかったが、そういえば銃兎が帰る時にはいつも家の中が元通りだったので、『ああ荷物持って帰ってんだな』くらいの気持ちだった。
「毎回あんなとこに仕舞うくらいなら普通に置いてきゃいいだろ」
「……見たのかよ」
「袋ン中か? 洗顔フォームとクリームみてぇなのと歯ブラシだろ? あと下着だったか……ウサギのお泊まりセットなんて場所も大して取らねぇのに」
「…………」
「またなんかめんどくせぇこと考えてやがンな。言えコラ」
「……めんどくさくなんかねぇ。俺は面倒にならねぇように仕舞っておいたんだ」
 先程からやけに大人しくなっていた銃兎の顔を見ると、自分の私物を左馬刻に見つかってしまったことで落ち込んでいるようだった。どうして落ち込んでるんだと不思議に思った瞬間、弁解とも左馬刻への非難とも思える言葉が飛んで来た。
「マーキングとか、そんなつもりじゃねぇから! これ見よがしに私物置いてくような、そういう……他のイロへの牽制みてぇなこと、したくねぇだけだ!」
「あ……? 他のイロ……?」
「誤魔化さなくていい。……お前はモテるし、他の女のモンとか、本当はあるんだろ。知ってるから」
「テメェ知ってるって俺様の家でそんなモン見たことあんのか。いつ見たんだよ」
「ねぇよ。見たことねぇから、俺が来てる時は隠してくれてんだろ……? だから俺もそうしてるんだ、邪魔にならねぇように」
 さも当たり前のように銃兎は言う。
 銃兎が来る時に、他の女の痕跡を消しているだと?
 そんなことあるわけがない。
 他の女なんて、銃兎以外の存在など、考えたこともないというのに。邪魔になるって、どういうことだ。
 離れがたさにキスをして愛して、愛し終えたあとも抱きしめて髪を撫でる。かわいいウサちゃん、と何度言ってやったか分からない。それなのに銃兎はまだそんな風に思っているのか。銃兎以外に特別な相手なんかいないのに。
 腹の奥が怒りにも似た衝動で煮えそうになったところで、はたと気づく。
 ────お前は俺様のものだ、分かってるよなと何度も教えてやったが、その逆はあっただろうか。
 いや、なかった。銃兎は左馬刻のものなのに、自分は左馬刻にとってその他大勢に過ぎないと思っている銃兎の思考回路が、何よりの証拠だろう。
「アレだ、……別に、銃兎のもんが家にあっても邪魔じゃねぇっつーか……」
「え……?」
「だから、……お前が俺のモンだったら、俺だって銃兎のモンだろうが!」
「んぐっ」
 口を口で塞いだ左馬刻は、たっぷり時間をかけ、銃兎の戦意が喪失したのを確認してから離してやった。かわいい左馬刻のウサギは頬を上気させ、はふはふと呼吸を繰り返している。
「……他の女にしてやった覚えはねぇぞ」
 そう告げると、意味するところを理解した銃兎の瞳が揺らいで、左馬刻を見つめてきた。途端に照れくさくなる。
「ったくよぉ、おばかウサギが! もう紙袋は捨てちまうからな! 洗顔も歯ブラシも全部横に並べてやる! パンツは仕舞っといてやるけどよ、俺様が買ってやってもいいな。ローライズで細い紐みてぇなの……すげぇエロいだろーなァ」
「……趣味が悪ィんだよ」
 そう言いながら銃兎は左馬刻の肩口に甘えるみたいにすり寄ってくれる。それから小さく、でもはっきりと呟いた。
────ありがとう、左馬刻。
 恥ずかしそうにしながらも、銃兎が確かにそう言ったのを聞いた。左馬刻は自分の中で何か、温かいものが満たされていく感覚を覚えた。「尻が丸出しになるパンツは履かねぇけどな」と付け加えられてしまったが、いやらしい下着は勝手に履かせるので問題ない。何だかんだと文句を言いつつ銃兎はエッチなパンツも履いてくれるし、連勤が終われば真っ先に左馬刻のところへ泊まりに来てくれるだろう。
 
 
[newpage]
 連勤明けは真っ先に左馬刻のところへ向かった。シャワーを浴びてすっきりしたしコーヒーも淹れてもらって、恋しい気持ちも蓄積した疲れも癒えてゆく。おまけに左馬刻に抱きしめられてるんだ。
「こんなことまでしてくれなくても……俺が居たら動きにくいだろ」
「俺様は俺様のしたいことをしてるだけだ。……なぁ、ウサちゃんも抱きしめ返してくんねぇ?」
「……左馬刻って俺がしてほしいこと全部分かってるのか?」
 誘われるまま抱きつきながら聞くと自分で思っていたよりも甘ったれてる声になってしまって恥ずかしい。左馬刻にも笑われるんじゃないかと思ったが杞憂だったらしく、ドライヤーで乾かしただけの髪を撫でられる。久しぶりの左馬刻の体温が、匂いが、声が、シャツの乾いた感触も、ぜんぶ好きだ。完璧すぎるだろ俺の彼氏。完璧すぎて俺には勿体ないくらいだよなと、よく思う。左馬刻がくれるもの全てが俺にとって嬉しくてたまらない。
「銃兎のことなら分かるっつーの。だって好きな奴のことだろ」
「…………っ、それ反則だ」
 恥ずかしいセリフもさらっと言うから心臓に悪い。そんなことお前に言われたらときめいてしまう。かっこいい。これ以上好きになったらどうしてくれるんだ。
「銃兎、」
 耳元で囁かれてぞくりとした。顔を上げると唇を奪われる。啄むような優しい口付けを何度も繰り返されるうちに力が抜けてソファに押し倒されていた。
「んぅ……」
 温かい舌が絡んで、くち、くち、と音が漏れる。頭がぼうっとする。左馬刻とするキスも久しぶりで、気持ち良い。もっと欲しくなって自分からも絡めていくと左馬刻に腰を押し付けられた。硬いものが当たっている。
「さまとき、これ……」
「おー、もう勃ったわ」
 ぐりぐりと示すように押し付けられて息が上がる。布越しでも左馬刻の熱くてカタいものを感じて腰の奥がきゅんと疼いた。
「………さっき風呂入ったとき、準備したんだ」
 期待を隠しきれずに見上げるとまたキスされる。今度は最初から深くて、すぐに息が上がった。左馬刻にしがみつくように腕を回す。
「ウサちゃん準備したのか……? 挿れるとこ、やぁらかくなってんの?」
「……うん」
「じゃあ確かめねーとなァ」
 左馬刻がその気になってくれた。俺は左馬刻のものだし、左馬刻は俺のだって言ってくれたもんな。溶けるほど気持ち良くなって、たくさん左馬刻を感じたい。したい、とは思うけど緊張と興奮が入り交じって落ち着かず、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。これからする行為を考えるとどうしても意識してしまう。左馬刻がシャツを脱ぎ捨てると、引き締まった上半身が見える。この身体に今から抱かれるんだと思うと、それだけでくらくらするほどだ。カッコよさも色っぽさも、何度したって慣れない。何回かすれば俺だって余裕で慣れている……はずの予定だった。でも左馬刻という存在は俺にとって普通になるどころかいつだって特別でカッコいいし、余裕なんか全くといっていいくらいにない。最後は左馬刻にしがみついて、上擦った声で喘ぐだけになってしまう。
「じゅうとぉ、」
 少し煽るような声で名前を呼ばれてキスされた。熱い舌が絡まるたびに思考まで溶かされそうになる。そのまま抱き上げられてベッドへ運ばれた。俺を抱えて歩こうとする男なんて左馬刻か理鶯くらいのもんだろうな。
 男二人で寝たってスプリングがぎしぎし軋むこともない。ゆったりとした広いベッドだ。薄明るい照明はいつもの。暗くしたい俺と明るいところで抱きたがる左馬刻との折衷案だ。
 左馬刻の手がおもむろに胸に触れる。軽く揉むようにされてから乳首を擽る。指先で転がすようにして弄ばれた。もう片方は口に含まれて舐められて、ちゅう、と吸われる。
「っん。ふぅ……ぁっア」
 その度にびくびく震える身体を止められない。久しぶりだから余計に感じやすくなっている気がする。いつもより敏感になっている。ああ、乳首そんなに引っかけないで────指先で往復するように捏ねられると乳首がすぐに感じてしまう。必死に堪えようとした。呼吸を整えようと大きく息をする。
 と、左馬刻と目が合った。ぎらぎらと光を湛えた、捕食者のような瞳をしている。背筋がぞくりとする。ぴんっと強めに弾かれて、
「ひんッ!」
 思わず声を上げてしまった。ソファで俺を抱きしめていた時は優しかったのに、寝室で俺に乗っかっている左馬刻は楽しげに笑うだけでやめてくれない。
「ここ、弱いよな? きもちいか?」
「やだ、しゃべらないでぇ……」
 息がかかってぞわぞわする。左馬刻は意地悪だ。喋ると歯が当たってそれも刺激になるから困ってしまう。カリ、と甘噛みされて、優しく労るように舐められたり、ちゅっと音を立てて吸い付かれて、頭がおかしくなりそうだ。
 反対側も同じようにいじめられる。両方一緒にされるなんて耐えられない。
「っあ! だめ、りょうほう、は、ヘンになっちまう……っ」
「なれよ……ほら、ちんちんの先っぽ出してやっから」
 下着をずり下げられて、ペニスの先端を外に出させた。すっかり勃っていて、カウパー汁が腹に垂れる。恥ずかしくて死にそうだった。先端を撫でられて、鈴口をくりくりと弄られる。
「ウサちゃん一人でヌいたか?」
「してない……っ、お前とするから、我慢した……」
「そーか、イイコだなぁ。……またエロい汁とろとろ溢してんぞ」
 尿道口を親指で押し広げられてる。恥ずかしい。左馬刻のバカ。そんなに何度も穴のところヌルヌルされたら余計に汁が出てきちゃう。
「さまとき……やだ、ッ、これ、はずかし……」
「こんなに濡らしといて何言ってんだよ」
「んぁあ……! っふぁ、ん!」
 左馬刻の手が下着の中に入ってきた。上下に擦られると濡れた水音が聞こえてくる。一ヶ月近くしてなくて溜まってるし、もう限界だ。クチュクチュと音を立てられながら裏筋をなぞられて腰が浮いた。
 根元の方を握ってゆっくり上下に扱かれる。射精感がみるみる高まって足先がピンと伸びた。気持ち良い。このままだとすぐに出てしまう。
「じゅーと、挿れてもらってねぇのに出しちまって良いのか?」
 ふるふると首を振った。でも身体は正直に反応していて、左馬刻の手で扱かれてしまえば簡単に絶頂へと導かれてしまうだろう。もう少し、あと少しでイってしまう。
「イくの我慢しようなぁ……乳首なら触ってやるよ」
 左馬刻は優しい声で俺に囁くと、両方の乳首を摘んで引っ張り上げた。痛い。けれどそれが快感に変わる。
「あ゙ッ!?♡ ちくびギュってしないで、……ッ!!」
「お前は俺様のモンなんだから、俺様が見てないとこで他の男に色目使ったりしてたら殺すかンな」
「つかってないっ、ぁんっ、いたい、ゆるしてぇ……」
 左馬刻は俺の話を聞かずに乳首をぐりぐりと潰した。乱暴にされたら痛いはずなのに気持ち良くてどうにかなってしまいそう。へその下がきゅんきゅんとうずく。乳首がじくじくと熱を持つ。引っ張ったり爪でカリカリされたりすると、身体中に電気が走ったみたいになって力が入らなくなる。それなのに左馬刻は容赦なく責め立ててくる。へその下のきゅんきゅんは治らないし、足の裏でシーツを擦ったところで慰みには程遠い。
「さ、まときぃ……」
「ん? どうした……」
「くぅ、んん……っ、乳首いじるの、もっとぉ……! 乳首もっと舐めてほし、ッ」
 たまらずに懇願すると、左馬刻は目を細めて笑みを浮かべた。そして舌なめずりをしてから乳首にむしゃぶりつく。じゅっ、ずずぅっ、と吸いつく音が洩れる。
「ひゃあぁッ!!♡」
「かわいいな、じゅうと。俺様に乳首虐められて悦んでんのか?」
「あっ、あ、んぅ……きもちいい……っ♡ さまときがさわってくれるとこ、ぜんぶ……ぁっ、きもちいい……!」
「素直で可愛いなァ。乳首だけでイケんじゃねーの? 試してみるか」
「やだぁ、さまときのちんこもほしい、おまんこせつなくてつらい……うぅ、せっかく慣らしたのに……」
「おーおー、ちゃんとお望み通りマンコしてやっから……そんなにグズんなよ」
「ほんとか……?」
「ただし、ウサちゃんが乳首でイけたらな」
 決定事項なのかそれは。徹底できる自信がない。乳首だけでイくなんて無理だ。だって、いつもそこでイクときは後ろや前を一緒に弄ってもらうから。今のままではきっと満足できないし、もどかしいばかりでイけないに決まってる。俺はチンコを刺激したくて無意識のうちに太ももをすり合わせていた。左馬刻はそれを見逃さない。膝を割られて股間を押し付けてきた。熱い塊が押し当てられている。どくん、と心臓が高鳴った。
「銃兎、[[rb:これ > ・・]]欲しいだろ? なら頑張れるよな……? 乳首こねくり回されながら射精するとこ俺様に見せてくれや」
 耳元で囁かれるともう我慢できなかった。早くこの疼きを鎮めてほしい。
 俺は達成出来るかも分からない左馬刻からのお願いに、こくりと小さく頷いていた。
 
 
 それから何分経っただろうか。乳首をずっと吸われて、時々甘噛みされた。乳首に使う予定じゃなかったローションを乳首に馴染ませて優しく撫でられて、時々きゅっとつままれる。
「んぅ……ふぁ、はぁ……」
「随分気持ち良さそうだなァ? 乳首でこんなトロ顔晒すとは思わなかったぜ……ん、ほら、逃げてんじゃねぇぞ」
「……ッぁあ!」
 舌で擦るように舐められても快感にしか変換されない。身体は火照って汗ばんでいるし、ずり上がって性感を逃そうとすれば押さえつけられる。
 もう嫌だ。イキたい。出したい。
 俺はシーツを握っていた手を離し、左馬刻の背中に腕をまわした。
 左馬刻は俺の胸から口を離して、ニヤリと口角を上げる。
 そして指先で優しく乳首を転がした。ぬるぬるの乳首から、じんわりとした熱が生まれて広がる。
「はぁ……んぅ……♡」
「銃兎の乳首えろいな……ぷっくりしちまって……」
 左馬刻は俺の乳首を人差し指と親指で挟んでくにゅくにゅと捏ねる。その度に腰が跳ねて腹筋が痙攣する。捏ねたり潰したり、それをされる度に甘い声が漏れてしまう。乳首だけなのに。身体がおかしくなったみたい。
「右ばっかり舐めてちゃ可哀想だもんな」
「ァァァ……っ、」
 ちゅぱ、と音を立てて左馬刻の唇が乳首に触れる。軽く吸い付かれた瞬間、目の前に星がちらついた。熱く濡れた舌の感触が乳首を包み込む。じゅっ、じゅるっ、と卑猥な水音が響く。左馬刻は乳輪ごと口に含んで、唾液と一緒に乳首を飲み込んだ。
 当然、乳首は強く吸い付かれてしまう。脳漿が甘ったるいシロップに浸けられたようだ。溶けてしまいそうなほど気持ちいい。
「んぁっ! ぁああぁッ……♡ やぁッ、ぁ、そこ……」
「ン、きもちーな」
 左馬刻は宥めすかすように頭を撫でてくれるけど、その間もぢゅうっと乳首を吸って、やらしい動きで乳首を舐めた。胸に顔を押し付けている左馬刻に、無意識の内にしがみついていた。
 もっとして。気持ちいい。足りない。下腹部がきゅんきゅんして仕方ない。左馬刻に撫でてもらえない俺の可哀想なペニスは、先走り汁でぐしょぐしょになっている。きっと根元までカウパー汁まみれだ。
「うー……さまときぃ……ちんこ、くるしいんだ……」
「ん?」
「ひゃぅ……っ♡ な、も、イきたい……イかせて……?」
 俺は半分泣きそうな声で懇願した。もう限界だ。乳首だけでイくなんて無理だ。このままじゃ生殺しもいいところだ。俺の懇願を聞き届けた左馬刻が、少し哀しそうな声で、言った。
「……銃兎は俺様のチンポ欲しくねぇのか?」
「え……」
「ウサちゃんがチンチン扱いて気持ちよさそーにイったら、俺も扱いてイきたくなるかもしれねぇ。……まあ、そうしたら銃兎のマンコ挿れなくて良くなるし、俺の腰が疲れなくて良いかもな」
「そんな……っ」
 無駄撃ちも良いところだ、俺のナカを使ってくれないなんて酷い、腰が疲れるなら俺が乗っかって、たくさん動くから────頭の中で言葉がぐるぐる回る。
俺はもう、この身体に快楽を教え込まれた。今更前を弄ってイくだけじゃ満足できない。
「ウサちゃんはどうしたいんだ? 言ってみろよ」
「……お、おれ……は……っ」
 ────我慢するなんて無理だ。左馬刻に挿れてもらうためだったらなんでもする。
「……乳首でイかされたい……!」
「無理しなくて良いぜ、銃兎」
「ムリじゃないっ、頼むから……! お願いだから、乳首いじって……! 俺が乳首イキするところ見てくれ……左馬刻のチンポ欲しいから…!」
「よく出来ました」
 左馬刻はにんまり笑って、再び胸元に顔を埋めた。熱い舌先が乳首を転がし、時折甘く歯を立てる。その度に背筋を電流のような快感が流れた。
「んぁあ゙あぁあっ♡ はぅ……ぁん♡」
 おかしくなるほど気持ちが良い。俺の乳首は左馬刻に虐められすぎて真っ赤になっていた。痛いくらい勃起して尖り、ジンジンと痺れている。それでも左馬刻に触られたら感じてしまうし、身体が跳ねるのを止められない。
「ァあ、ァァあ、さまときぃ、ちくびとけちゃうぅ、…っ、ぁ、あん、も……もうだめぇ……ッ!」
「ヨダレとローションじゃ乳首溶けねぇから安心しろ」
 ピンクを通り越した濃い色に勃起している乳首は、ローションとヨダレまみれだ。左馬刻の指がくりんくりんと何度も引っかけていく。身体の奥底から何かがせり上がってくる、危うい感覚がした。俺はシーツを握っていた手を離して、左馬刻の肩を掴んだ。これは今までとは全然違う。ぬるぬるコリコリされるほど乳首が敏感になっていく。気持ちいいよ、ああダメ、左馬刻。両方の乳首を摘まれて、そのままぐりぐりと左右に捻られる。左馬刻が間に陣取っているせいで太腿も閉じられず、びくびくと腰が震えるだけ。
「ぁ、ァア、あ、ああッ! やだやだもうっ、さまときぃ、イきたい……ッ!!」
「ウサちゃんの乳首はえっちだなぁ。こんなにビンビンにして、俺様のこと誘ってんのか?」
「ちがうぅ……っ、あ、ァ、つままないで……っ、ふ、ぅう、ン……っ」
「ほら、こーやって優しくするのも気持ちいいだろ? もっとして欲しいよなぁ」
「や、んっ……んんぅ、さまときぃ……」
 今度は人差し指で軽く弾かれる。
 ぴんっ…ぴんっ…と痛みもなく一定のリズムで与えられる刺激に性感が高められていく。もう、たまらなかった。乳首を責められまくるのが好きな変態だとか思われたくないけど、でも仕方ないだろう、俺は左馬刻が好きなんだから。
 気持ちよくてとろとろする。ぼうっとしてきた。もうイきたくてイきたくて堪らない。左馬刻の言う通りにするから、俺の恥ずかしいところを見てほしい。
 左馬刻の唇がまた俺の乳首に吸い付いた。口の中でころころと転がされ、舌先で押し潰されて。濡れて外気に触れていた分だけ左馬刻のベロが熱い。同時にもう片方の乳首を指でくにゅりと挟まれる。
「ぁ、ぁあ、あ、あ、あ〜っ♡ らめっ、それ……っ、両方一緒……っ、ひぅう……っ、ぁっ、ぁっ、ァァっ……!」
 ビクンビクンと勝手に反応する俺の身体は左馬刻に作り替えられたみたいだ。
 親指と人差し指で挟まれた乳首はくりくり捏ねられる。
 ちゅぱ、と音を立てて解放された乳首は、乳輪ごと口に含んでぢゅううっと吸われる。さっきまで甘やかされていた乳首には強すぎる刺激だった。俺はあっという間に追いつめられていた。左馬刻が俺をイかせようとしてくれている。嬉しい、嬉しい、早くイきたい、乳首で気持ちよくなりたい。頭の中にピンク色をした欲求ばかりが噴き上がる。ぐしゅぐしゅと視界が水分で歪んだ。身体中を蝕む熱のせいで涙が滲んでいるらしい。
「じゅーと。ここ気持ちいな?」
「いい……♡ 気持ちい、んッぁあ♡」
 ピンと張った乳首の側面を爪の先がカリカリと引っ掻いて、そのまま上下左右に動かされる。ぬるついた乳首が擦れて気持ちいい。
「チンチンも一緒に気持ちよくなってるだろ。乳首可愛いがると銃兎のチンチンもピクピクしてるぜ」
「あ、ぁあ、言わないで……ッ!」
 乳首だけで、俺のチンチンまで気持ちよくなる。初めてだった。もうずっと限界まで張り詰めている。直接的な愛撫がないのに先走りだけがダラダラ溢れていていた。パンツの中がびしょ濡れになっているのがわかる。
「俺様に見られながら乳首イキしたいんだろ」
「うん……っ、見てぇ、左馬刻……! 乳首でイクとこ……ッ」
「いい子だ。可愛くおねだりできたから、ご褒美やるよ」
 左馬刻は指先で乳首を弾いた。それから摘み上げると、きゅうっと引っ張る。俺は悲鳴のような声を上げた。痛かったわけではない、むしろ気持ちよかった。ジンジンと痺れるほど弄り回されたせいで、快感に変換されてしまう。こんなのダメ、無理、我慢できない。腰がカクカク揺れてしまう。もうダメだ、乳首イっちゃう、ちんちん気持ちいい────とうとう、待ちに待った精液のせりあがる感覚が込み上げてきた。
「ん……い、いく……ッ、……ぁっ、あ、だめ……!!」
「チンチン気持ちいいな? ほら集中してろ」
「ぁあ!? ぁっ、〜〜っ、ヒィ、んっ♡ さぁとき、ぁぁん、ちんこ出そぉ、でる♡ いくッ♡」
「ウサちゃんチクイキ見せてくれるんだもんな?」
「うんっ、さぁとき……ッ、」
 乳首をこねくり回す指先は俺の大好きな左馬刻様の。左馬刻に見られていると思うと羞恥心なんて消え失せてしまって、ただひたすら快楽を追い求めることしか考えられなくなる。左馬刻の声しか聞こえない。絶頂に向かって高まる。
「俺のこと好きだろ」
「すきッ、さまとき、さまとき♡」
「俺もだよ……ははッ、かわいいなぁ銃兎は。すげぇ好き」
 低い声で囁かれるの、たまらない。すきだ。
「さまときっ、いく、いく♡♡」
「イっちまえ」
「ぁあ゙っ……ヒッ、〜〜〜ッッ♡♡♡」
 不意に目の前が真っ白になった。
 乳首をぎゅっと摘まれながら引っ張られる。痛いはずなのに、やっぱりそれが堪らない。全身を駆け巡る強烈な悦楽に震えが止まらなかった。身体は弓なりにしなって、足先までピンと伸びたまま動けない。左馬刻は勃ちきっているだろう乳首を指先でクリクリと捏ね回す。そんなにされたらもう。
「ぁああぁあっ……出ぅ……っ、ぁ、あ、アアッ……!」
 見てもらうために腰を突き出したまま、目の前がチカチカして何も考えられなかった。ひたすら気持ち良い。びゅうっと、勢いよく飛び出た白濁は腹の上を汚していく。ペニスは先走り汁と精液でどろどろになっていて、腹の上に水溜りを作っていた。単純に前をしごいて射精する時よりも深く長いオーガズム。左馬刻とお互いに興奮しきった視線を交わし合った瞬間、ヘソの下が性懲りもなくきゅんと疼いた。
「ハハッ……乳首でイくの上手に出来たなァ、銃兎」
「ぁ……♡ はぁ……♡ んぅ……」
「乳首だけでイケるくらい俺様に調教されて良かったな」
「んっ……♡」
 よしよしと褒めるように頭を撫でてくれる。それから頬や鼻先にキスをして、最後に唇にも、甘やかすようなご褒美のキスをくれる。触れるだけのものだったが、イったばかりの敏感すぎる身体に合わせてくれてるんだろう。
「じゃあ挿れてやっから………ふ、パンツん中すげぇぐちゃぐちゃ」
「さぁとき……♡ はやく、はやくほしい♡」
「分かった分かった」
 下着を脱がされ、両足を持ち上げられた。秘部が左馬刻の目の前に晒される。ああ、やっともらえるんだ。ぬるぬるのローションを纏った左馬刻の鋒が押しつけられると、期待でひくひくしてしまう。早くほしい。セックスしたい。左馬刻の太いカリ首を受け入れたい。血管の浮いた凶悪なチンポが俺の一番奥までくるようにして、揺さぶって。会えなかったぶんを埋めてくれ。
「銃兎、好きだぜ」
「……んっ♡ きた、ぁ♡」
 ぐぷん、と音がした気がした。ずっと欲しかった左馬刻のが挿入され、ずぶずぶと押し入ってくる。肉襞を拡げていく硬い熱と質量だけで軽く達してしまいそうになる。俺は左馬刻の首に腕を巻き付けて、足を絡めてホールドしていた。こうしていると左馬刻は俺のものって実感できる。
 正常位は体位のぶんだけ左馬刻に利があって、欲に任せて突き挿れることだって出来るのに、左馬刻はそれ以上をしなかった。代わりに視線が合わせられる。
「つらくねーか? 痛てぇ……?」
「ん……へ、いき」
「……いきなり挿れて動くの俺が怖ぇかも。ウサちゃんも俺に合わせてゆっくり息してろよ」
 そのまましばらく抱きしめ合う。重なっているからお互いの息遣いと、熱くなった身体を感じ合える。
「ウサちゃん男のくせにおっぱいが真っ赤に腫れちまってるぜ? 誰にこんなこと許したんだよ」
「……俺の一番好きな奴」
「へぇ。そいつに意地悪されてねーか?」
「されてる、けど……優しいし、意地悪されても好きだ」
「嫌いにならねーのか」
「ならねぇ! ッン……俺、飽きられないように頑張らねぇと。俺の彼氏は年下だけど、すげぇ良い男なんだ。知り合いも多いし……この先ずっとじゃなくても、せめて明日は好きでいてもらえるように……」
「……嫌うわけねーだろ。ンな悲しいこと言ってんじゃねぇよ」
 目尻から零れ落ちたものを指で拭われる。俺の頬を両手で包み込んで口づけてきた。唇を優しく舐められて、舌を吸われる。好き。大好き。愛してる。言葉だけじゃない気持ちが伝わるようで、夢中になった。
「……ん、さまとき……動いていいよ」
「……ッ、く」
 ゆっくりと律動を始めた。ゆるゆると緩慢なピストンだったが、次第に速くなっていく。ぬかるんだローションの音がくぐもって聞こえてきて恥ずかしい。でもそれ以上に興奮して欲情した。
「ぁあっ、そこ……ぉ、ぁあ、ッ、イイッ、きもちぃ♡さまとき♡もっと……♡」
「はぁ……、クソっ、エロすぎんだよお前……ッ」
 左馬刻は前立腺を掠めながら奥まで突いてくれる。気持ちいいところを擦られ続けて、頭がバカになりそうだ。左馬刻を満足させたいのにもう何も考えられなくて、上擦った声で喘いで左馬刻にしがみつくしかできなくなる。左馬刻とセックスするの気持ちいいよ。もっとして。前立腺も奥のいいところも全て確かめられたい。
「ぁ、ひッ♡ おっき……ぅ、ァぁあ♡ さまときのちんぽ、イイ…」
「ん、挿入ってるぜ。ほらここ、……つかウサちゃん前より痩せたな。ちゃんと食わねぇから腹が薄くなんだよ」
 ムードもへったくれもなく俺の不摂生を見抜かれてしまった。署の連中の前では「着痩せする方なんです」とかどうとでも言えるのに、左馬刻に抱かれている俺は裸だ。パンツも脱がされて、股を開いて恥ずかしいところを見せている。
 こんな状態では服を着ていないぶん誤魔化しようがなかった。デスクの引き出しにゼリー飲料と栄養ドリンクと胃薬をストックして過ごしていたことはきっと言わない方がいい。前に会った時より薄くなったらしい俺の腹を撫でて「明日はウサちゃんに美味いメシ作ってやらねぇとな」なんて言われたから胸がいっぱいになった。それなりに、いや、結構お前に愛されてるんだなって、自惚れさせてくれ。
「ぁ…っ、ぁ、ぁ、ぁ、んふ、ぅん」
 ぱちゅん、ぱちゅんと淫靡な音が響いている。左馬刻に愛されてる時の音だって思うと、身体が反応してしまう。奥まできて、俺の深いところまで暴いて、マーキングしてくれ。左馬刻のペニスがナカに馴染んでいくのが嬉しい。きゅんきゅんとナカが締めつけてしまう。最初は探るような動きだったのに、俺の腰を掴んで激しく打ちつけるようになった。身も心も掻き回されているみたいで、おかしくなりそう。ぐちゃぐちゃな顔をしているだろう俺を見て、左馬刻は嬉しそうだ。汗に濡れた自分の前髪をかき上げて、ニタリと悪い顔をした。俺は何だかそれが嬉しくて、幸せで、左馬刻の背中に腕を回すと抱きしめた。
「は……っ、じゅーと……じゅうと、ッ、はぁ」
 抽挿は更に速度を増していく。ぱんっぱんっと肌がぶつかる音が響く。
「さまとき、すき……♡ さまとき……!」
 こんな風にお前を呼べるのは、この先ずっと俺だけだったら良い。その瞬間、ぎゅっと抱き寄せられる腕の筋肉に力が入って、左馬刻が呻く。俺の深いところにどぷどぷと熱いものが注がれていった。ドクンドクンと脈打つ感覚さえ鮮明に感じ取れた。左馬刻がイったのを嬉しく感じながら、俺のペニスからもショロショロって────いやこれ。
「!? さ、さまときっ……! だめ、はやくっ、離れてくれ」
「ア……? ンだよ……ああ、」
「……っ」
 納得したような声に血の気が引いた。やってしまった。微かなアンモニアの臭いは俺が今ここで何をしでかしたのかハッキリと突きつけてくる。
「久々で力抜けちまったんだろ。俺様の淹れてやったコーヒーも飲んだしよ」
「……ごめん」
 ごめん、って何だ。小学生か俺は。「ごめん」で済んだら警察なんて要らない。すっかり濡れて冷たいシーツの感触が罪悪感を抉った。
 セックスの最後が失禁って最悪だろう。気分も盛り下がるし、左馬刻が普段使ってる上等なキングサイズのベッドを俺が台無しにしちまったんだ。抱いてるオンナがベッドでそのまま小便まで漏らすとか普通は有り得ないだろう。抱き合っていたせいで左馬刻まで被害に遭わされている。ヨコハマの王の寝室でこんな粗相をして、怒鳴られても叱られても当然だろう。幸せな気持ちだったのに一気に底まで落ちた。下手くそに吸った空気が重い。
「ほ、本当にすまない……俺、そんなつもりじゃなくて、……ちゃんと弁償しますから。汚いでしょう? 先にシャワー浴びて」
「弁償なんかしなくてもシーツ洗濯すりゃ済むしウサちゃんほったらかして誰がシャワーなんざ行くか」
「でも……っ」
「こら、動くんじゃねぇよ」
 左馬刻がタオルで自分の腹と俺の腹を拭ってくれる。まだ俺の中に挿入っていたのを引き抜くと、名残惜しげにひくついてしまうアナルにもタオルを当てて、溢れ出したものを軽く拭ってくれる。
「何でもねぇから気にすんな」
「……すみません」
「俺様と銃兎の仲に敬語なんざ必要ねぇだろ。……ごめんなさいじゃなくてサマトキサマありがと、って言やいいンだよ」
 甘やかし純度100%みたいな優しい口づけに涙が出そうになる。胸の奥が詰まるように苦しいくせに、ほこほこと熱くなって満たされていく感覚がした。
「左馬刻、ありがとう……大好きだ」
「……おう」
 ヨコハマで誰もが恐れるだろうヤクザの若頭が、ふいっと視線を逸らした。この反応は照れているんだろう。何も言わずに俺の頭をくしゃくしゃと撫でたから、多分そうだ。可愛くて思わず笑うと、左馬刻がむっと唇を尖らせる。
「んだよ」
「一緒にシャワー浴びてぇなと思っただけだ。眼鏡は枕んとこに置いて良いから、さっきみたいに抱っこして連れてってくれ」
「……ワガママ兎。眼鏡くらい自分で外せねぇのかよ」
「左馬刻といちゃいちゃしてて両手が塞がってる」
 甘えついでにチュッと耳元へキスしてみた。不意を打たれて目を丸くした左馬刻が「仕方ねぇなぁ」と如何にも凶悪そうな笑みを浮かべる。ガラが悪くて物騒な男の隣にいるのが一番安心するんですよ────なんて、他人が聞けば震え上がる話だ。