左馬刻はかつて仲間だった山田一郎と和解できたらしい。左馬刻は一郎くんと遊びに出かけたりするんだろう。左馬刻と一郎くんはラップのスタイルは勿論、人好きされるところも似ている。もちろん俺が仲間だってことには変わりもないし、そこに関しては代わりもないだろうが、一郎くんと和解できたということは、俺からは、今より少し離れていくんだろうな。
これから訪れるだろう先の日常を考えて、らしくもないが寂しく思っていた。
だが左馬刻は以前と変わらず休日の予定を聞いて押さえにくるし電話してくるし飲みにも誘われる。想定していなかった状況だ。
不思議だな、どうして左馬刻は俺と一緒に居ようとするんだろうか。
誘われたら仕方ねぇな全くって余裕のある年上のフリをして、いそいそ支度してしまう。左馬刻の淹れるコーヒーも、作ってくれるメシも、他愛ない会話も、居心地が良すぎて困る。もしかしたら左馬刻は一郎くんを誘っているのにフラれたりしてるんだろうか。そう考えると合点がいった。もしくは、左馬刻は本当は一郎くんと会いたいのかもしれないが、素直になれずに連絡できない────ああ、これもイイ線いってるんじゃないか?
「おい聞いてンのか銃兎」
「え……? あぁ、すまん。えっと……」
「ったく何度も言わせんじゃねぇわ。たまにはお前からも誘えって……いっつも俺様ばっかりじゃねーかよ」
拗ねた口調で言うもんだからつい笑ってしまったら睨まれた。まるでほったらかしにされて機嫌が悪くなってる恋人みたいなセリフだ。俺相手にもそんなこと言うなんて、左馬刻は本当に可愛いやつだと思う。
でもまぁ、そうだよな。確かに最近は左馬刻に誘われてばかりいたかもしれない。左馬刻に俺から連絡してみるのもいいだろう。
とはいえさっきまで考えていたことも大事だ。
左馬刻だって、好きな相手とデートの一つや二つしたいだろう。クリスマスを理鶯と三人で過ごしたばかりだし、このままだと年越しも今日みたいに俺の家に入り浸るし、初詣も銃兎と行くって言い出しかねない。左馬刻に好きな相手がいるとは聞いたことがなかったが、素直になれない左馬刻の為だ。年の瀬なんだから最後くらい、俺が年上らしく気を利かせてやったらいい。
「……そうですね。では一郎くんに連絡しますから」
「は……? オイなんで一郎が出てくンだ。まさかとは思うがテメェ一郎には連絡取ってるとか言わねぇよな……? 俺様差し置いてそんなワケねーよなァ?」
ソファで寛いでいたはずが途端にドス黒いオーラを放ち出した左馬刻にスマホを取り上げられた。眉間のシワが掘り深く刻まれ、この感じは誰がどう見てもマズい。そもそも左馬刻と一郎くんが仲良くなる計画のはずなのに、左馬刻を差し置くとか何の話だ。どうして左馬刻がキレる必要があるのか全く分からない。そう思ったものの、これ以上刺激すると本気でヤバそうな気がしたので口を閉じる。
すると勝手にメッセージアプリを開いた左馬刻は、あろうことか俺のスマホから山田一郎のトーク画面を開きやがったのだ。ここ最近のトーク画面としては平和な世間話か、ささやかな挨拶程度しか表示されていない状態だったのに「スタンプが気に食わねぇ。アイツにウサギのスタンプなんか送ってんじゃねぇよ可愛いモン送りやがって。スタンプが減る」とか難癖をつけてきた。いいだろ別に!スタンプは減らねぇよ!
「何やってんだよ全く……返せって」
「…………」
「無視すんなっ! 人のモン勝手に操作すんじゃねぇよ!!」
無言のまま何か入力している様子だったので慌てて取り返した。が。
────『俺の銃兎に何かしたら殺す』って、ちょっと待て!! もう送信しちまったのか!? 嘘だろふざけんな!!
焦る俺を完全スルーしやがった左馬刻は、何故かドヤ顔。ニヤリと凶悪な笑みを浮かべて親指を立てた。そしてそのまま親指を首の前で横に引いてみせる。さながら山田一郎へ宣戦布告でもするような────勘弁してくれどうしてこうなっちまうんだ。ホラ見ろ既読ついちまったじゃねーか。いや見るな電話かかってきちまったから。