お前で容易く塗り替わる世界に生きてる

「銃兎さんのお陰でカシラすっかり元気になったんスよ!」
「いやーホント、マジで助かりました! お見事っていうか、流石としか言えねーくらいで………!」
「はぁ。そこまで感謝されても困るというか、私からすればよく分からないんですけどねぇ……」
「そこンとこは俺らも詳しくねぇもんで、よく分かんねぇとこではあるんですが……なんつーか、言う相手によって効果が変わるんじゃないですかね?」
「効果が……?」
「ええ。でなけりゃ、銃兎さんの一言でカシラがすんなり目を覚ます理由が分かんねぇっていうか」
「ああ……俺らだけだった時は地獄だったよな」
「うわー、アニキその話は!」
「ははは、スキスキスキスキ……っていっそ呪文みてぇに唱えまくってたもんなぁ」

 好きと言ってもらえなければ胸の痛みが酷くなり、しまいには気絶する違法マイク。そんなのまるで少女漫画やお伽話の世界だ。だが左馬刻はその厄介な効果に現在進行形で苛まれている。左馬刻の舎弟曰く、『好き』の効き目はランダムらしい。
 同じ『好き』という言葉でも俺が一言ソレを口にすれば効果テキメン、俺が好きだと告げると左馬刻はすぐに目を覚ますのだという。実際に意識を絶っていた左馬刻を目の前にした時の、心臓が冷たくなる感覚は忘れがたい。それが俺の一言で目が覚めてくれるなら僥倖が過ぎる。舎弟達に言わせればそう簡単に目を覚ましてくれるような状態ではなかったらしいのだが、偶然に感謝した。舎弟の奴らは揃って何か悪いものでも思い出したのか、あの時はマジでヤバかったよなと健闘を讃え合っている。

「どうしようかと思ったぜ……! 朝が来てやっとカシラが目ぇ覚ましてよぉ」
「以前はそんなに酷かったんですか? とてもそうは見えませんでしたが」
「そりゃあもう酷いなんてもんじゃねぇっス! 聞いてくださいよ銃兎さん! ウチの奴らで一晩中カシラをぐるっと取り囲んで、それから全員で好き好き言いまくってたんだぜ!? あ、すんません」
「結構」
 火貂組の構成員は世界でも類を見ない組織力を持っているが、それがこんなところにまで発揮されるとは誰も思うまい。苦笑して、それは随分と大変でしたねと労った。
「まあ俺らもぶっちゃけカシラのこと好きでこの世界いるんで、……そういう意味では、ちょっと良い機会だったかもしれねーかも……あ、これカシラには言わねェでくださいね!?」
「ふふ、……そうですか。それはそれは」
 たしかに、左馬刻をよく慕う彼らにとって悪いばかりではなかったのかもしれない。
 そして俺にとっても、これは良い機会といえる。
 気持ちを伝えるフリをして左馬刻に言う『好き』の言葉は、なんだか告白の代用をしているように思えた。左馬刻は不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、俺の顔も見ずに「さっさと言えよ」と言うだけ。形だけの『好き』を鬱陶しそうに聞いている。嬉しそうにしてほしいわけではなかった。左馬刻だって、俺に告白されて嬉しい筈がないだろう。当然だ。……当然の事実を、何度も思い知らされる。そういう意味でも、俺にとってこれは良い機会だった。
 
 
 
「よおテメェら。帰ったぜ」
「カシラぁ! ご苦労さんです!」
「カシラ、銃兎さんがいらっしゃってますよ」
「……ああ」
 ────まただ。左馬刻の気まずそうな顔。俺に好きだと言われることがどうしても嫌なんだろう。それでも好きと言われなければ自分が胸痛で苦しむことになるし、そうなると自分も周りの人間も困ることも理解している。ヨコハマを統べる王たる左馬刻は、本日も仕方なく俺に好きだと言われることを受け入れている。
「テメェら席外せ」
「はいっ!」
「大丈夫ですよ、すぐ済みますから」
「俺様が外せって言ったら外すんだよ。オイお前ら外でも回っとけ!」
 左馬刻は有無を言わせず人払いをしてしまった。舎弟が出て行って静まり返った事務所で「ほら早く言えよ」と、それこそ事務的に言われる。
「……好きだ、左馬刻」
「……お勤めごくろーさん」
 お勤め。左馬刻からすればその程度の意味でしかない『好き』の言葉が、俺にとっては本心と同じ音をしている。だがこの言葉が本心だと左馬刻に気づかれるわけにはいかなかった。
「じゃあ、……また明日来るからな」
「お前、俺様がこうなっちまってからいつもそうやってすぐ帰るじゃねぇか。そんなに俺様と居たくねぇってか?」
「アァ!? そりゃ、……そんなのお前の方だろうが! 毎日毎日イヤそうなツラしやがってふざけんじゃねぇぞ! 最初の時だって俺に好きって言われりゃすぐ目ぇ覚ましたくせに、偉そうに………」
 ドクン、と心臓が厭な拍動を打った。言う相手によって効果が変わる────俺の言う「好き」に目ざましい効果があったのが、単なる偶然ではなかったとしたら?
 偶然でなく、そこに理由があるとすれば。
 理由?
 そんなの簡単なことだ。俺の言葉に、本心があったせいに決まってるじゃねぇか。他の人間とは違う色をした感情が、……本当の「好き」が、左馬刻に効果を齎していたのだとすれば。
 あんなに渋い顔して聞いていた左馬刻に、俺が本心から好きと告げていたことを知られてしまったらどうなるのか、すぐに予想がつく。
 身体の末端から血の巡りが悪くなって、みるみるうちに冷たくなっていくのが分かった。俺の動揺を気配で感じ取ってしまった左馬刻が、喉の奥でくつくつと笑う。

「なぁ……銃兎よぉ。気づいたか? 気づいてんだろ、そんな真っ青な顔して」
「…………ッ」
 頼む。言うな。言わないでくれ。
「分かってんだぜ俺も。ははは、……テメェの言葉が一番効く理由。あんだけ舎弟によってたかって言われても消えねぇ痛みが、銃兎に言われるとスーッと治まっちまう。嘘みてぇに消えんだよ、息するだけで痛てェのに、……分かりやすくて笑えるぜ」
 呆れたように言う左馬刻が、俺の座っているソファに近づく。見下ろされるほど、こわくて仕方なかった。左馬刻も気づいてたんだ。俺の本心に。気づいてたから、あんなに嫌そうな顔をして、人払いまでさせて。左馬刻の胸の痛みが取れるなら、俺はいくらでも好きって言ってやる。だから暴かないでほしかった。テメェの本心なんだろって、そんな感情引っ提げて足繁く通ってきて、気色悪いんだよって、言わないでほしかった。
 左馬刻に俺の本心を知られたらどんな顔をされるのか、それを知るのが堪らなく、こわい。
「……た、……わ、わるかったから……」
「あ?」
「それ以上、来ないでくれ……っ」
 背もたれを掴んで囲うように俺を追い詰めてくる。終わりだ。左馬刻は俺の本心を知ってしまった。もう元には戻れない。俺の気持ちを知った上で、ふざけるなと殴ってくるのか、侮蔑するのか。ソファで縮こまるしか選択肢がない俺は、俯いて固く目を瞑った。
「……ンなに怯えなくてもいいだろうが。別に何もしねぇよ」
 こっち見ろ。言われるままに目を開けると、左馬刻が俺を窺わしげに見ていた。シグナルレッドの瞳の色は逆光のせいで陰って、そのせいかいつもより沈んで見える。苦しげな顔で俺を見る左馬刻の姿に心臓が一度大きく跳ねる。なんでお前がそんな顔するんだよ。
「俺様はな、フラれたからって他人になるつもりはねぇぞ」
「……は…………?」
 今、左馬刻はなんと言った?
 フラれた?
 誰が誰に。
 混乱する俺を差し置いて、左馬刻がまるで自嘲でもするみたいに乾いた笑いを漏らした。
「そりゃテメェからすれば治療の一環で好きって言ってた男がマジで惚れてました、なんつーのは怯えても仕方ねぇ話かもしれねぇけどよ……俺と銃兎の仲だろ。こんなに早く伝えねぇつもりだったし、こんな形でバレちまうなんざ思わなかったけどよ……テメェの声で痛みが消えるって分かった時から、こうなる覚悟もしてたわ。銃兎は頭が切れるし、どうせ遅かれ早かれバレちまっただろ」
「……左馬刻、」
「言うな。分かってんだよ」
「………」
「なぁ、銃兎に言われた好きを真に受けてニコニコ喜ぶほどバカじゃねぇぜ俺様は。テメェが治療のために好きって言ってくれてんのは俺だって分かってる。でもこうやってネタ割れちまったからなァ……俺様の失恋決定だわ。くそっ……マジで腹立つぜ、全部めちゃくちゃにしてくれやがってクソ蟲野郎ども…………壊さねぇように大事にとっておこうと思ってたのによ、好きなやつ怯えさせて、拒否られて、ザマァねぇな」
 俺が好きだと言えば、簡単に痛みは消えるはずだった。しかし左馬刻は痛みを堪えるように笑う。何度治したところで消えずに締めつけてくる胸の痛みが、深く根を下ろしていた。恋を隠していると胸が痛むことを、俺も知っている。暴かないでほしいと、そう思っていたのは、俺も同じだったから。左馬刻は痛いはずなのに、痛いとは言わずに黙って俺の髪を撫でた。
「……銃兎。俺様はフラれちまったけどよ、失恋したってウサちゃんのことはこれからも仲間として大事にすっから。だから俺から逃げるとかはナシにしろ。そんで、コレが治るまでは好きって言ってくれねぇ? やっぱりテメェに好きって言ってもらえンのが一番効くんだわ……報酬は出してやっから」
「…………」
「銃兎?」
「報酬……何でもくれるのか」
「おお、何でも言えよ」
「……これから先もお前に好きだって言わせろ。治療だとか関係なく……俺が世界で一番好きな男に好きって言える権利がほしい」
「! お前それって、……は、いや、マジか、……信じらんねぇ」
「報酬なんでもくれるんだろうが! ずっと痛そうな顔しやがって、俺にばっかり優しくして、そんなとこ見せられたらもっとお前のこと好きになるに決まってんだろふざけんな! 俺が、左馬刻の痛てェの全部なくしてやるから……!」
 勢いのまま口づけた理由は、もはや治療の一環でもなんでもなかった。左馬刻は面食らった顔をしていたが、好きだと言われた時と同じですぐに元気になる。顎を強く掴まれて逃げられなくされた。閉じている口を開くのを促すように、何度も柔らかく食まれる。解れる緊張と一緒に薄く開いた唇の隙間をヌルヌル撫でるように濡らされて、ついに捻じ込まれてきた熱い舌を迎え入れた。左馬刻の舌の厚みとか感触とか、覚えさせるみたいに舌が絡みつく。舌の表面同士をくっつけて、ざらついた表面を擦り合わせるのが、ひどく気持ち良い。
「んん! っふ、ぅん……ッ、」
 気持ちいいし、自分からキスしたくせに応えられると恥ずかしくなってきた。知ってる左馬刻の知らないところを知って、なんだか逃げたい気になる。怯えて引けていく俺の腰をがっちり腕で支えると、左馬刻は角度を変えて何度もキスをした。上顎を舐められると鼻にかかった声が勝手に漏れるし、優しく舌を吸われると、痛くはないけれどゾクゾクした感覚が背筋に走る。
「ぁ……っ」
 ちゅう、と甘い音を立てて唇が離れた時には、俺の身体はくったりと力が抜けていた。唾液に濡れた唇を親指の腹でぬぐわれる。その仕草が色っぽくて、顔が熱くなった。────左馬刻とキスしたんだ、俺。
「なぁ、銃兎。これからも俺様に好きって言ってくれんの」
「ん……」
「テメェのそういうツラ見てるとよ、またキスしたくなんだよなァ……」
「ぁ……」
 もう一度キスをされて、もっと、とねだるように首に腕を回した。
「ん、っふ……ぁむ」
「……は……ンなかわいい顔しやがって」
 唇を甘噛みされて、思わず目を瞑った。噛まれたところを舌で優しく舐められて、またちゅうと吸いつかれる。気持ち良くて頭がふわふわして、身体の芯が熱くなる。ゾクゾクした感覚が背筋からじわじわと広がり腰まで下りてきて、力が入らない俺はただソファに沈み込むしかない。
「っオイ左馬刻、」
 いやまずいだろ普通に。受け入れるうちにごく自然にソファへ押し倒されていた。さすがに焦る。おい待てここはお前の事務所だろうが────咎めるために唇を離したが、左馬刻が嬉しそうな顔をしていたから勢いが削がれて、何も言えない。そのまま首筋に吸いつかれる。そんなところ吸ったらダメだ。なあ、まずいって、これ以上はやめろ。俺がそんな言葉を言おうとするのを分かっているのか、左馬刻が全部キスで黙らせてくる。
「ん……っ、んん、っふ」
 はだけられたシャツの中に手が入ってきて、腹の上や脇腹を探られる。左馬刻にキスされると力が抜けて、されるがままになってしまう。気持ちよくなってる場合じゃないのに。このまま流されてたまるかと抵抗しようにも、身体がうまく動かない。言うまでもないが、柔らかさも弾力も薄い男の身体だ。それなのに手のひらで味わうように触ってくる左馬刻の手つきをいやらしく感じてしまい、だんだん息が上がる。
「はぁ……っ、はぁ、さま、とき」
「もぞもぞしちまうンだろ」
「ん……ッ」
 吐息交じりの低い声が耳元をくすぐる。熱いのにぞくんとして、身震いしてしまう。脇腹を撫でていた掌が胸に上がってきて、乳首をきゅっと摘まれた。ぴくんと肩が跳ねてしまう。左馬刻は楽しそうに笑って、俺のそこを指先で捏ねたり引っ張ったりしてきた。
「ァッ、……だめ、何して、そんなとこっ」
「ちょっと触ってるだけ。な」
 すりすりと乳首をさすられ、甘い刺激に耐える。胸の先を弄ばれながら再び唇を重ねられて、唾液が混じり合う音に鼓膜を犯される。じゅる。くちゅ。ちゅくちゅく。漏れる水音に、左馬刻と何をしているのか意識してしまう。
「ぅう……っ」
「ンだよ、嫌がんなよ」
「だって、……もう、だめだ……こんな…」
 舌絡ませてキスしながら乳首弄られるの、すごく恥ずかしい。左馬刻の顔を見ることができなかった。目を閉じて視界から追い出すと、耳元に荒い吐息がかかる。
「……好きだぜ、銃兎」
 まるで脳髄に染みこませてくるような声音に、ぞくりと背中が震えた。左馬刻は本当に狡い。こんな風に言われて、俺が拒絶できるわけがないと知っているんだ。左馬刻が俺のことをどう思っているかなんて知りたくなかった。だけど今は違う。俺は左馬刻が好きだと告げて、左馬刻も応えてくれた。左馬刻の痛みを消せるなら、この先の行為も受け入れてやりたい。
 治療の一環で毎日顔を合わせて好きと告げるのも、請われたからって誰にでもしてやることではない。左馬刻だから。左馬刻を助けてやりたかったからだ。俺はこいつに命を救われたから。左馬刻のことが、好きだから。改めて自覚した瞬間、心臓が高鳴る。今まで経験したことがない感覚。ああ、どうしたらいいんだ、こんなの。左馬刻に頬を撫でられて、ゆっくり目を開けると、不安げに揺れる瞳とかち合った。
「銃兎……嫌かよ」
「……なんて顔してるんだ。別に嫌とは言ってねぇし、ただ今じゃなくても良いだろって話で」
「俺様は待てねぇ。銃兎が俺のこと治療のためじゃなくて本気で好きって言ってくれてンの知っちまったから、……んなこと聞かされて、もう我慢できねぇよ」
 長い睫毛を伏せて俺の許しを待つ姿は狂犬とはよっぽど似ても似つかなかった。左馬刻の周りには、俺なんかよりずっと魅力的な女がいるはずだ。どうして俺を選んでくれたのか。俺が左馬刻とセックスしたくないと言えば、左馬刻は優しいから触れてくれなくなるかもしれない。それを想像すると、ひどく寂しく思えてしまう。左馬刻が他の知らない誰かを抱くのかもしれないなんて想像するだけで、無味の乾いた砂のようなものがぎしりと詰めこまれたみたいに、胸が苦しくて虚しい気分になる。
「……銃兎の”好き”は本気じゃねぇから喜ぶなって、本気にしちゃ困らせるだけだって、すげぇ抑え込んでたんだぜ? 今だって、……ウサちゃん悪徳警官のくせに優しいからよぉ、俺様のために嘘つき続けてくれてんじゃねぇかって」
「好きに決まってんだろっ! お前が、左馬刻が、本気で好きだ……!」
「!」
「これから先もって……そう言っただろ。嘘じゃない。信じろよ。ちゃんとお前に惚れてるんだ……」
 うまい言葉が見つからない。それでも、俺の好きって言葉は本心からだって伝わってほしかった。信じてほしい。俺が必死な顔をしていたせいか、泣きそうな顔をしていた左馬刻は気の抜けたように笑った。それから俺の肩口に顔を埋めるとしばらく動かなかった。
「……左馬刻? どうした……?」
「うるせぇ」
「! もしかして、また胸が痛てぇとかじゃねぇよな……?」
「バーカ。……痛くねーよオカゲサマですげぇグっときちまったンだわ責任取れよ銃兎ぉ……」
 ぎゅうと抱きしめられる。俺も同じように抱きしめ返した。左馬刻の匂いに包まれると、安心すると同時に身体の奥が疼いた。さっきみたいに、いやらしく俺の身体を撫でてほしい。もっと色んな左馬刻を知りたい。自然と下肢に手が伸びていた。左馬刻は抵抗しなかった。ゆるゆると撫でても何も言われない。代わりに俺の身体をなぞるような動きが再開され、ぷくりと膨らんだ乳首を転がされる。
「あ……っ」
「ここ、気持ちイイかよ」
「……ん」
 耳元で囁かれるとぞくりと背筋が震える。ちくび、さすられて、捏ね回されるだけじゃ、足りない────もっとして、左馬刻。俺の期待が通じたのか、乳首への愛撫を続けながら、左馬刻の手が徐々に下がっていく。左馬刻の指先が、つぅと臍の下まで降りてきた。際どい場所に触れられる予感にびくんと腰が跳ねる。左馬刻に触られていると思うだけで興奮して、腰を押しつけるように揺らしてしまう。
「……発情期か? ウサちゃん。」
「お前のせい、だろうが……はやく…っ」
「……そうだな、俺のせいだよなァ。俺のこと好きすぎてエロくなってんの可愛すぎんだわ……マジで俺以外にそういうことすんじゃねぇぞ」
「……しねえよ、馬鹿野郎」
 俺だってお前以外の男に触らせたくないし、触られたくない。そう言ってやると左馬刻は満足げに笑ってから、俺のベルトを外しはじめた。
 
 
▷ ▷ ▷
 
 
「指、増やすぞ」
「んぅ……はぁ……ぁっ……、ふ……」
 左馬刻が指を動かす度に、俺のものとは思えない甘えた声が漏れてしまう。ローションで潤うほど濡らされた後ろの穴は、左馬刻の長くて綺麗な指を三本も飲み込んでいた。最初は違和感しかなかったが、徐々に気持ちよくなってきた気がする。俺が快感を感じていると分かるのか、左馬刻は執拗にそこばかり責め立てた。指の腹で優しく抉られ、ぐり、と奥まで押し込まれる。
「ぁあぁっ! ……はぁ、ぁ、はぁ……はぁ」
 びく、と跳ねた性器の先端からどろどろと液体が溢れ出る。左馬刻に可愛がられるほど気持ち良くなって、頭の中がふわふわしてきて、何も考えられなくなる。溢れた白っぽい体液まで、俺の穴に塗り込めて掻き混ぜられた。
「……ウサちゃん、もうちっとだけ我慢しような」
「ひッ、ぁあ……! さまとき、もう……いいから……」
「駄目だろ。怖い思いさせたくねぇ」
 左馬刻が俺の中を解している間、俺のものは萎えるどころか反り返るほど勃起していた。左馬刻の熱くて硬いもので擦ってほしい。左馬刻のもので貫いて揺さぶられて、めちゃくちゃに犯してほしい。こんなことを思うなんて、俺は本当におかしくなっている。左馬刻が欲しい。左馬刻は今どんな顔をしてるんだろう。視線を上げると目が合って、優しく微笑まれた。
「ぅあ、……んっん、や、」
 その笑顔を見た途端、きゅうきゅうと穴が締まる。恥ずかしくて目を逸らすと、左馬刻がくつくつ喉を鳴らした。
「可愛いぜ、銃兎。俺だけのもんだな」
「ぁっ、ぅんん」
 左馬刻の言葉に身体が反応してしまい、また締めつけてしまった。
「エッチで可愛い俺様のウサちゃん」
「……ッ、や、ぁ、ばか! もう言うな……!」
「あ? 好きな奴は甘やかしてぇだろ」
「うう……」
 ストレートすぎる言葉に顔が熱くなった。左馬刻の方からも俺を好きだと言われて、嬉しくて幸せな気持ちになる。もっと左馬刻を喜ばせてやりたいと思った。
「左馬刻……、もう挿れていい……我慢してるんだろ……?」
 左馬刻の性器が固く張り詰めているのは、服の上からでも分かる。早く中に入りたいと訴えているように思えた。
「こわくなんかねぇよ……抱いてくれ、俺のこと……左馬刻」
 恥じらいを捻じ伏せて、誘うみたいに脚を開くと、左馬刻が息を飲む気配があった。ずるりと指が引き抜かれる。喪失感に身体が震えたが、熱い塊が押し当てられた。左馬刻がゆっくりと入ってくる。苦しいけど、嬉しい。ようやくひとつになれたんだ。一番太い部分が入ったところで動きを止めて、俺を見下ろしてくる。
「さまとき……」
「……じゅーと」
 汗ばむ額や首筋を拭われて、前髪を掻き上げられて、唇を塞がれた。舌を絡ませながら、ゆっくりと気遣うように揺さぶられて、体温の重なる幸福感と気持ちよさに涙が出た。あんあん喘ぐ男の声なんて聞いていて面白くないだろうに、左馬刻は興奮してくれた。だんだん綻んで、ストロークが深くなる。奥まで突かれる度、腹の奥がきゅんきゅんとうねる。左馬刻のものを離さないと言わんばかりに絡みついて、形を確かめるみたいに包み込む。
「はぁ、んん……! あっ、ぁっ、ぁ!」
「……っ、わりぃ、俺も余裕ねぇ……銃兎ッ」
「あっ! ぁぁ、ああ、うぅ、あっ……あぁっ」
 腰の動きが激しくなる。ぱちゅんぱちんと小さな水音が漏れて、左馬刻が二人きりにしてくれたの、正解だったなと今更思った。こんな淫らな行為に浸る予定じゃなかった。違法マイクの効果にアテられた左馬刻の治療をする。それだけでよかったはずなのに、想いが通い合って、俺は欲深くなってしまった。左馬刻が好きだ。もっと触れたい。もっと知りたい。もっと求めてほしい。できることならずっと俺だけを好きでいてほしい、なんて。左馬刻の背中にしがみつく。爪を立てないように気をつけないと、と思っていたのに、そんな配慮なんか忘れてしまうほど夢中だった。俺の身体で気持ちよくなって、左馬刻が絶頂を迎える瞬間の顔が見たい。快楽に耐えている顔がたまらなくセクシーだ。
「さま、すげぇ、かっこいい……♡ ぁあっ、ああっ、あぅっ、あっ……♡」
「ッ、おい、煽んじゃねぇよ」
「あっ、あぁっ、だめ、イく……いっちゃう……っ、あ♡ はぁっ、ぅうん……!!」
 びくん、と全身が跳ねた。目の前が真っ白になって、何も考えられなくなる。頭の中で何かが弾けたような感覚があって、意識が飛びそうになった。ナカに熱いものが広がる感触。左馬刻も、達してくれたんだと分かる。

「……ぁ、さまとき……」
「じゅーとぉ。……へへっ」
「ふふ、なんだ、どうしたんだよ急に」
「………いや、クソみてぇなマイクの効果なくなっても俺様のこと好きって言ってくれンだろ……それって、なんつーか……スゲェなって思ってよ……」
「はは、スゲェなって、小学生かよ」
「うっせ」
 どこも痛くなくなった顔で無邪気に笑う。そんな嬉しそうに笑ってくれやがって、俺の方こそスゲェなって思うよ。やっぱり俺の声が一番効くだけあるな。
「銃兎、俺様もテメェと同じだけ……それよりもっと色付けて言ってやっから」
「俺に治療は必要ないぞ……?」
「ふざけんな、俺の好きだって全部本気だわ。治療のお返しじゃねぇぞコラ、必要ねぇとか言いやがったらタダじゃおかねぇ。全部きっちり受け取れや」
「……そうか……ふふ、好きって言いながら脅してんじゃねぇよ」
 不本意を丸ごと表したみたいな顔で睨まれて、愛しいなという思いが湧き上がった。
 舎弟が戻って来る前に後処理して服を着るのが、この状況においてせめてもの正しい行動だろう。左馬刻は上半身が裸で、俺は辛うじてシャツを羽織っているが下半身が完全に裸だ。靴下は履いているが大して慰めにもならないだろう。よろしくない、どころか舎弟に見られたら即効アウトで言い訳がつかない。マル暴の刑事としても入間銃兎っていう一人のプライドが高い29の男からしても、左馬刻以外の有象無象に恥ずかしい格好を見られるのは全く本意ではない。ないんだけれども。
「銃兎、」
「左馬刻……」
 お互いに名残惜しさが勝った結果、リスクを取ってでも繋がったままイチャイチャすることに没頭した。唇と唇で柔らかく食みあうようなキスを交わすと、それだけで心が満たさる。なあ左馬刻、俺の胸が痛かったのも治ったみたいだよ。今まで随分と痛んでたんだが、あっけないもんだ。