左馬刻は山田一郎が好きだと思ってるウサちゃんの話 - 2/4

 大衆向けのステーキ屋だった。
 胸糞悪いイケブクロでの仕事帰りだ。このままさっきとヨコハマ帰っても良かったが、腹減ったし小腹でも満たしてくかと思って。そうしたらカウンターでスタミナステーキ食ってるコイツに出くわしちまった。スタミナステーキ、ねぇ。テメそこはサーロインだろ。みみっちいモン食いやがって。
 俺様はサーロイン一択だ。これ見よがしに店で一番高い肉を注文して、カウンターの隣にわざと座った。睨んでくるから睨み返した。
「おい、なんで横座るんだよ嫌がらせか」
「あ? どこ座ろうが俺様の勝手だろ」
「はっ、アホ刻は空席ってモンが見えねぇんだな」
「ア? ブッコロすぞ」
「サーロインステーキ300グラムお持ちしました!」
 すぐに来る。楽で良いな。ただ一郎に自慢するためだけに注文した肉を切り分けて食らった。こないだハマでアイツらと食ったステーキの方が柔らけぇしうめぇなと思う。
「折角の飯がまずくなるぜ」
「安い肉食ってんからだろ。俺様はメチャクチャ旨ぇけど?」
「ア? テメェスタミナステーキ馬鹿にしてんのか? お店の人の工夫が詰まってんだぞ」
「店じゃなくてテメェを馬鹿にしてんだよ」
「左馬刻ィ……」
「サーロインステーキ200グラムお持ちしました!」
「は? まだ食うのかよ」
「このガキんとこ置いてくれ」
「…………」
 目の前に置かれたこの店で一番高い肉を一郎はじっと見ていたが、渋々、ホントにマジで渋々、みてぇな顔してモグモグ食いだす。みみっちいステーキの皿は既に空だった。
「……スタミナステーキの方が俺は旨いと思うし、夕飯前にこんなに食ったら飯が食えなくなんだろ。マジでアホ刻だな」
「チッ、可愛くねぇクソガキだ。奢ってやってんだから文句言わず食えや。昔は奢りっつーと目ぇキラキラさせてやがったくせになぁ」
「う、うるせぇな。どうせロクでもねぇことで稼いだ金だろ」
「他になんかあんのか? ……はっ」
「ンだよ急に笑って。なんの連絡だ?」
「あ? 俺様がいねぇから寂しがってんだわ、ウサギがよ」
「アンタとつるんでるせいで苦労してんじゃねぇか?」
「テメェだって弟二人に振り回されることくらいあんだろ」
「良いんだよ、仲間なんだから」
「そのセリフバットで打ち返すわ」
 2枚目のステーキを食える腹の空き具合だったのか分からんが、一郎も俺様もきっちり食い終わってから店を出る。
 
 
 
「テメェのせいで二郎と三郎の作ってくれたメシがお代わりできなくなっちまうかもしんねぇ。どうしてくれんだ」
「知るか。……腹減らすならスクワット5000回したらマシになんぜ。山登ったあとによ」
「は……? 誰がそんなことすんだよ。そこまで必死に腹減らすことなんてあんのか」
「ア? どうしても食わなきゃならねぇ時があんだよハマの常識だ」
「どういう状況だよ」
「うるせぇ」
 テキトーなところで別れよう。陽が傾いてきたし、今イケブクロに居るわって連絡したら銃兎がメッセージに返信寄越さずダンマリ決めこんでるから、さっさと顔が見たかった。機嫌取ってやるなんてガラでもねぇけど、銃兎は特別だ。どっか虫の居所悪ィならメシか酒かコーヒーで治るだろ。

「お前、やっぱり変わったよな」
「ア? そりゃテメェの方だろ」
「! すげぇ、銃兎さんから着信きてる……! はい、俺です……けど……ああ、まぁ一緒に居ますよ。代わります? ……え、そうスか。……帰らなくても良いって、勘弁してくださいよ。俺じゃ左馬刻の面倒見きれねぇって……そうっスよ、……分かってるから電話してきたんですよね? ……ははは、そうか。あ、はい、じゃあまた」
「……ンだアイツ、テメーのリーダー様の声は聞きたくねぇってか?」
「部屋でヤケ酒してるみたいだった。……さっさと帰ってやれよ。なんなら萬屋ヤマダが行ってやろうか?」
「ふざけんな。つかテメェ銃兎といつ仲良くなりやがったんだ? 認めてねぇぞ」
「別に認められる必要ねぇだろ。ブクロいんの知ってたみてぇだけど、アンタに電話して迷惑かけたくなくて俺にかけてきたんじゃねぇか、多分」
「左馬刻さんだろダボが。ったくしょうがねぇな、俺様がほったらかしてるとウサギがナキウサギになっちまうじゃねーか」
「へぇ……? あの人が酔ってんの、見たことねぇけど……ちょっと可愛いかったり」
「はぁ?! べっ別に全然可愛かねぇわオイ二次元じゃねぇんだぞ! 飲めば普通に酒臭せぇし勝手に俺様のウイスキーバカスカ飲んでんだろうし、ワガママでムカつくし手のかかるウサ公だわ」
「は? ……警察がヤクザのマンションいんのかよ、家主いねぇのに? ……アンタら仲良いんだなマジで」
 当たり前すぎて鼻で笑った。
「テメェんとこも仲”は”良いだろ。せいぜい腕磨いとけ」
「へっ、こっちのセリフだ」
「ケッ、じゃあな。奢ってやったんだから感謝しろ」
「勝手に奢ったんだろありがとよ!」
 言い捨てて反対方向へ歩き出す。まぁな。
 お、銃兎から返信こねぇ代わりに理鶯から着信。直ちに帰還せよってか。